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 一晩中歩き続け、泣き続け、せっかくおしゃれにしてもらった服は煤と埃ですっかり汚れて元の色も分からなくなってしまった。


 それでも、と歩き続けているとシンさんではなかったものの、怪我をしている人を見つけて応急措置を繰り返すを続けている。


 意識がある人がいればシンの特徴を伝えて回るが、それらしき人を見た人が居ないか聞いて回った。


 シンさんを見たと言う人も居たが、モンスターをあっという間に殺し風のように去って行ったとしか分からなかった。


 どれくらい前のことなのか聞いてもモンスターの軍勢で視界が一杯だったため正確な時間は分からなかったそう。


 今はモンスターも大人しくなってるとのことで街までは自力で帰れると言うので気にはなるもののシンを探したかったのでその場を後にした。


 夜明けが近いのか、空がほんのり明るくなってきた。だが、まだ辺りを確認するには暗すぎて何があるのかまではその辺で上がっている炎の残り火みたいな明かりぐらいしかないが、山積みのモンスターの死骸なども場所によってあるので暗い方が嬉しかった。


「シンさーん!! ……どこですか!!」


 呻き声も聞こえないし、この辺りには生きている人は居ないのかもしれない。


 そう思って違う場所に踵を返そうとした時だった。


 カランと石がどこかにぶつかるような音を立てた。


「シンさん?!」


 さっき音がしたのはどこ? 


「シンさん居るんですか?! 返事を、返事をしてください!!」


 しんと静まり返った中あたしの声が反響する。


 聞き間違い? でも、かなりはっきり聞こえたのに。


 しばらく待ってみても反応がない。ただ何かが崩れたか何かだったのだろうと踵を返そうとした時だった。


『ギィャアァアァァア』


「え?」


 何これ唸り声? それとも誰かの断末魔?


 シンさんだと思ったのは何かのモンスターだった?


 声は遠いみたいだけど見に行った方がいい? でも、もしモンスターだったら?


 こういう時は離れた方がいいはず。幸い謎の叫びはここからかなり距離があるのかだいぶと小さかった。


 そっと離れなきゃ。


「きゃ!」


 な、何?!


「ひっ!」


 いきなり足を引っ張られた?! びっくりして足元を見れば真っ白い手が1つあたしの足首を掴んでいるが、気づけばそれ以外にも沢山の白い手がそこかしこにあった。


 何これ……こんなモンスターなんて知らない。


 それにシンがここのダンジョンは低レベルのモンスターしか出て来ないって言ってたのに。低レベルのモンスターならいくらなんでも戦わない非戦闘スキルの人たちだって知ってる。


 それなのに見たことがないモンスターなら中か高レベルのモンスターだ。


 ヤバい奴だ。


 逃げなきゃと思うのに体は思うように動かない。


「シ」

「何をしてる!」


 シンさんだ。シンさんがいる。散々歩き回って、もう会えないんじゃないかと泣きそうになりながら探してた人が煤と汗まみれになりながら剣を持ってこちらに走って来てくれた。


「シンさん!」

「イオから離れろ!!」


 よかった。生きてた。


 シンさんは汗だくで息が荒いけど、怪我らしい怪我もなくて無傷だ。


 ここに来るまでに何日も怪我をした人を見ていたから怪我をしてなかっただけでも知れてよかった。


 シンさんが無事で見たことのないモンスターに足を掴まれていることをうっかり忘れてその場にへたりこんでしまった。


「イオそのまま」

「へ?」


 えっと思った時にはシンさんの背中が目の前。


 モンスターはあっという間にシンに切り刻まれてしまった。


「シンさ……」

「何でこんなとこほっつき回ってんだ!! ……あ、え、あの……」


 安心したのと怖かったのとようやくシンさんに会えたこと何かが胸の中でぐるぐるとしていたのがシンさんに怒鳴られたことで爆発でもしたみたいに涙がポロポロと溢れてきた。


「シンさん」

「えっと、」

「ずっと戻って来ないから心配して……」

「すみません残りを片付けないとと思って……一度イオのところに戻れればよかったのだけれど」


 さっきのモンスターを見ればまだまだ来れなかったのだろうけど、ずっと心配してた。


「シンさんシンさんうぅ……」


「イ、イオ? 俺汚いから離れて」

「嫌」


 シンさんの首にぎゅっとしがみついて離さない。


「シンさん」


 もう会えないかと思ってた。


「シンさん」


 だからあたしにもう少しだけあなたを感じさせて。




◇◇◇◇◇◇




「それでどうなったのよ」

「どうって?」


 あれから半年後。


 あの大量のモンスターの影響で街にも少なからず影響があり、あたしたちも仕事の合間に復旧を手伝ったり差し入れしたりとてんやわんやな毎日を送っていた。


「決まってるじゃない。あの冒険者とくっついたのかよ」

「えっと……」


 ジェシカの質問に言葉が詰まる。


 実はあの後シンさんの首に抱きついて泣きじゃくった後気付けばいつの間にか眠ってしまっていたらしく起きたのは街の簡易病院となっていた広場の一角。


 起きた時にシンさんが居なくてプチパニックになりそうだったけど看護師さんたちの説明で何とか落ち着きを取り戻した。


 あたしが眠ってしまったし、明け方も近かったためにシンさんが街まで運んでくれてたらしい。


 散々泣いて目が腫れてたし、寝顔まで見られてしまったなんて後で顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。


 その時に気付いたんだけどあたしの手足には包帯が巻かれていた。


 あの戦場をさ迷っている内にいつの間にか沢山の切り傷が出来てたらしい。靴もどこかに行ってしまったらしくサイズの合わない靴を借りて一回家に戻った。


 靴を仮設病院に返却したり、お店はどうなったのかと見に行くとあたしがシンさんと出かけたのを知ってた人たちに戻って来ないから心配したと騒ぐので説明するのに時間が掛かってその日は終わってしまった。


 シンさんも忙しいのかお店に少しだけ顔を出したらすぐにどこかに行ってしまうので中々話す機会に恵まれなかったんだけど、やっとこの後お互いの時間が取れることになってあの日のやり直しをすることになっているんだけど。


 そういったことをゴニョゴニョと言っているとジェシカがにんまりと笑みを浮かべてきた。


「ふうん。いい感じみたいで安心したわ」

「まだこれからよ。あ、シンさん! ごめんジェシカあたしもう行くね」


 シンさんとの約束ぴったりにお店に現れたシンさんに手を振ってからジェシカにいってきますと言って飛び出した。


「はいはい、頑張ってねー……あれはくっ付くまで後何日ぐらいかしら? 店のみんなで予想したら面白い? んー、ああいうの見てたらあたしも彼氏欲しくなっちゃったかも」


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