♯30 闘犬型の襲撃
反射的にスミレはコックピットから飛び出した。
その直後、背後で小規模の爆発が起きる。
吹き飛ばされる前にスミレは、ハッチの扉を手で掴み、何とか落下を免れた。
ギイギイと爆発の衝撃で揺れながら、ドッと鳴る心臓を落ち着かせていると、下の方から「あら、残念」とルコウの声が聞こえて来る。
どうやら罠だったようだ。ヒナゲシの声がなければ危なかった。
「何だ、ヒナゲシちゃん、起きちゃったのか~。もうちょっとしっかり昏倒させとけば良かったなぁ」
「てめぇ、何つーモンを……!」
ルコウとヤナギのやり取りを聞きながら、スミレは反動をつけて、再びコックピットへ上がる。
中は火薬の臭いがまだ残る。壁にはひびが入り、部分的に黒く焦げていた。
だが、思ったよりも被害が少ない。
確かに生身の人間が避難せずに爆発に巻き込まれれば、大怪我をしていた事だろう。
しかし、コックピット内はどうかと言えば、そこまで酷くはない。
火薬の量で爆発の範囲を最小限に調整していた――だけでなく、コックピット内自体を補強していた、というようにも思える。
事実、あの爆発の中で、モニター部分はごくわずかなひび割れ程度で済んでいる。
(逃げる気っぽいな、これは)
そう判断すると、スミレはコックピットから顔を出し、
「ヤナギさん、しっかり拘束しといてください。隙を見て逃げます、その人」
と伝える。ヤナギは「まかせとけ、ガチガチに拘束しとくわ」と応えてくれた。
その時、初めてルコウは嫌そうな顔をする。
「ええー? 女の子にそんな真似するぅー?」
「子がつく歳じゃねーだろが」
「あらやだ、歳なんて言って。分かってないなぁーだからモテないのよ、ヤナギくんは」
「うるせぇよ、余計なお世話だっ」
ヤナギは顔を真っ赤にしながらルコウの手と足に手錠をかける。
あれなら自力で逃げられはしないだろう。
よし、と思っていると、不意にコックピットのモニターから、ピピ、と機械音が聞こえた。
振り返ると、先ほどまで何も移していなかった画面に、文字と数字がカチカチと自動で表示され始める。
『起動より十分経過、闘犬型放出開始』
その瞬間、ぶわり、と画面に帝都各地の映像が表示され始める。
東西南北、それぞれの区の建物。そこから通常より小型の闘犬型が出現し始めた。
「これは……」
映っているのは現在の帝都の映像のようだ。
スミレは耳につけた通信機に手を伸ばし、ミズキへ呼び掛ける。
通話状態はずっとオンだった。
現状の様子が聞こえるように、スミレもヤナギも、そのままここへ突入している。
「ミズキさん、緊急事態です! 帝都各地に闘犬型出現!」
スミレが短く状況を告げる。
すると通信機から、
『オーケー、準備万端だ!』
と、ミズキの軽快な声が返って来た。
◇ ◇ ◇
スミレから連絡が来た時、ミズキは自身の戦闘用機械人形『シノノメ』に搭乗していた。
理由は、スミレと防衛課の職員達が太陽珈琲館へ出発した直後、
『監視対象達に不審な動きがあり』
との連絡が入ったからである。
一人二人ならまだしも、全員だ。これは何かあるぞと考えるのが当然だ。バショウの言葉からも近々何かあるとは踏んでいた。
なので現在アカツキに残っている防衛課とも連携し、いつでも出撃出来るように準備していたのだ。
そこに、これである。
闘犬型が出現したのは、それぞれの監視対象が向かった場所からだ。
東西南北、それぞれの廃屋や廃ビルから飛び出した闘犬型達は、アカツキと、一部が西区へ向かっているらしい。スミレの連絡とほぼ同時に、監視役の職員からも一斉に連絡が入った。
通常よりやや小型の闘犬型達は、進行方向上の建物を破壊して前へと進んでいるようだ。
「……西区は、たぶん太陽珈琲館だな」
ミズキはそう呟くと、
「可及的速やかに闘犬型を破壊する。準備は良いかい?」
と、隣の戦闘用機械人形――本来スミレが登場している『ワダツミ』へ呼び掛ける。
『はい、大丈夫です。サクラ、いけます!』
そこからは自動人形のサクラの声が返って来た。
その声に迷いはなく、戸惑いもない。
堂々としていて気持ちが良いね、とミズキは思う。
さて、何故サクラが戦闘用機械人形に搭乗しているか。
その理由は単純にミズキが上に申請したからだ。
特務課の戦闘用機械人形操縦士は二人。その一人が欠けた時、一機で出撃しなければならなくなる。
一機で対処出来る状況もあるが、帝都の安全面を考えれば、なるべく二機で出られる事が望ましい。
防衛課の戦闘用機械人形があったとしてもだ。彼らの技術も目覚ましいものだ。だが、それでも動ける数は多い方が良い。
特に特務課は、その存在意義自体が、あらゆる方面の防衛に向けられている。
だからこその自動人形の出番である。
自動人形は戦闘用機械人形に乗る事が出来ない。その理由はお互いの花水晶が干渉し合い、不具合が生じるからだ。
けれどサクラは戦闘用機械人形に搭乗してここへ来た。お互いの花水晶を同一化して、不具合を抑えたのだ。
ミズキはそれを上に報告した。そしてアジサイや特務課の技術者達に頼んで、同様の処置をして貰ったのだ。
これで特務課の戦闘用機械人形を自動人形は動かせる。
さて、そんな仕事をしてくれた仲間達はと言うと。
ミズキが下へ目を向ければ、ハラハラした様子で『ワダツミ』を見上げるアジサイとコデマリ、スギノの姿があった。
「あ、あの、何かおかしいなと思ったら、すぐに止まってくださいね……!」
「サクラちゃーん! 無理しちゃダメですよぉー!」
「ミズキ、ちゃんと気を付けててやれよー!」
三人はそんな事を言っている。
本当に好かれたものだ。ミズキは、んふふ、と笑う。
「まかせて! それじゃ、サクラさん、行こうか! スミレさんの方は君に任せるよ!」
『任されました! ママはサクラが守ります! ――――花水晶へ接続を開始します!』
ブン、と音を立てて、花水晶のような光が、戦闘用機械人形の目に灯る。
そして特務課の二機は、格納庫を飛び出した。




