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 シンさんが守ってくれると言うので着いて来たダンジョン。


 シンさんが言っていたダンジョンは意外と近く街から馬車で一時間ぐらいの場所にあった。


 あたしダンジョンなんて暗くてじめじめした洞窟みたいな場所だと主にたけど、このダンジョンは中は広くて草原がどこまでも続いてるんじゃないかってぐらい広く中に居る人の服装もあたしのような街中でよく見かけるような服から冒険初心者のような初々しい格好をした人が多い。


 中に居る普通の動物のようなモンスターは大人しく人懐っこい。


 あたしたちは入り口付近に居るが、奥に行くと2層目に行く階段があるんだとか。


 でも、今日はあたしが居るので2層目に降りるようなことはないと言われて少しだけがっかりする。


 いや、戦えないからこの草原のような一階層でも充分なんだけどね、何て言うかせっかくダンジョンにまで足を運んだのにって。 


 もちろんあたしのように生産系のスキルしか持たないような人でもダンジョンの奥にまで行く方法はある。


 シンさんのような冒険者に護衛してもらうだけだ。危険性の高いダンジョンになるにつれて冒険者に支払う額は高くなっていくからあたしの給料じゃそんなにお願いできないだろうけどね。


「本当に大人しいですね」


 近くに居たウサギみたいな可愛いモンスターに触れてみる。


 ふわふわと柔かい体に思わず頬が緩む。


「ええ、この階層のモンスターに毒はありませんし、この層のはこちらから襲わなければ襲ってこないので」


 シンさんが言うにはここのダンジョンは古くダンジョンに潜るのに冒険者が集まっていく内に人が増え今のような街になって行ったんじゃないかという話だった。


「そうだったんですね。あたし自分の住んでる街だったのにそんなことも知らなかったわ、あ……すみません私ったら」

「いえ、イオさんがどんな喋り方をしていても気にしませんので。あの、俺も敬語辞めるからイオも敬語辞めよう」


 シンさんはお客さんでもあるから一人称を変えてたんだけど、そう言われるとは思ってなかった。


「えっと、考えておきます」


 その答えにシンさんはにこりと笑った。


「あの、ところでどうしてダンジョンなんですか?」


 その笑顔が眩しくて思わず顔を反らしてついでに話題も反らした。


「街中でもよかったんじゃ」

「ああ、それは街中は確かに安全だけど、ここでしか見れないイオの顔もあったんじゃないかと思って」

「私の?」

「そう。街中だとイオは緊張したままで終わりそうだったから」


 そんなことはないと言いたかったが、どうなんだろ? ずっと敬語のままで早く帰りたいと思ってたかも?


 それはあまりに失礼じゃない? いや、でも、店のお客さんと外で会うのって気まずい時あるし。


 うんうん考えているとシンさんがあたしの前に立った。


 その行動に何か失礼なことをしてしまったんじゃないかと慌ててシンの顔を見たが、シンさんはこちらを見て居なかった。


「シンさん? どうかしたんですか?」


 シンの視線の先に何があるんだろう? と辺りを見回すがあたしの視力が悪いのか長閑な草原しか見えない。


「シンさん?」

「……これはまずい」

「へ? きゃっ!」


 いきなり腰の辺りを掴まれ担ぎ上げられてびっくりして声が上がった。


「モンスターの異常発生だ。安全なところに運ぶのでそれまで大人しくしていてください」


 異常発生? あれって何十年か前に起こったのが最後でこの大陸ではもう起こらないのではと言われてたあの?


「あ、あの……」

「黙って舌を噛むかもしれないから!」


 シンさんはそう言うと近くに居た新人冒険者らしき少年を捕まえモンスターの異常発生だから周辺の人に避難させるようにと指示をする。


 その間に空と草原しかないと思っていたこの場所の遠くに黒いポツポツとした物が見え、それがあっという間に線になり、すぐにモンスターの形が分かるようになった。


「シンさん!」

「走るので静かに」


 あたしは戦えないからどこか安全な場所にというのは理解出来る。


 出来るけど、モンスターに飲み込まれていく人の悲鳴を聞く度に胸が潰れそうになる。


「シンさんシンさん」

「大丈夫だから落ちついて」

「でも……」


 シンさんの足は速い。あたし1人担いでいてもビュンビュンと景色が変わって行く。さっきまでダンジョンの中に居たのにあっという間にダンジョンが見えなくなった。


「ここまで来れば平気かな。イオはここに隠れてて」


 シンさんが連れて来てくれたのは街とは反対側の渓谷になってる場所。


 上の方にあたし1人なら上手く隠れられそうな岩場がある。


「シンさんはどうするの?」

「俺は冒険者だから行かないと」

「危ないわ!」


 シンさんの服の裾を引っ張って止めようとするもシンはあたしの手を押さえて服から外した。


「大丈夫だから。それに少しでも奴らを倒さないと街が大変なことになる」

「それは、そうだけど……」 


 でも、それなら誰がシンさんを守ってくれるの?


 冒険者だから大丈夫って何? 冒険者でも死ぬ時は死ぬのよ? お店のお客さんの中にはシンさん以外の冒険者だっている。


 その人たちだってある日お店に来なくなったと思ったら人づてに亡くなっていたなんてこともあるのに。


 どうしてあたしは生産系のスキルしか以てないんだろ。シンさんみたいに戦えたら……そうしたらこんな時守るのは無理だとしても少しぐらい役に立てるのに。


「迎えに来るからそれまでここで待ってて」

「……どれくらい?」

「長引くかもしれない。でも、絶対に戻るから」


 あたしが言いたいのはそんなことじゃない。だけど、言葉は喉に引っ掛かったように出て来ないし、体は今頃になって恐怖に震え始めた。


「大丈夫ここは絶対に守るから」

「あ……シンさん!」 


 シンさんはそう言うと岩場を飛び出して行った。


 慌てて追いかけようとしたけど、この岩場思ったよりも高い位置にあって1人で降りられそうにない。


 こんな高いところを降りて行ったの? と半ば呆然とシンを見送ってしまった。


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