♯33 優先順序
ヒナゲシ達を下ろした後、スミレは直ぐに戦闘用機械人形を操縦し、闘犬型の対処に向かう。
両腕を爪剣へ変換しながら通りを駆けると闘犬型は直ぐにこちらに気が付いた。
二機の目がスミレの戦闘用機械人形に向けられる。
危険性を察知したのか、撃破対象として優先的にターゲットされたようだ。
(この戦闘用機械人形に、味方認識はしていないのか)
闘犬型は無人機だ。
バショウのように操作しない時は、自動操縦でプログラム通りに動く機体だ。
だからこそ、間違えて味方を攻撃しないように、ターゲットから外れるようにしてあるのが普通である。
けれど、目の前の闘犬型の様子を見る限り、それはないようだ。
バショウが外したのか、それともルコウの思惑か。
ただ一つはっきりしているのは、撃破すれば良い、という事だ。
「まずは一機」
初めて乗った機体。時間はかけられないが、スミレの愛機であるワダツミと勝手が違う。
二機をまとめてなんて欲張らず、確実に一機ずつ。
スミレはまず、右側の闘犬側に狙いを定めた。
注意するのは背中のミサイルランチャーだ。撃たれる位置を調整しないと、被害が拡大する。
砲撃の兆候を捉えながら、スミレは爪剣の先で地面擦りつつ、一気に距離を詰める。
そして闘犬型の懐――腹の下に爪剣を滑り込ませ、上空に跳ね上げた。
右の前足と肩の部分を斬り飛ばし、闘犬型が頭部側から宙を舞う。同時に背中のミサイルが発射された。
スミレはもう一方の手で闘犬型の頭を貫いて破壊する。
その間、ミサイルは空高くへと昇って行く。
あれが落下する前にもう一機を、と向きを変えかけた時、上空のミサイルが爆発した。
直ぐに確認すれば、銀灰色の戦闘用機械人形が、上空をスピードを上げて通過したところだった。
跳ね上げた闘犬型の姿もない。
恐らくすれ違いざまに、手に持った大槌で闘犬型をミサイルにぶつけ、双方を破壊したのだろう。
良い腕だーーーーが。
「ワダツミ……!」
そう、あれはスミレの愛機であるワダツミだ。
『ママ! サクラです!』
確認すると同時に、ワダツミから通信が届き、音声と共にサクラが表示された。
普段と違うのは桜色の瞳が花水晶の色に変わり、輝いている事だろうか。
「サクラさん、乗れましたか!」
『はい! アジサイさんもコデマリさんもスギノさんもすごいです!』
サクラはにこにこ笑って特務課の仲間を褒める。
事前にミズキから聞かされていたが、しっかりと完成させていた事に、スミレも感心する。
スミレも笑みを返しながら、もう一機の闘犬型へ向き直る。
突進してくる敵機を爪剣で防ぎながら、その頭部を刃で突き立てる。相手の勢いで、刃は深く、深く刺さり。
スミレはそのまま腕を動かし、頭部を引きちぎる。そしてもう一度、引きちぎった場所からその身体へ、もう片方の爪剣で貫いた。
花水晶ごとだ。
抵抗していた闘犬型だったが、動力を失うと直ぐに動きを止めた。
「…………よし」
ひとまずこちらへ向かってきた闘犬型は撃破出来た。
周辺の様子を確認しつつ、スミレはサクラへ呼び掛ける。
「助かりました。ありがとうございます、サクラさん」
『えへへ……。ママの役に立てたなら良かったです』
スミレがお礼を言うと、サクラははにかむ。
ふふ、とスミレも微笑んだ。
「ミズキさん達はどの方角へ向かいましたか?」
『ミズキさんは南区、防衛課は東と北です。たぶんそろそろ……』
『はーい! そろそろオッケーだよー!』
スミレと話をしていると、ミズキの通信が割り込んできた。
彼は朗らかな笑顔で手を振っている。
『南区の闘犬型の闘犬型は撃破完了。東区、北区もそろそろだと思うよ』
「それは良かった。……んですが、どうして南区に?」
『ま、優先順位的にね、避難が後回しにされる可能性があるからさ。他を防衛課に任せて、俺だけこっちに来たんだよ』
ミズキはそう言ってウィンクをする。
ああ、それは確かに、とスミレは思った。
十年前も黛リンドウの情報が南区へ届くのには時間がかかった。
当時はその事が問題視されて、改善されてきてはいるものの、人の意識の根底にはまだ南区はそういう扱いだ。
「ありがとうございます、ミズキさん」
『いえいえ。……おばあちゃんとの約束でもあったからさ』
「ユリさんですか?」
『うん』
ユリーースミレがお世話になった元アカツキの職員だ。
あの時の事件を、一番気にしてくれていたのはユリだったと、アカツキに入ってからスミレは知った。
それをミズキに繋いでくれていたと知って、スミレは有難くて、そして嬉しくなった。
思い出すのが辛い事件ではあるが、それでも南区はスミレの生まれた場所だから。
『さて、撃墜はしたけど、終わりじゃないよ、スミレさん。そしてサクラさん。今出ているのがすべてでない可能性がある』
「はい。くまなく調査ですね」
『サクラもがんばります!」
『オーケー! それじゃがんば……る前にスミレさん、マスカレードのマークにバッテンか何か、適当な感じでつけちゃってくれる? 目立つし』
「あ、確かにそうですね。了解です」
ミズキに言われて、スミレは自分の搭乗している機体をモニターで確認する。
確かにマスカレードのマークを引っ提げてあちこち動けば、余計な混乱を起こすだろう。
右腕側の爪剣を持ち上げて、そこに印をつけかけて、
「…………あ、そうだ」
少し考えて、桜の花を模して、傷をつけた。
サクラがパアッと顔を輝かせ、ミズキは『くっ、次はミズキの花も候補に……!』なんて言っていた。
いや、綺麗だけどそれはそれで難しいな、なんて思いながら。
スミレは上空に飛び上がった。




