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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第1章 まだ何者でもない

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118 新聞部定例会議

閑話

「では、本日最後の議題に移ります。ポートレートの新規対象者の確保について―――」


 会議机の上座、議長席で艶やかな黒髪を縦ロールにしたゴージャスな美女が口を開いた。


「皆様ご存じのようにポートレートは我が新聞部の重要な収入源となっております。先日、麗しき前四年生の皆様がご卒業されました。その穴を埋めるべく、新たなる人員の補充を行う必要があります」


 議長席の美女、新聞部部長が縦ロールの毛先を揺らし、会議机の左右にズラリと並ぶ部員達を見回す。


「そう、お金になる新たな被写体を確保するのです!」


 おおっ! と居並ぶ者から低い声が響く。

 そう、新聞部は学院の人気者のポートレート(肖像写真)、いわゆるブロマイドを販売し、売り上げの一部を活動資金に充てているのだ。

 部長の目配せを受け、一人の男子部員が頷くと、資料片手にスッと立ち上がった。会計担当の部員である。


「では、現状について、私の方からご報告させていただきます。四年生は特出している方はおりませんが、元自治会役員を中心にそこそこの売れ行きです。三年生は何と言っても学院の王子、日向会長に、我らが部長、黒薔……いや、白薔薇の君がおりますし、二年生も卒業された天城先輩の弟君と、凜々しい白百合の君が高い人気を誇っております。二年から四年生に関しては、現時点で特段の追加の必要はないと思われます」

「はい! はい! はい!」


 その報告に、ツインテールの女子部員が元気に手を上げる。


「夜の君はどうなんですか? 販売したら、あたし、絶対買います!!!」


 その発言に、他の女子部員達も大きく頷き、期待の視線が上座に集まる。


「うーん、お願いはしておりますけど、難しいところですね……まあ、引き続き交渉継続ということでよろしいでしょうか?」


 新聞部部長こと黒薔薇、ならぬ“白薔薇の君”が苦笑を交え答える。“夜の君”については毎回議題に上がっては、毎回同じ回答を繰り返している。


「それじゃあ、新任の先生などいかがでしょうか? とても素敵な方だと思います」

「有明先生ですね」

「あー、有明先生ね。即断られたわ。深山先生はあんなに協力的なのに」


 教職員担当の女子部員が天を仰ぐ。


「深山先生じゃねえ……クスクス」

「でも、深山先生は意外に売り上げがありますよ。あれでも。まあ、教職員では当然、学院長がダントツの売上げですけどね」


 会計担当者が資料を確認の上、告げる。


「そりゃあ、学院長はなあ……」


 学院長のポートレートを購入すると、成績を上げて貰えるらしいとの噂がまことしやかに流れており、殆どの院生がお守り代わりに購入している。もちろんこの場にいる部員達も例外ではない。


「えーっ、『売り上げは孤児院に寄付します』って言ってもダメなの?」


 『売り上げを孤児院に寄付する』は、新聞部がポートレートの販売許可を得るための常套句だ。本心では被写体(モデル)を引き受けたいと思っていても二の足を踏んでいる者には、『恵まれない子供への寄付』は魔法の言葉である。特に自己顕示欲は高いが、世間体を気にする貴族のご子息、ご息女には免罪符となる。もちろん、恵まれない子供達の為なら、と純粋な善意が大部分を占めている……筈である……多分。

 なお、実際に売り上げの殆どは孤児院に寄付されており、残りの一部が材料費および手数料として新聞部の部費に当てられている。


「ダメダメ、取り付く島もなし。バッサリ拒否られたわ」


 教員担当の女子部員が首を左右に振り、後頭部で一つに纏められた髪が馬の尻尾のように揺れ動く。


「まあ、そのうち心境の変化があるかもしれないし、気長にいきましょう。それよりも、入学生はどう? 補充するならここが肝心よ。今後を考えると、できれば院生になれる優秀な子が望ましいのだけど、めぼしい子はいるかしら?」


 部長の言葉に先程のツインテールの女子部員の手がサッと上がる。


「ハ組の(つばめ)君、可愛いよね。美少年!」

「ああ、噂の天才少年か? 確か、劇場支配人の息子だし、この手のことに理解があるかもな」

「はい! はい! はい! あたし交渉してきまーす」

「何だよ。さっきまで、夜の君、夜の君って言ってたくせに……」


 ツインテールの女子部員がブンブンと手を振ってアピールし、その姿に三年の記章を付けた男子部員がブツブツと愚痴をこぼす。


「はぁ? 何か言った?」


 ツインテールの女子部員の冷たい視線が、男子部員に突き刺さる。


「別に……それよりも、あまりしつこくして我が部の品格を落とすんじゃねーぞ」

「べーっだ。あんたとは違いますぅ」

「はあ? 俺のどこが―――」


 パン! パン!


 手を打ち鳴らす音が響いた。


「はいはい、会議中よ。痴話げんかはその辺にしてちょうだい。さあ、他には?」


 女子部員と男子部員のじゃれ合いを制止し、部長が次を促す。


「んー……、他に有名どころで言えば、入学生代表とか?」

「あー、あの瓶底眼鏡? ないない」

「いくら成績優秀でもねえ」


 女子部員達の酷評の中、一人の女子部員の眼鏡がキラリと光を反射する。


「ふっ、甘いわね。あの瓶底眼鏡の下は意外に美形かもしれませんわよ」

「えーっ……」

「まっさかー、少女向けの物語でもあるまいし……ん、でもまあ、眼鏡の下を確認するまでは保留ってことで」


 前言撤回。眼鏡の下には浪漫が隠れている……らしい。


「で、あと目立つ子いた? うーん、今年の入学生は不作かあ」

「そりゃあ、麗しの自治会役員様達と比べちゃね。今後の活躍に期待ってとこかしらね」


 彼らはまだ入学して間もなく、頭角を現すのはまだまだ先だろう。


「それじゃあ……」


 この議題はこれにて終了。

 という雰囲気が漂いだしたところで、慌てて男子部員が立ち上がった。


「おーい、まだ女子がいるだろ!」

「そうそう、対象は男だけじゃないぞ!」


 日頃女性部員の陰に隠れがちな男子部員達が、ここぞとばかり次々と声を上げる。


「やっぱり、入学生で群を抜いていると言えば、なんてったってヘ組の運命の乙女! 佐倉杏子ちゃんだよな」

「ああ、あの妖精みたいな子か!」

「そう! まさに天使!!」

「当然だな。圧倒的な可愛さ。間違いない」


 異口同音。男子部員の口から一人の女子入学生の名が上がる。


「佐倉って……あの、自治会の仮役員(お手伝い)に選ばれた娘でしょ。顔は可愛いかもしれないけれど、かなりのお馬鹿さんと聞いているわよ。何で選ばれたのかしら?」

「いつも男子を引き連れて、凄く感じ悪いわよね」

「それに、相当な我が儘娘って話。明らかに何かあるわよ」


 一方、女子部員からは否定的な声が次々と上がっていく。


「不細工が嫉妬するなよ。可愛いってだけで、他に理由がいるかよ。自治会役員も可愛い子が入った方が嬉しいに決まっているだろ」

「あー、やだやだ。顔だけで判断するなんて最低――っ!」

「その台詞、そっくりそのまま返してやるよ。お前らだって顔で判断してるじゃ無いか」


 まあ、この件については、どっちもどっちである。


「やだなあ……皆さん、落ち着いてください。あの子は天真爛漫なだけで、そんなに悪い子じゃ無いですよ。僕の妹分だし、そんなに悪く言って貰いたくないなあ……」


 不毛な言い争いが延々と続く中、一人の男子部員が発言した。その表情はニコニコと人当たりが良く、口調はほんわりと穏やかである。

 辺りは一瞬、毒気が抜かれたようになった。

 その隙を逃さず、部長が口を開く。


「あなたたちいい加減にしなさい。新聞部としては、ポートレートが売れりゃそれでいいのよ。鬼頭部員、幼なじみのよしなで彼女との交渉任せたわよ。絶対、逃がさないでね」

「了解しました。ああ、男子部員も女子部員も、あんずに手を出したらダメですからね」


 鬼頭と呼ばれた男子部員が居並ぶ部員達をサッと見回し、にっこりと微笑む。


「さあ、議題に戻るわよ。他に誰かいないのかしら?」


 おずおずと末席の新入部員らしき小柄な男子部員が手を上げる。


「ハ組の長命菊子さんも眼鏡とお下げで地味だけど可愛いと思います」

「長命って……子爵家の令嬢かしら? そうね。一応、押さえておきましょう」

「やったぁ…」


 発言した新入部員は、自分の意見が通り小さくガッツポーズ。

 ポートレートは目立つ人物だけが売れるわけではない。一見地味に見える人物にもそれなりに支持者(ファン)がいたりするものだ。


「それなら、ニ組の男爵令嬢はどうですか? 部長には及びませんが、かなりの美人だと思いますけど」

「多分ダメね。あの子、河原伯爵令嬢の取り巻きよ。伯爵令嬢を差し置いてポートレートの被写体(モデル)になるなんて出来るわけないわ」


 他の新入部員が発言するが、直ぐさま貴族令嬢然とした三年の女子部員に却下される。


「その伯爵令嬢のポートレートも一応作成すれば良いのでは?」

「お前な、あの伯爵令嬢見たことあるのかよ。フィルムの無駄だよ。無駄。それにな、取り巻きの男爵令嬢の方が売れているとなると大変なことになるぞ」


 なおも食い下がる新人部員に、先輩男子部員が現実を告げた。その際、殆どの女子部員の顔に殺意が浮かんだことに彼は気付いていない。


「それじゃあ、下手に声は掛けられないわね。男爵令嬢については、院生に進学できた時に改めて考えましょう。他にはいない?」

「あー、みんな化粧は上手いのよね。でもその程度じゃねえ……その辺にゴロゴロいるもの……」


 部員達も思春期の若者、中途半端な人物であれば、つい自分の方が……と思ってしまうのだ。


「新入部員のうち君だけ発言がないけれど、どう? 他に良い子はいないかしら?」


 部長が末席に目をやり、新入部員三名の内の一人、大きな丸眼鏡の新入生を指名する。指名された眼鏡君は、咄嗟のことでしどろもどろになりつつも口を開いた。


「あの、えーっと、あのー、ヘ組に綺麗な子がいて……」

「は? 佐倉杏子の他に? ……もしかして有明董子か? 確かに人形みたいな整った顔してるけど、あれはなあ……」

「有明って……有明先生の妹だろ。あの兄が許す訳ないないと思うけど……」


 早速、男子生徒達による品定めが始まる。


「でも相当妹が可愛い(シスコン)みたいだから、妹を落とせば兄も付いてくるかもな」

「「「是非、妹を落としなさい」」」


 最後の男子部員の発言に女子部員達が食いついた。


「新入部員、でかしたわ! さあ、直ぐに有明兄妹確保に動くのよ」


  盛り上がる女子部員達を前に眼鏡君は今ひとつはっきりとしない。


「いえ、僕が言いたいのは有明董子ではなくて……」

「はぁ? へ組に他にいた? 男子? ヘ組って人数少ないわよね。佐倉杏子と有明董子以外、男女も含めて印象に残るような子なんていないわよ」


 女子部員も男子部員も新聞部一致で同意見だ。


「何だよ、お前の好みって話かよ」

「え、でも……」

「あなたの個人的な好みは聞いてないわ。大事なのは売れる被写体かどうかよ。さ、他にいないようね。候補者それぞれに担当を決めて、当たってちょうだい。朗報を期待しているわよ」


 美貌の部長が定例会議の終了を告げた。



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