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パワープリンセス 麗しの姫様、魔王の鎧と呼ばれるマッスルパワードスーツを着る。

作者: ふろず

 城下街に響き渡る悲鳴。国が誇る兵力、防衛力も虚しく、無数の魔物にはなす術なく侵攻を許し、王城の門に迫っていた。


「もはや、これまでか…」


 謁見の間。避難してきた王族、貴族、それらを守る衛兵達に囲まれ、王座に座りながら、国王は顔を歪ませる。先ほどまではすでに犠牲になった、また今まさに犠牲になっている民を案じてはいたが、今は我が身と血筋、隣に控えた息子と娘の行方を案じる段階まで追い詰められていた。


「いや、一つだけ…」


 苦悩の表情を浮かべて衛兵に指示を出す。

“例のものをこの場へ“

 王としてではなく、親として。自分に出来ることがある。それは宝物庫に眠る秘宝を使うことだ。ただそれは古き世に封じられた呪いを今世に解き放つということでもある。


 魔王の鎧。

 はるか昔、悪名高き者が纏い、暴虐の限りを尽くしたと言う鎧。

 装備したものは命を落とすまで解放されず。されどその防御は大砲を撃たれようが、火の海に落とされようが、海底に沈まされようが絶対の守りで装備者を守ると言われる。

 そして、その鎧は守護だけでなく、攻撃にも秀で、いわくその拳は岩を砕き、風よりも早く動き、そして他のものの運命まで見通す神通力を得たと言う。

 その呪いの鎧が宝物庫に眠っている。ただ、誰が装備するのかと言う問題があったために長きの間封印されてきた。

 装備者はその力で魔王となると言われている。王国の運命か、魔王の再来か。

 たた、やはりこの襲撃。“魔王の復活“を目論むものとも考えられる。ならば、自らその鎧を纏い、ことが終わり次第自害しよう。そう決意をした。


「魔王の鎧を! 私が出る!」

「お父上!」「お父様!?」


 自分の子らがその意味を察し、悲鳴を上げる。

 王子と姫、アルフレドとエルオーネ。金髪碧眼。見目麗しい自慢の我が子。賢く、美しく育ったこの子らだけは何に変えても守らなければならない。たとえそれが魔王の呪いで死に至ったとしても。


「その役目は私が! 父上は国を守ると言う使命がお有りでしょう!」

「だからこそだ、次代のお前を犠牲にするわけにはいかん!」

「お兄様…」


 呪いを引き受けようと進言する我が子を諌める王。その二人を案じるように見つめる姫。

 そして、その場に部外者が割って入る。


「ほお やはり魔王の鎧はここにあるのか」


 揺らぎ、現れた黒い煙が形を変え、その輪郭を明確にしていく。襲撃者の代表であろうそれは、眼鏡をかけ、黒いローブを纏った中肉中背、やや痩せた顔つきをした魔術師だった。


「初めまして国王様。私、黒煙のデイモスと申します」

「貴様が…!」

「そう。魔王の鎧を回収しにきたこの襲撃の首謀ですよ」


 顔を強く歪ませ、笑顔に変える。即座にその場にいた衛兵達が男を囲むが、即座。男がその指に嵌めた指輪を見せつけ、言い放つ。


「我が眷属よ!」

 言葉が終わると同時に、男の影から衛兵に向かって、無数の触手が向かい、衛兵達を締め上げ、あるいは突き刺して絶命させていく。

 その様子を見て悲鳴を上げる貴族達。


「古代の遺産か…!」


 王が声を絞り出す。無尽蔵の魔物によって今まさに王国は滅びかかっている。その原因があの指輪なのだろう。魔王の鎧と同じく、古代の遺産。魔物を操る指輪…


「無数の配下を生み出し操るこの“悪逆の指輪“と、本人を強大にする魔王の鎧。これによって私は今世の魔王となるのですよ! ははは」


 デイモスを名乗る男はそう宣言し、高く笑い声を響かせる。

 まずい。衛兵にここにその鎧を運ばせているところだ。止めなくては。

 そう、王が考えたのも手遅れか。扉を叩き開き、衛兵の声が割って響く。


「国王様! よ、鎧が“ありません“!!」


「な」

「は」


 王と、デイモスの声が重なる。鎧がない? この場としては都合がいいが、しかし。


「馬鹿な、数百年封じ、守られてきたのだぞ!? その鎧の所在がわからないだと?」

「…おやあ、それは、困りましたね」


 デイモスの言葉で王は緊張を取り戻す。国を滅ぼしてでも奪おうとしてきた目当てのものが見当たらない。これは、デイモスにとっても不都合だ。取れる手段は限られた。


「ふざけたことを言ってないで、鎧を探してもらいましょうかねえ! この国全ての力で!」

「!?」

「エルオーネ!?」


 声を張り上げると、指輪の力で生み出された触手が、この国の姫エルオーネに向かって襲いかかる。その速度は先ほど衛兵に襲いかかったものとは比較にならないほど早く、皆反応できず、見送った。ただ、王子が声を上げる。

 そう、姫を人質に鎧を手に入れる算段。見つからなければ殺す。そう言う計画に変えようとしたのであろう。しかし。


ぶち。


 触手が音を立てて引きちぎられる。


「え」


 誰の声か。或いはその場にいた全てのものの声か。“姫以外の“。困惑の声が上がる。

 皆の視線の先には触手を束ねるように掴み、潰し、ちぎっていく、姫エルオーネの姿があった。


「あの、お父様」

「ひえ」


 その様子に、我が娘にかける声と思えない悲鳴を上げる王。呆気に取られる周りに対し、エルオーネは恥ずかしそうに、引きちぎった触手を持って恥ずかしそうに体をもじもじさせて告げる。


「その、魔王の鎧なんですが」


「着ちゃいました」

 姫はてへっと舌を出して言ったような気もするが、その場にいた皆はただ時間が止まったように沈黙した。

 そして、沈黙が破られる。



「はああああああああ!?」


 これも、誰の叫びだったか。王も王子も、そしてデイモスも、さらには周りの貴族王族衛兵達も口を開けて驚いていた。


「着たっておまえ…一生外せない呪いの鎧だぞ!? なんで!?」

「えっと好奇心で」


 兄であるアルフレドが非難混じりの声で問い詰めるも、好奇心という幼稚な理由に王が頭を抱える。


「というか、着たって…」


 気づき、姫の姿を確認する。いつものドレス姿だ。王族が、王族であると言わんばかりの煌びやかな。そして宝石類。ティアラ。どこにも聞いた魔王の鎧を身につけているとは思えなかった。


「ああ、それでしたら。ええと」

“市街仮装解除“


 姫が何かを思い出すように首を捻ると、その姿は一変する。

 筋肉を模したような、黒く、禍々しい鎧姿。これが、魔王の鎧か。

 そこから頭だけ、いつもの見知ったエルオーネの姿となった。


「なんだかこんな感じで好きな服になれるようでして。結構楽しいのですよ、これ」

「へ、へえ…」


 兄は鎧姿でくるん、と回転する妹に呆れたような声を漏らす。


「一生… 一生って…婚姻とかどうすんの…エルオーネ…?」


 父である王が我が娘のこの先を案じ、混乱し、威厳を失ってうめく。

 婚約、政略結婚、王族の血を増やす。そんな王家に生まれた姫としての役割を失った目の前の娘に頭を抱える。


「この場合は…一生独身になるんでしょうか…?兄様」

「いや僕に聞かれても…」

 のほほんと聞いてくる彼女に王子も頭痛を覚える。

 そこに、一つの笑いが響いた。


「ははは、一生、安心してください、“死ねば!““その呪いは解ける!“ 眷属よ!」

 デイモスが次は殺すと、殺意を纏わせエルオーネ達に触手を放ってくる。が。


“敵対確認。脅威判定。自動処理。無力化を開始“


 どこからか、理解の及ばない音が響き、エルオーネが動く。向かってきた触手を今度は避け、蹴り上げて軌道を変え、手刀で切断する。その動きはその場にいた誰もが反応できないほど早く、一瞬の出来事で“無力化“を完了した。


「な…!?」

「あと、何か、体が勝手に動いて守ってくれるようなんです」

 驚きの声を上げるデイモスをよそに、手刀で切断した触手を丸め、ブチっと音を立てて潰しながらエルオーネが困った風な声で告げる。


「く…流石の魔王の鎧というわけですか! ならば!」


 デイモスが指輪を掲げ、影の中から魔物を生み出し、解き放つ。王国を襲っている力であろうそれは、雪崩のように無数となってその場の全員に襲いかかる。


“脅威判定再走査。データベース照合。にぎやかしリング確認。株式会社もちもちカンパニーの玩具製品です。脅威ランクF。実体生成機能を悪用。問題無し。鎮圧に移行します“


「あらあ」


 再三、理解できない音と、エルオーネ本人の気の抜けた声と共に体が動き、デイモスへと向かって弾丸のように飛び蹴りを放つ。鈍い音がその場に響き、影から現れた魔物と共にデイモスは壁に叩きつけられる。


「ぐ…え…」


「お…おお…あれが魔王の鎧の力…」

「え、エルオーネ…」


 魔王の力に歓声を上げる周囲。

 一瞬で、一蹴され、デイモスが呻き声を上げる。壁に叩きつけられはしたものの、影から生えた魔物たちがクッションになったか、意識までは離していない様子だった。しかし。


“無力化処理実行“


 魔王の鎧が放つ音と共に、デイモスの指輪はエルオーネの鎧の小手に包まれた人差し指の突きに当たり、砕ける。


「な、あ」

「あらあら壊しちゃいました」


 デイモスの驚愕の声も遠く、エルオーネはただ壊して良かったのかしら? と軽い感じで首を傾げる。


「わ、私の悪逆の指輪がああああああー!?」


 指輪を失い叫び声を上げるデイモス。これで魔物は生み出せず操れないだろう。それどころか今まで国を襲っていた魔物達は霧のように消えていく。だが、まだデイモスは諦めていないようであった。


「くそ、クソが! ならこれを使うしかありませんねえ!」


 追い詰められたデイモスが懐から一つの石を取り出し、自分の額に当てがう。途端、空気が膨張し、突風を生み出す。エルオーネは咄嗟に距離を空け、何事かと目を見張る先には、姿を禍々しく変えたデイモスがいた。

 先ほどの触手を組み合わせたような、四肢、ドロドロに溶けかけた肉体と、鋭い牙や爪。身体中についた無数の目が方々を見つめ、やがてエルオーネの方を向く。


「これぞ我が最後の手ぇ! "邪神の豊穣"!」


“敵対確認。脅威判定。データベース照合。ハロウィン仮装ドレスちょっと怖すぎたかなver。株式会社ぱりぽりの季節製品です。脅威ランクG。ちょっと身体能力気持ち上げちゃう機能仕様確認。問題無し。鎮圧に移行します“


 空気を震わせるデイモスだったモノと、鎧の発する異音が重なる。

 奥の手を出し、凶悪な魔物と化したそれと、魔王の鎧を纏った姫エルオーネの戦いの始まりに、周囲の人間達は固唾を飲んで見守る。

 だが。それは一瞬。

 エルオーネが地面を蹴り、デイモスの実体、中心に拳を通し、“死なない威力“ギリギリで殴りつけ、デイモスを気絶させる。

 その場にいた人間が誰もが驚く。王国を襲った脅威、その全てを、姫であるエルオーネが、魔王の鎧を纏い、拳で捩じ伏せたのだ。


“鎮圧完了。周囲環境再走査。脅威無し。スタンバイモードに移行します“

「ところでさっきからこの音なんでしょう…? 喧しいですわね」

“音量ダウン。45%“


 それこそが、今世の魔王の顕現であった。

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