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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第2章 もしかしてアイドル!?

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209 アイドル養成所

 アイドル、それはショービジネス界に輝く綺羅星のごとし。

 王都劇場内に設けられたアイドル養成所。そこは将来のアイドルを夢見る少女達が集う夢と希望に満ち溢れた場所である。


「…………」


 はて? そもそもアイドルって何ぞや? 少女歌劇団とどう違うの?

 それは私にも分からない。

 世の中にアイドルという存在が認識されていないため、多くの市民には王国座の少女歌劇団の人気に対抗して、王都劇場が同様のものを設立したのだと思われているらしい。

 格式ある王都劇場が堕ちたものだと嘆く年配者がいれば、カビの生えた伝統からの脱却だと歓迎する若者など、世間の反応はまちまちである。


 何はともあれ、私はバイト代に釣られ、アイドル養成所に体験入所することになったのだが、体験であっても無条件で誰でも受け入れるというわけでは無いらしい。最初に指定の書類を提出、条件を満たした者だけが体験入所を許される。ここでの基準は主に年齢と性別、更に業界関係者の推薦状が必要らしい。あまりの年配者や乳幼児、男性、身元のはっきりしない者はお断りということだ。


 うーん、前世の記憶では男性アイドルも大勢いたのにね。


 大飛少年が感銘を受けたという異国の書物に登場するアイドルが女の子二人組だったからなのか、それとも巷で人気の少女歌劇団に影響されたのか……。

 まあ、それは置いといて、私なんて面倒な書類審査を行うくらいなら、最初から条件を提示しておけばいいのにと思うんだけど、そんなことを菊子に言ったら、文字の読めない人や、条件に合わないことを承知の上で押しかける人も多いのだとか。伝統ある王都劇場の舞台に立ちたい人がそんなに大勢いるとは……、王都劇場を嘗めてました。申し訳ない。

 で、私の申込み書類については、いつの間に用意したのか、菊子が劇場側に既に提出済みだった。そして日をおかず、直ぐに体験入所の案内が届き……、このタイミングの良さ、絶対に私が引き受ける前提で申込みしていたよね。

 こうして私は、菊子に踊らされるまま、一日体験入所をすることになったのだった。


「ん? ()()体験入所?」


 そうなのだ。体験入所は一週間程度なのかと思っていたのだが、休日の一日だけなのだ。

 う、収入の目論見が……

 なにはともあれ、私はアイドル養成所に体験入所することになった。


 体験入所当日―――

 勝手知ったる王都劇場、ここはこの間まで毎日のように通っていた場所である。入り口の警備員にも顔パス……とはならなかった。どこまで影薄いんでしょうね、私。

 さて、気を取り直してアイドル養成所体験である。

 まず体験入所者は運動着に着替えて、レッスン場に集合。

 私は持参した芋ジャージに着替える。このジャージは魔法学院の支給品で、剣術の講義の時に着用するものだ。襟から胸に掛けてのファスナーを下ろし、頭から被るタイプで、臙脂色の誰が見てもダサダサな芋ジャージである。ちなみに学院のお坊ちゃまや、お嬢ちゃまは各自素敵な運動着を用意しており、この芋ジャージは貧乏人の証でもある。今後の貧しい入学生のためにも、せめてデザインを変えて欲しいものである。

 この場に集められたのは、二十名程度。どうやら体験入所者だけのようで、正規の入所者である研修生はいないようだ。

 まずは劇場周辺を走り込み(ランニング)。体験入所なのでかなり距離は短いらしい。続いて、柔軟体操(ストレッチ)。私には百八十度開脚や身体を二つに折りたたむなんて無理。それから発声練習。


「あーあーあーあーあー、あーあーあーあーあー、あーあーあーあーあー……」


 あれ? これって菊子と毎朝やっているのと同じ?

 違いと言えば、発声練習にピアノの伴奏がついて、謎の呪文を唱えないことくらいであろうか。

 発声練習が終わると、各々一曲ずつ歌を披露することになった。皆アイドル志願であると思われるが、上手いのから下手なのまでまちまちである。


「あ、またこの曲……」


 ピアノが何度も同じ曲を奏でる。少女歌劇団のトップスター、君影鈴蘭の『朝靄よ、今朝もメルシーボクー』を歌う者が多いのだ。今、巷で大流行ではあるけれど、ライバル劇場所属の歌手の曲を歌うってどうなのかと思う。

 そして私の番が回ってきて一曲披露。歌うのはもちろん、カトレア蘭子の『愛のロマンス横町』である。まあ、この曲を歌う者も多いんだけどね。私も人の事言えない。この曲は菊子が良く歌っていて、そういえば、杏子も前にここで歌っていたっけ。とても同じ曲とは思えなかったけれど。

 ピアノの伴奏が始まり―――


「〜〜今日も〜あなたとすれ違い~~ああ、愛のロマンス横町~~~♪」


 一番の最後まで歌い終え、一礼。

 うん、我ながらなかなか良い出来ではなかろうか?

 でも室内には静寂が満ちていた。みんなの視線が私に向けられ、歌の先生も口を開けて私のことを凝視している。


「え? 何?」


 私の歌、変だった?

 音痴は自分では気づかないと言うけれど、まさか杏子のこと笑えない程下手だったとか? でも、未来のスター、雛菊(デイジー)のお墨付きだし、大丈夫……の筈…………だよね。

 奇妙な余韻を残して体験入所者の歌の披露は終わり、お次は踊り(ダンス)の練習。踊り(ダンス)と言っても、馴染み深い日本舞踊や社交ダンス、バレエではなく、ピアノに合わせ先生の動きを真似てドッタンバッタン……何だろこれ? 創作ダンス?

 右腕をビョーン、左腕をビョーン、右足蹴り上げ、そこで回転(ターン)。先生には「格闘技みたいね」と言われました。まあ、本日の参加者はどれも似たり寄ったり。

 そして、一日入所体験はこれにて終了。

 内容的には特段変わったことは無かったように思う。歌手の場合、踊り(ダンス)のレッスンはしないだろうけど、“おもいで精霊”の記憶にあるアイドル養成所だと思えばいたって普通の内容だろう。菊子には特段報告することも無いな、なんて考えていたら、私を含め数名が王都劇場のスタッフらしき人に呼ばれた。


(あざみ)さん、椴松(とどまつ)さん、えっと……如月さん? 少しよろしいですか?」


 手にファイルを持ったお姉さんが私の名前を呼びながら、私の顔を訝しげに見る。まあ、いつものこと。


「本日の体験入所お疲れ様でした。お三方につきましては、先生方も才能があると大変褒めていらっしゃいましたよ。本日一日だけの体験入所だけでは、勿体ないと思いまして、どうでしょう、仮入所ということで一ヶ月間養成所に通ってみませんか?」


 私の隣にいた二人の少女、薊さんと椴松さんの顔がぱぁっと華やぐ。そうだよね。体験入所するってことは、彼女達はアイドル志望なんだよね。多分、アイドルが何か分かっていないだろうけど……うん、私も分かっていない。

 でも一ヶ月延長かあ……と言うことは、もしかして一ヶ月分のバイト代がもらえる? これは、菊子に聞いてみなくては!

 担当者のお姉さんは養成所のカリキュラムについて説明をしている。毎日通う必要は無く、平日は夕方の二時間程度、土日は終日、歌や踊りの先生が持ち回りでレッスンしてくれるらしい。二人はスターを目指しているので、毎日でも通うようだ。私は菊子次第かな。

 その場での回答は保留。

 と言うわけで菊子に話したら、一ヶ月間通うことになった。ただし、バイト代の条件は見直され、固定給に変更になった。それでも私には結構な金額である。

 私はアイドルになる気なんてサラサラないので、部活感覚でゆるめに参加。まあ、自治会の仕事もあるので毎日通うのは初めから無理なんだけどね。


 でも何で影が薄いと言われる私が選ばれたんだろう?


 絶対アイドル向きじゃないよね。

 兎に角、貴重な収入源だ。張り切って潜入捜査(スパイ)させていただきます。

 そして仮入所初日、まずは先輩達、既に養成所に通う正規の研修生にご挨拶。


「ん?」


 何だか違和感。ここってこんな感じだったっけ?

 リスト作りに通っていた時に偶に覗いていたけれど、その時と何だか雰囲気が違う。以前はそう、もっとこう、華やいだ感じがあったのだが、以前に比べ何だか垢抜けない印象がある。


 人数も何だか減ったような……


 私は首を捻りながらも、渡された一ヶ月間の予定表に目を落とす。そこには週一で『剣術』の文字が……


 ああ、やっぱりやるんですね。


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