201 それでも日は昇る
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ここから第2章です。
実はこれ、魔法少女ものだったんです……
「どぅーむ・ふぉるとぅーな・まじかる・あんじぇりか・どれすあーーーっぷ!」
魔法の道具を右手に掲げ、意味不明な言葉を声高に叫ぶと、溢れ出した光が渦となって私を取り巻く。光は帯状となり、私の身体に巻き付くと足元から少しずつ変化が起こっていった。
草臥れた靴は足首に小さな翼のついた可愛らしいショートブーツに、お仕着せの制服はこれでもかとギャザーの寄ったふわふわの膝丈のスカート、胸元に大きなリボン、両の手首には翼のついたカフスに、首にはカフスとお揃いのチョーカー、髪がふわりと広がり、頭には翼をデザインしたティアラが光る。掌に収まるサイズだった小さな魔法の道具は、いつの間にか可愛らしく装飾された魔法のワンドに変化し、私の手に握られている。
そこで決めポーズ!
「華麗に、可愛く、愛らしく! マジカルな私デビュー!」
ジャーン!!!
効果音と共に、光が乱反射し、色とりどりの光の花びらが舞った。
ズルッ……ドテッ!
ベッドから上半身落ちた状態で目覚めた私は、一言呟いた。
「どんな夢よ……」
うっ、後頭部…………と心が痛い……
こんな巫山戯た夢を見たのは、エピさんから貰ったあの魔法アイテムっぽいペンダントの所為だろうか? それにしても、夢の中で変身した私の姿は、ゲームの中でアンズが変身した姿によく似ていたように思う。
「衣装なんてまんまだよね……」
はぁ、私って変身願望があったのだろうか?
「う、うーんっ……ん」
部屋の反対側のベッドで菊子が寝返りを打った。
しーっ、お静かに!
「すーぅ、すーぅ、すーぅ……」
菊子が再び落ち着いた寝息を立て始める。不幸中の幸いは、フラれたのが週末だったことかもしれない。
思いっきり泣けたし……
それに、菊子にも無様な姿を見られなくて良かった。菊子は歌の師匠の公演の手伝いだとかで泊まり込みのため、この週末は不在だったのだ。でも……もしかしたら、薄々気付いているのかも知れない。悲恋の小説を読んだからと誤魔化したけど、あれだけ目を腫らしていたら、やっぱり変に思うよね。
今はまだ夜明け前で薄暗い。私は菊子を起こさないようにそっと部屋に設けられた洗面室に向かった。白い琺瑯の洗面器から水を掬うと、ザブッと顔を濡らし、タオルで水気を拭き取る。目を開くと、正面の鏡に見慣れた私の顔が映った。
「うーん、まだ腫れぼったいかな?」
自分ではそこそこ可愛い……んじゃないかと思う。
でも、可愛いと言われたことがないので、つまり、そういうことなんだろう。
自分が思うより世間の評価は低い。ちょっとだけつり目がちなところが、ダメなのだろうか?
可愛いと言ってくれたのもあの人だけだったし……、それも社交辞令――単なるお世辞だったのだけれど……
本気にした自分が馬鹿みたいだ。
あ、また涙が……
一から―――、あの人に私を知ってもらうことから始めようと決めたのに、そう簡単に心は割り切れないらしい。
「……なんて……ろびてしまえばいいのに……」
『こんな世界なんて、滅びてしまえばいいのに』―――ポロリと口から零れた言葉。心の奥底は相変わらずどんよりと重く、これを厭世的というのだろうか?
いつの間にか窓の外が明るくなっている。どうやら、夜が明けたようだ。
私がフラれようとも変わらず地球は回っていて、ちゃんと朝がやって来る。
おかしい……
私がフラれたというのに、何故世界は滅んでいないのだろう?
世界よ、たまには私を中心に回りなさいよ!
「………………………………………………はぁ」
残念ながら私がフラれたくらいでは、世界が終わったりはしないようだ。
あー止め、止め、悲劇のヒロインぶるのはおしまい。
チャプン。
私は再び洗面器から水を掬い、腫れの残る瞼を冷やした。
「アスアス-っ、おっはよー!」
「ふぎゃっ」
背後から不意に抱きつかれ、尻尾を踏まれた猫のような声が出る。まあ、本当に猫がそんな声を上げるのか聞いたこと無いけれど。
「さあアスアス、朝のトレーニングに行くわよ!」
世界が滅んでいないので、私は菊子に朝の日課へ引きずられて行くのだった。
***
スカートのホックを留め、腰のファスナーを上げる。制服の上衣を頭から被り、袖を通したら、左脇のファスナーを下ろす。王立学院の制服はセーラーカラーだが、スカーフでは無く、上衣と共生地のネクタイ仕様になっている。備え付け箪笥の扉の内側の鏡で全身を確認すると、スカートの裾がちょっと折れ曲がっていたので直す。
「うん、よし」
着替え完了。
「じゃあ、アスアス、先いくねー」
「りょうかーい」
菊子は当番だとかで、慌ただしく部屋を出ていく。
「さてと、……だ」
今、私の手の中には魔法のアイテ……いや、エピさんから貰ったペンダントがある。このペンダントヘッドは、まさに魔法少女の変身アイテムっぽい。魔法少女ものによくある星形やハート型をしているわけではないけれど、中央に大きなクリスタルが填め込まれ、その周りを色取り取りの小さな宝石が取り囲み、キラキラ~で、ピカピカ~なのだ。
まあ、私なんかにくれるくらいだから、これらの宝石が本物の訳がないけれど、それでももの凄く綺麗だ。これを無人の寮室にそのまま置いていくのは、何だか心配になる。エピさんの真心も籠もっているわけだしね。できれば肌身離さず持ち歩きたい。
しかし、これ、身につけるにも、持ち歩くにも、とても邪魔なのだ。制服の上にこんな派手なペンダントを掛けておく訳にもいかないし、制服の下にすると、ペンダントトップ部分が不自然に盛り上がる。で、スカートのポケットに入れると、ポケットがパンパンに膨らむ。
正直邪魔。
「うーん、こういう時、空間収納魔法が使えれば良かったのに……」
そう呟いた瞬間、手の中からペンダントがシュッと消えた。
「#$&%△@!!!」
え、え、え、え、え……
ど、どうしよう。き、き、き、消えちゃった!!!
「ぺ、ぺ、ぺ、ペンダントどこ!?」
その瞬間、ペンダントがシュッと目の前に現れる。反射的にキャッチ。
「!!!???」
こ、これはまさか……異次元収納!? もしかして、私、空間収納魔法に目覚めた!?
ゴクリ、と唾を飲み込む。
「しゅ、収納」
ペンダントは消えずにそのまま掌の上にある。
「…………」
落ち着け、落ち着くのよ、私、さっきは確か……
私はペンダントがどこかの空間にできたポケットに収まる様子を思い浮かべる。
目の前からペンダントがシュッと消えた。
次にペンダントを空間のポケットから取り出すイメージを描く。
ペンダントが手の中にシュッと現れる。
「やったー!」
異次元収納が使えるようになった! 頬が緩む。
それから私は何度も出し入れを繰り返した。百発百中、自由自在、完全無欠……。
それじゃあ、他の物も収納してみよう。
机の上には今日の講義で使用する教本や筆記道具が置かれている。
まずは鉛筆と消しゴムを亜空間に収納、そして取り出す。難なく成功。
ハンカチ、クリップ、輪ゴム、はさみ……成功。
よし、次は教本を収納!
「…………」
消えない。
もう一度、イメージ。
「…………」
消えない。
改めてペンを再度収納、取り出し。問題なし。再び教本。
「…………」
消えない。何故?
それから私は手当たり次第、部屋にある物の “収納”と“取り出し”を繰り返した。
その結果―――
私の異次元収納は化粧ポーチくらいのサイズしかないことが判明したのだった。
「つ、使えなーいっ……」




