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帝都のオデット乗り  作者: 石動なつめ


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34/34

♯34 どうにかこうにか片付いて


 事態が収束したのは、それから数時間後の事だった。

 怪我人は多数いたものの、幸いな事に重傷者や死者は出ていない。要注意人物達の監視役をしていた職員達が、直ぐに連絡を飛ばし、避難誘導に当たったのが功を成した結果だ。

アカツキの本部へ戻ったスミレは、格納庫の外の壁に背をついて座っていた。

 辺りはすっかり黄昏の色に染まっている。


 そんなスミレの頬に、急に冷たい缶ジュースが押し当てられた。

 うわ、と驚いて見上げればミズキの姿がある。彼は両手にオレンジジュースの缶を持っていた。


「はい、どーぞ」

「ありがとうございます」

「んふふ」


 ミズキは笑うと、スミレの隣に座って、カシュ、と缶のフタを開けた。スミレも僅かに遅れて同様に。

 オレンジのほどよい酸味が疲れた体に染み渡るようだった。


「ルコウさんの動機、聞いた?」

「ええ、少し」


 ミズキの言葉にスミレは頷く。

 防衛課から事情聴取を受けた際に、彼女は抵抗もなく、静かに話をしてくれたそうだ。

 理由はマスカレードと同じく、アカツキのやり方に対しての不満だったそうだ。


 渋紙ルコウには、難病を患う妹がいた。その治療方法はまだ帝都にはなく、外国にあったそう。

 何とか治療をして貰おうと頼んだものの、そこは帝都にある花水晶を強硬手段で手に入れようとしていた国の一つだった。

 やり取りをしていた医者は、病人を助けるのに国同士は関係ないと、受け入れてくれた。

 しかし―ー結局それがその国にバレて、医者もろとも捕まってしまい、そのまま命を奪われた。


 もし、国交が正常であったなら。花水晶を条件を付けて上手く商売に出来ていたのならば。

 家族と、そしてその優しい医者は生きていたはずだと、ルコウは言ったらしい。

 悲しみが憎しみに、絶望が恨みに。その気持ちがアカツキに向けられた。

 そうして彼女はマスカレードに入り、スパイとしてアカツキの職員になった、というわけだ。

 ただ、マスカレードのやり方自体にも「ぬるい」と思っていたらしく、今回の事件に関する大部分の情報は、隠していたようだが。

 

 マスカレードにもアカツキにもすべて知られてしまった事で、諦めたような様子で話してくれたと、防衛課の職員が教えてくれた。


 同情をする部分はある。けれど、だからと言って、彼女のやり方は無謀だった。

 もし作戦が成功していたとしても、全貌知ったマスカレードは彼女を見限っていただろう。

 なぜこんな凶行に至ってしまったのか。スミレはジュースを飲みながら考える。


「スミレさんのさ」

「はい」

「十年前の件。……あれさ、ほぼ衝動的だったみたいだよ」

「衝動的……ですか?」

「うん。黛リンドウの口封じをする。――――それしか見えていなくて、やった事だったって」


 ミズキの言葉に、スミレは「ああ」と小さく呟いた。

 あの頃から、今みたいに形振り構わず行動していれば、きっと被害は各地でもっと出ていただろう。

 だけどあの後は「黛リンドウ」の名前を使っての事件はまったくなかった。


(たぶん、ルコウさん、怖くなったんだ)


 人を殺めたという事実に。

 十年前ならルコウはスミレと同じ十七だ。

 バショウも「若気の至り」と言っていたが、きっとそうだったんだろう。

 想像するしかないが、スミレはそう思った。


「私は怒って良いんですかね」

「良いと思うよ」

「そうですよね」


 呟いて、スミレは空を見上げる。

 赤く、赤く染まる空。綺麗な空だ。その端は、夜の色に染まり始めている。


(……とりあえず、いったん棚上げにしよう)


 色々とあったので、気持ちの整理も出来ていない。

 だからスミレはそう思った。

 そうしていると、パタパタと、こちらへ近づいて来る足音が聞こえた。


「ママ!」


 顔を向けるとサクラの姿がある。

 彼女はスミレのところま駆けてくると、ぎゅうと抱き着いた。

 そしてぐりぐりと頭を摺り寄せて来る。


「ママ、ママ。サクラ、がんばりました!」

「はい。サクラさん、とてもがんばってくれました。ありがとうございます。来てくれて、嬉しかったですよ」

「えへへへ」


 スミレが空いた手でサクラの頭を撫でると、彼女は嬉しそうににこにこ笑う。

 それを見てミズキが、


「二人って、本当にそんなに時間が経ってないけど、親子みたいでいいよねぇ」


 なんて羨ましそうに言った。


「慣れてしまいましたし。それに、うん。全力で好意を向けられたら、落ちますよ」

「なるほど、確かに。そして良い事を聞いた」

「何がです?」

「んふふ。こっちの話、こっちの話」


 首を傾げるスミレに、ミズキは楽しそうに笑ってそう返したのだった。




◇ ◇ ◇




 事件から一月後の特務課。

 そこでは、いつにも増して賑やかな声が響いていた。


「スミレせんぱーい! スミレせんぱーい! 見てください! お花貰っちゃいました!」


 声の主はヒナゲシだ。彼女は淡い色合いの綺麗な花束を腕に抱え、にこにこ笑顔でスミレに見せにきている。

 話を聞くと、広報課の仕事で外出した際に、重い荷物を運んでいる老夫婦を見かけたのだそうだ。大変そうだと思った彼女は、運ぶ手伝いをしたらしい。

 お礼に夫婦が庭で育てている花を貰ったとの事のようだ。

 嬉しそうに報告してくれるヒナゲシに、スミレも微笑む。


「良かったですね、ヒナゲシさん。とても綺麗です」

「はい! えへへ……」


 あの事件のあと、ヒナゲシはずいぶんと落ち着いた。広報課の方でも、真面目に仕事をしていて、帝都の人達からの評判も良いと聞いている。

 彼女なりに色々と思うところがあったようだ。広報課の仕事もしつつ、有事の際は協力できるように戦闘用機械人形(オデット)操縦士の資格も取るのだと言っていた。

 スミレも彼女に対しての態度を反省し、あれからは真正面からちゃんと話をするようにしている。ヒナゲシが落ち着いた理由はそれもあるよとミズキに言われた。


 そんなこんなでやり取りをしていたら、当時よりずっと懐かれてしまっていた。

 スミレを見るたびに笑顔全開で駆けてくるヒナゲシを見ていると、ちょっとサクラと似ている気がする。

 そう言えばサクラはどこへ行ったのだろうか。スミレがそう思っていると、


「ただいま~。おや、ヒナゲシさん。今日も元気だね」


 片手を挙げてミズキが戻って来た。

 彼を見たヒナゲシも花束を掲げ、


「はい! 元気ですよ、ミズキ先輩!」

「おっ、綺麗だねぇ」

「ふっふっふーん! でしょうでしょう!」


 なんて応える。

 そう言えば、この対応も変わったな、とスミレは思い出す。

 以前のヒナゲシはミズキを前にすると頬を染めたり、しどろもどろになっていたが、今はそんな様子はない。

 ごくごく普通の同僚や先輩に対してのそれだ。好意を抱いていたのかな、とも思っていたが―ーもしかして、ただ単に慣れていなかっただけなのでは。そんな風にスミレは思っている。


「そうだ、ミズキさん。サクラさんを見ませんでしたか?」

「サクラさんなら、アジサイの研究室にいたよ。二人で暗号解読中とか何とか……」

「暗号? 何かの研究の一環ですかね」

「かなぁ」


 そんな話をしていると、再び特務課のドアが開いた。そしてサクラとアジサイが飛び込んでくる。


「た、た、た、大変ですよぉー!」

「アジサイ、血相を変えてどうしたの?」

「いえ、あの、ね、サクラさん!」

「はい!」


 アジサイに話を振られ、サクラは大きく頷く。

 そして何やら文字が印刷された紙をスミレ達に見えるように掲げた。


「ええと、何々? サクラがお世話になっております。もしよろしければ、今度、謝罪も兼ねて、一度そちらへお伺いしたいのですが、どうでしょうか?」

「差出人は……黛リンドウ!?」


 スミレとミズキはぎょっと目を剥く。

 サクラだけはにこにこ笑って、


「はい! サクラを作った人です!」


 なんて言った。

 スミレとミズキは顔を見合わせる。

 渋紙ルコウの自白により、黛リンドウへかけられた疑いは晴れた。マスカレードに協力していた一部はあるが、その辺りは彼も被害者であるという事や、先日の事件を裏で協力してくれていた事が判明したため、上により相殺で良いのではないか、むしろ謝罪も必要ではという話が出ている。

 なので、彼が帝都へやって来る事については、ひとまず問題はない。


「……そうですね。私も出来れば会ってみたいと思っていました」

「まぁ、危険性はなさそうだし。上に報告しておけばオーケーだと思うよ。……ちょっと呼ばれるかもだけど」

「やったー!」


 スミレとミズキが頷くと、サクラは嬉しそうにぴょんと跳ねた。

 それを見てヒナゲシが目を瞬く。


「サクラちゃん、嬉しそうですね!」

「はい、嬉しいです、ヒナゲシちゃん!」

「おや、お二人はいつの間にそんな風に呼び合う中に?」


 サクラちゃん、ヒナゲシちゃん、とそれぞれ呼ぶ二人にスミレは首を傾げる。

 すると二人はにこーと笑って、


「同士なので!」


 なんて口を揃えて言った。よく意味が分からないが、仲が良いのは何よりである。

 スミレがなるほど、と頷いている横でミズキが、


「先を……越された……!」


 なんて悔しがっていた。こちらもよく分からない。

 まぁ、それはともかく。

 スミレの色々は、黛リンドウがきっかけのようなものだ。

 そこに複雑な感情はあるけれど、でも―ー彼のおかげで、サクラと出会えた。家族の死の真相を知る事が出来た。

 だからまずは、会えたら「ありがとう」と言おう。

 よし、とスミレが思っていると、


「俺もスミレちゃんって呼んだ方が良い?」


 なんてミズキに聞かれた。

 本当に、まったく、意味が分からない。


「いえ、結構です」

「すげないっ」


 あっさりスミレが断ると、ミズキはがっくり肩を落とし。

 その様子が面白くて、サクラやアジサイ、ヒナゲシは思わずと言った様子で噴き出したのだった。




こちらで完結となります。

ロボットに乗って戦うお話はいつか書いてみたいな~とずっと思っていて。

書いている間とても楽しかったです!

お読みいただき、ありがとうございました!

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