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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第2章 もしかしてアイドル!?

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29/99

203 自治会にて 2

・2023/10/23 誤字修正

 “おもいで精霊”の情報提供(前世の記憶)によれば、王立魔法学院の自治会はゲームの主要舞台、つまり登場人物の巣窟である。

 ゲームの主役である“アンズ”こと佐倉杏子、攻略対象の“学院の王子様”日向葵、入学生主席の“文官”白根芹、自治会顧問の“シスコン”有明葛、更にライバル令嬢の“白薔薇の君”こと野茨薔子、“白百合の君”高砂小百合。そしてナビゲーターの鬼頭紫苑―――括弧、敬称略、括弧閉じる。

 あれ? そういえば燃えるような赤髪の脳筋……もとい王子の近衛騎士は?

 彼も自治会役員の筈……確か、その名は“リンドウ”……

 ん? リンドウ?

 そういえば、アイツ、天城竜胆は魔法剣士科の赤毛……


「マジか!?」


 思わず声が漏れ、辺りをキョロキョロ……よし、誰も気付いてない。しかし、まさかの天城の家の次男坊が攻略対象!? でも、確かに……


「脳筋だ……」


 えーっ、でもでも、同じ赤毛なら長男の方が遙かにマシじゃ無い?

 チラリと竜胆の様子を窺うと、ヤツは高砂先輩と何やら会話している。確か騎士ルートでのライバル令嬢は白百合の君、つまり、杏子と竜胆が結ばれなければ、竜胆のお相手は…………高砂先輩………………お気の毒。


 いやいや、待て、私。


 あれはあくまで前世のゲームの話。高砂先輩がアイツなんかに恋心を抱くはずがないじゃない!

 ダメだなあ、また現実とごっちゃになってるよ。

 でも、竜胆と高砂先輩の並んだ姿は結構絵になる。竜胆も黙って立っていれば、それなりに……認めたくは無いが、悔しいが……見た目だけは良いのだ。


 でもね、中身はいじめっ子。最悪だよ。


 ゲームと現実では、大分イメージが違うと思う。ゲームのリンドウは、脳筋ではあるものの誠実でまじめな騎士様だ。だけど、アイツは単なるいじめっ子……別人じゃん。

 会話の内容までは聞こえないけれど、アイツの言葉に高砂先輩の頬が赤く染まるのが見えた。


 ま、まさか、まさかだよね?


 このままだと、先輩が暴力男の毒牙に掛かってしまう。

 うーん、この場合、杏子と竜胆がくっついてくれたら、誰も不幸にならず、みんな幸せなんじゃなかろうか?


 …………。


 いやいや、別に杏子なら不幸になっても良いという話じゃ無くて、ほら、ゲームの主人公の謎パワーでどんな闇を抱えている攻略対象とも幸せになれるというか……


 …………。


 ……性格悪いな、私。


 でも杏子は竜胆になど全く興味がないようで、日向会長にチラチラと秋波を送っている。どうやら日向会長が野茨先輩と話し込んでいるので近づけないようだ。紫苑先輩の隣に座っているというのに何と贅沢な……


「天城、今日は時間があるのか? 自治会の仕事を任せたいのだが……」


 不意に日向会長が竜胆へ呼びかけた。


「あー会長、悪い。手伝いたいが、この後、騎士団との特別訓練があるんだ」

「それじゃ、高砂もダメか。このところ随分剣士科の特別訓練が多いな……」


 魔法剣士科所属の学生の卒業後の就職先は主に国や地方領の騎士団であり、そのためか院外での王立騎士団との合同練習が大部分を占めるらしい。ちなみに入学生も適性を見るため、基礎剣術、基礎武術などは必修項目であり、私も形だけ木剣をブンブン振り回したりしている。


「まあ、仕方が無いな、それじゃあ、入学生に給金分しっかり働いてもらうとするか」


 日向会長が私と白根君の方を見てニカッと笑う。


「わっかりましたー」


 と杏子が気の抜けた返事をした。多分、あなたは戦力に入ってないと思うよ……。


「でも何か嫌ね。騎士団もだけど、内閣府もこのところ慌ただしいようだし、…………戦争……とか?」


 野茨先輩がくるんくるんの毛先を指で弄りながら、物騒なことをポツリと呟く。


「それは勘弁して貰いたい。そんなことになれば、一体どれだけの損失があるか……」


 日向会長が顔を顰める。会長のこんな険しい表情は始めて見た。

 そこに紫苑先輩が発言した。


「どうやら各国で魔物が活性化しているようですね。我が国でも院生の動員を見据えて、訓練強化という事らしいです。……ところで、魔物と言えば、日向会長のところはどうなんです?」


 さすがゲームのナビゲーター役、情報の入手に掛けては誰よりも秀でている。何たってゲームでは、アンズに対する攻略対象の好感度さえ知っていたくらいなんだから……伊達にストー……ゴホン。


「うーん、辺境(我が領)ではそんな話は聞いてないな。まあ、うちとしては、少し活性化してくれた方が財政的には助かるのだがなあ……」

「不謹慎よ。魔物が溢れ出したら、市井の民に一体どんな被害があるか……」


 野茨先輩が日向会長を窘める。


「うちの財政カツカツなんだよね。ほら、背に腹は代えられないと言うだろう?」

「いざとなれば、俺も加勢しますよ」

「私も微力ながら協力させていただきます」


 竜胆と高砂先輩も血気盛んな様子で会話に加わり、何だか物々しい雰囲気になっていった。先輩達の会話の内容を全て理解できる訳では無いが、ただ、戦争は嫌だなあと思う。考えるとゾワゾワ―――

 フッと目の前が灰色に変わる。

 目の前に廃墟になった街が広がる。市場のテントも無残に破られ、煉瓦造りの壁は崩壊している。半分に折れているのは時計塔だろうか? そして地面に転がる……ひ…と?


 何コレ……


 瞬間、視界が戻り、世界は色を取り戻す。

 今のは一体何だろう? もしかして、ゲームの一場面? おもいで精霊があの景色を見せたのだろうか?

 先輩達は変わらず会話を続けている。


 トン、トン。


 ノックの音が……


 ガチャ、キィ―――


「失礼します」


 ドアから顔を覗かせたのは、この場に似つかわしくない子供だった。十歳くらいだろうか? 真っ白な肌に、ミルクたっぷりのカフェオレみたいな薄茶の髪、エメラルドのような緑の瞳……まるで異国のお人形のような少年だ。


大飛(おおひ)(つばめ)です。日向会長いますか?」


「ああ、大飛君、よく来た。入ってくれ」


 日向会長はまだ幼さの残る少年に入室を促す。入室した少年はこの学院の制服を着ていた。ちょっと意匠が異なるのは特注品だからかもしれない。


「きゃあーっ、かっわいいーっ! ボク、どうしたの?」


 杏子がキラキラの笑顔で嬌声を上げる。


「何だこのガキ?」


 と言ったのは竜胆だ。

 大飛少年は少しむっとした表情を見せた。子供扱いされたのが気にくわないらしい。この年頃の男の子は大人ぶりたいのだろう。


「子供扱いは止めて貰えますか? ボクはこう見えても、この学院の立派な生徒です」

「!?」


 確かに彼はこの学院の制服を着ているが、どう見ても子供である。学院の入学年齢に下限はないとはいえ、あまりにも幼すぎないだろうか? この学院に初等部など当然ない。


「彼が大飛燕……」


 白根君が声を漏らした。瓶底眼鏡の向こうで表情は読めないけれど、何となく言葉に含みがある。大飛少年がその声を拾ったのか、白根君へ視線を向けた。


「あ、白根芹さんですね。入学時の試験では負けましたけど、中間試験では負けませんから」


 宣戦布告である。


「ああ、受けて立とう」


 杏子に良いところを見せようとしたのか、白根君は瓶底眼鏡を外し、胸ポケットに仕舞うと大飛少年と握手。で、肝心の杏子といえば……、手鏡をのぞき込み、「あたしの方が可愛いわよね」なんて呟いている。どこまでも不憫な男……。


「ひゅー、さすが大飛燕、『天才少年、入学生主席に宣戦布告!』どうですか、部長。次号の記事に」

「いいわね。鬼頭部員、記事の作成任せたわよ」


 新聞部長と部員が盛り上がっている。


「みんな注目してくれ、知っている者もいると思うが、こちらは一年()組の大飛燕君。齢十二歳で当学院に入学した天才だ」


 どうやら彼が噂の天才少年らしい。ニ組といえば、菊子と同じ組、ということは土属性の魔力持ちである。そして、ゲームでは攻略対象の一人…………いや、不味くない? どう見ても十歳くらいなんですけど……ゲームのアンズって節操ないの? 数年後ならまだしも、こんな幼気な少年が恋愛対象とは……人としてどうよ。

 では現実の主人公、杏子の反応は? と、ちらりと目をやると、にこにこと大飛少年を眺めている。


 …………まさかね。


 まあ、待って、たとえそうだとしても、数年後であればそれほど問題ないはず。杏子が選ぶなら……それなりに応援しよう。


「大飛君は王都劇場の支配人の息子でね。ご厚意で学院祭用の小道具や衣装を格安で借りられることになった。そこで、入学生の三名には、劇場まで出向いて、貸し出し可能な品のリスト作りをお願いしたい。そのリストを元に関係各所へ照会をかける予定だ」


 日向会長が私達に今回の仕事内容を説明する。杏子が胸の前で軽く拳を握り、瞳を輝かせ、コクコクと何度も頷いている。こういう仕草が周囲から可愛いと言われるのかもしれない。私も真似してみようかな……

 止めておこう。

 私の場合単なる戦闘態勢(ファンティングポーズ)になりそうだ。


「劇場で使用していないものがたくさんありますから。こちらとしても無駄に眠らせて置くよりも、学院の皆さんに有効活用していただければ、劇場の宣伝にもなりますし……まあ、本当のところ、無秩序に溜まったガラクタのリストを代わりに作成いただこうという腹づもりなんですけどね」


 結構、ちゃっかりしている。口調も見た目に反して大人びているし、これは、見た目は子供、中身は大人という……


「あっ、鳥のサブレ! もーらいっ!」


 机に置かれた菓子器から鳥の形をしたクッキーをヒョイと摘まむと、バリバリと噛み砕く。


「うぐっ……みるぐ(ミルク)ちょうだい」


 前言撤回。やっぱり中身も子供かもしれない……



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