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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第2章 もしかしてアイドル!?

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206 アイドルとは……

「あ、来た来た、あんずちゃん。……じゃない」

「あれーっ、あんずはぁ?」

「何だぁー」「はずれーっ」「コイツかよー」


 私が自治会室のドアを開けると、集中する視線と盛大な息に出迎えられた。


「杏子じゃなくて悪かったね……(ボソッ)」


 これは流石に悪態を吐いても許されると思う。

 何故か緑の髪の人と大飛少年が自治会室に居る。他には日向会長と紫苑先輩、ついでに未だに度々顔を見る三馬鹿先輩。また来てたんですね。


「ん? 何か言った?」

「いいえ、何も……、(きょ)…佐倉さんは補講なので、今日は自治会には来ないですよ」


 今日は杏子の補講の日だ。最近杏子が補講をサボっているとかで、講義終了早々、教師に連行されていったのだ。


「えーっ、なーんだ。じゃ、解さーん」「日向君、じゃねー」「またねー」

「先輩達、もう来なくていいです」


 ウンザリしたような日向会長の声に見送られ、三馬鹿先輩が戸口に突っ立っていた私を押しのけて自治会室を出て行った。


「残念だなぁ……あんずちゃんに会いたくて、久々に自治会に顔を出したというのになあ」


 室内では、緑の髪の人がぼやいている。そもそも彼は何でここに居るのだろう?

 私の疑問に答えるように日向会長が口を開いた。


「ああ、紹介するよ。この緑頭は三年の受崎(うけざき)海棠(かいどう)。滅多に姿を見せないが、一応自治会役員だ」

「おい日向、人を幻の生物のように言うなよ」


 ああ、そういえば、自治会は攻略対象の巣窟だった……そうだった。

 何たるご都合主義!

 まあ兎に角、これで攻略対象は出揃った。果たして、杏子は誰を選ぶのだろうか?

 私のためにも、是非ノーマルエンド以外でお願いします。


「似たような物だろ。お前は自治会どころか、講義にすら碌に顔を出していないのだろう?教授陣が嘆いていたぞ。魔法学院とはいえ、いい加減にしないと退学だな」

「お、退学いいね。そうなったら、劇場に入り浸るさ」


 受崎先輩が長い足を組み替え、椅子に身体を預けると、緑の前髪を掻き上げる。


「毎度ご贔屓にどうも。これからも良い演目を掛けるからよろしく」


 ここぞとばかり大飛少年が営業活動する。今でも十分、入り浸っていると思うのだが……、これ以上入り浸ったら、劇場に住むことになるのではなかろうか。きっと、王都劇場の怪人と呼ばれるようになるに違いない。


「と、言うわけでヨロシク」


 受崎先輩が私にウインク。流石遊び人、一応私相手にも手を抜かないようだ。


「あ、はい。如月明日葉です。えーっと、よろしく?」

「おい、受崎、可愛い子だからといって風紀を乱すな」

「はいはい」


 ホント、日向会長の二つ名が“学園の王子様”だけあると思う。こうして私にすら気を遣ってくれるんだから。会長はああ言ってくれたものの、受崎先輩の行動は女性を前にした時の雛型(テンプレート)のようなものだろう。現に彼は私になど直ぐに興味を失い、大飛少年と会話を始めている。


 まあ、それなら私は……


 チラリと紫苑先輩へ視線を送る。紫苑先輩は椅子に座り、何やら資料片手に鉛筆で書き込んでいる。真剣な横顔がカッコイイ。そりゃあ、攻略対象の人達と比べると少し……いや大分地味かも知れないけれど、その普通なところが素敵なのだ。

 ススス……と寄っていき、自然を装い隣の席を確保。


 ドキドキドキドキ……


 大丈夫、不自然じゃなかったよね。チラリと紫苑先輩の横顔を盗み見て、コッチを向きそうになって、慌てて前を見る。


 ドキドキドキドキ……


 ダメ、ダメ、私を印象づけるためにも何か話さないと……

 そう先ずは、私の存在を認めて貰うところから始めなければならないのだ。

 何か共通の話題は……

 いじめっ子竜胆の話?

 いやいや、何好き好んであんなヤツの話を……

 みんな大好き杏子の話?

 いやいや、何好き好んで恋敵の話を聞かなければならないの?

 話題、話題、話題……


「ん? 明日…葉ちゃんだったよね。どうかした?」


 挙動不審な私が気になったのか、紫苑先輩がこちらを見て話し掛けてくれた。


「あ、あ、あの……今日は良い天気ですね」

「うん、そうだね。天気予報ではしばらく晴れだって」

「あ、そうなんですね……」


 ……。

 あああああ、私、何故選りに選って天気の話…… 会話終わっているし……

 何か他の話題、話題は……


「だからね、ボクはこの手でアイドルを世の中に送り出したいんだ」

「ふーん、で、その“あいどる“ってのは、何だい?」


 目の前で受崎先輩と大飛少年がアイドル談義に花を咲かせており、ついそれが耳に入ってくる。今はアイドルなんてどうでも良い。それよりも紫苑先輩の興味を惹く話を……


「アイドルというのは、世の中に愛と夢と希望を与える存在なんだ」

「少女歌劇団の娘達みたいな?」

「全然違うよ。アイドルは戦いながら歌うんだ。異国の文献に記載があるんだよ」

「へー」


 いや、何でアイドルが戦うの? その文献、何だかおかしくない?

 それとも、この世界のアイドルは私の知るアイドルとは根本的に異なるのだろうか?

 って、今はそんなことはどうでも良くて……


「あんずにはアイドルとしての才能があると思うんだ。何たって、可愛くて、華やかで、人を引きつける魅力に溢れている。たださ……」

「何か問題でも?」

「あんずは歌が致命的に下手なんだよ」


 あー、うんうん、そうだよね。思わず頷いてしまう。


 ガタッ。


「おい、それは聞き捨てならないな。それもあんずの持ち味だろ。それにあんずは黙って立っているだけで可愛いじゃないか!」

「ぇ!?」


 私の隣の人物が立ち上がり、声を荒げる。何と、ここで紫苑先輩が参戦である。

 う、油断した……

 この場に居ない杏子に紫苑先輩の関心を奪われてしまった。


「一体彼らは何の話をしているんだ?」

「さー、何でしょうね……」


 ちょっとだけふて腐れる私の側に、日向会長が来て首を傾げる。それから私の顔を見ると、饅頭を手渡してきた。


「これ、食べるか?」

「え? 何故?」


 どうして会長は私の顔を見る度、食べ物を渡してくるのだろう?


「ああ、エピが明日葉ちゃんはいつもお腹を空かせているから、何か食わせてやれって……」

「……」


 エピさーん……、私のこと一体どう思っているの?

 ……ええ、もちろん食べますとも!


 かぷっ。


 饅頭に齧り付くと優しい餡の甘さが口の中に広がる。

 うう、やさぐれた心に染み入るよ……


「うーん、それなら、歌は誰か上手いヤツに任せりゃいいんじゃないか? あんずちゃんが歌っていることにして、ソイツの歌に口の動きを合わせりゃいい」


 受崎先輩が何だかヤバそうな事を言った。


「あー、そっか、それがいいかもね」


 大飛少年が簡単に同意した。

 えーっ、いいの? それ、問題にならない?



「異議あり!!!」



 誰かのちょっと高めの声が自治会室内に響き渡る。


「何言っているんだ! そんなのは邪道だ!! 間違っている!!! 下手でも可愛い子が一生懸命歌っているのが良いんだろうが!! 下手だった子が段々上手くなっていく過程を……いや、下手なところも引っくるめて応援するのが、ファンというものじゃないのかっ!!!」


 見知らぬ小太りの男子学生が乱入し、唾を飛ばして力説した。

 え、誰?


「ちなみに俺の推しは、新人歌手の雛菊(デイジー)であーる! フハハハハハ」


 闖入者が親指と人差し指をL字にし、顎に宛て不敵に笑う。

 菊子……、どうやら、あんたのファンらしいよ。



 …………いやいやいや、だからあんた誰?



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