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♯4 海老名探偵事務所


 いつまでもその場に残っているわけにはいかないので、アカツキに連絡を入れ事後処理を任せると、スミレ達は場所を移動した。

 その間もずっと自動人形の少女はスミレに抱き着いたままだ。引き離そうとすると泣きそうな顔になるので、仕方なく抱き上げていると、


「親子というより、姉妹かなぁ」


 なんてミズキが言った。確かに、まぁ、それの方が世間体的に良いかもしれない。

 そんなやり取りをしながら向かったのは、帝都にある海老名探偵事務所だ。

 ここの探偵の海老名アケビが白妙の知り合いなのである。

 場所を借りたいと、事情を説明して連絡をすると、彼は快く了承してくれた。


「あらやだ~、かぁわいい~~!」


 アケビは自動人形の少女を見て両手を組んでそう言った。

 彼はにこにこ笑いながら、


「こんにちは~お嬢ちゃん。お名前は?」


 と問いかける。すると自動人形の少女も、


「サクラです!」


 とつられたように笑って答えた。どうやら名前はサクラと言うらしい。

 そう言えば道中混乱し過ぎて、名前を聞く余裕もなかったな、とスミレは思い出した。


「あら~お名前まで可愛いわねぇ! アタシはアケビよ。アケビちゃんって呼んでね!」

「よろしくお願いします、アケビちゃん!」


 サクラは大きく頷いた。

 アケビは「うふふ」と楽しそうに笑った後、スミレ達へ目を向ける。


「で、この子が戦闘用機械人形(オデット)から出て来たの? こんなに小さい年齢設定の自動人形は珍しいわね」

「ああ。まぁ心が痛んだけど、最初は対処しようと思ったんだ。でもコレでねぇ」


 そう言いながらミズキはスミレの方を見る。ご機嫌なサクラを抱いたスミレは、何とも言えない表情で、


「私にも何がなんだか……」


 と答えた。


「スミレちゃんをママねぇ……。一応聞くけどスミレちゃん、心当たりってあるの?」

「何一つありません。まったくありません、ええ」

「どうしたの、ママ?」

「ママじゃないんですよ……」


 きょとんとした顔で見上げられ、スミレは天を仰いだ。

 ほとほと困った様子のスミレにを見て、ミズキとアケビが苦笑する。

 うう、と思いながらスミレはサクラに、


「あなたはどうして私をママと呼ぶんですか?」


 と尋ねる。するとサクラは、


「この人がサクラのママだよって、教わったから」

「誰に?」

「えっとね、―――――さん」


 名前を言おうとしたとたん、サクラの言葉にザザッと言う雑音が入った。


「なるほど。その辺りの情報にロックが掛かっていると言う事か」

「スミレちゃん、マスカレードの誰かから想われているとかある?」

「ないでしょう。あそこまで見事にぶっ潰してソレなら、正気を疑いますよ」


 さすがに自分達の仲間を、散々撃墜してきた相手に好意を抱くなんて輩がいたら、相当である。

 うーん、とミズキは腕を組む。


「アカツキに連れ帰ると、解体コースだろうけど。……スミレさんをママと呼んでるからねぇ。スミレさんにも調査が入ると思うんだよ」

「私、別にやましい所はないですよ」

「ないんだろうけどね。スミレさん、普通にやっかみの対象だからさ。ある事ない事風潮されて面倒な事になるよ」

「そうした張本人が言う台詞じゃないわねぇ」


 アケビが肩をすくめた。まぁ確かに、スミレを自分の隊に引っ張り込んだのはミズキである。

 しかも英雄と呼ばれるミズキ直々の希望でだ。

 ドブネズミと嘲笑される貧民街出身のスミレがそんな立場になれば、それを狙っていた人間からすればとても面白くない訳で。

 今回の件が広がれば、ちょうど良いとばかりに叩かれて、数に物を言わせて追い出される可能性がある。ミズキはそれを危惧しているのだ。


「私も働く場所がなくなるのは、ちょっと困りますね。あと給料がなくなると、コデマリさんのご飯が食べられなくなるから痛い」

「いや、そこはね、お金いらないって言ってるのに」

「世の中はギブアンドテイクですよ、ミズキさん。有形無形問わず」

「そういうキリッとした顔で言うんだからもう……」


 ミズキは指で頬をかいてそう呟く。


「話は戻るけど。そういう事情で、アカツキに報告する前にアケビさんに一度調べて欲しいんだ」

「オーケー、いいわよぉ。それじゃサクラちゃん、ちょーっと手伝ってくれない?」


 アケビは頷いてからサクラを見る。

 サクラは目を瞬いて、スミレを見上げた。


「ママ……」

「痛い事はしないので、出来れば協力していただけると嬉しいです」

「ママが嬉しいなら、サクラやります!」


 スミレの言葉に、サクラは手を挙げてそう言った。

 ……何だか素直過ぎて拍子抜けしてしまう。

 敵だが、自動人形が好きなスミレは少し笑ってサクラを床に下ろした。


「では、お願いしますね」

「はい!」


 サクラは元気に頷いて、アケビについて隣の部屋へ歩いて行く。

 途中、振り返って手を振られた。何となく振り返している内に、パタンとドアが閉まって姿が見えなくなった。


「……ママかぁ」

「うーん。それなら俺もパパ呼びが良かったなぁ」

「あなたは一体何を血迷っているんです?」


 ぽそりと呟いたミズキ。いつもの冗談だろうと思ってスミレがそう返すと、


「スミレさんからの好感度が低すぎる……」

「そんな事はないと思いますけれど。あ、でも好感度ならコデマリさんの方がかなり高いです。ぶっちぎりです」

「餌付けされてる奴だ……」


 何故かミズキはガッカリした様子だった。

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