♯28 突入
準備を整え、スミレが防衛課の数人と帝都西区にある太陽珈琲館に到着したのは、それから一時間ほど経った頃だった。
外で待機していた職員と合流し話を聞けば、ヒナゲシ達は建物の中へ入ったまま、まだ出て来ていないらしい。
「はー、それにしても、物騒な話だよなぁー」
同行している防衛課の戦闘用機械人形操縦士、梅鼠ヤナギが太陽珈琲館へ目を向けながらそう言う。
歳は二十六。スミレやミズキの先輩にあたる、腕の良い操縦士だ。
一連の事情を聞いた時、彼は苦い顔で腕を組み、
「自覚の有無問わず、身内に敵がいるってのは、一番厄介なパターンだわ。しかもあいつってのがなぁ……」
と言っていた。同じ課に所属する仲間から裏切者が出たなんて、信じたくない話でもあっただろう。
しかし彼は意外と切り替えは速く「ま、だったら、うちのところが何とかするのが筋ってモンだよな」とも言っていた。
防衛課に協力要請をした時に、一番早く手を挙げたがヤナギだ。
「いそぉし、そんじゃ行きますかね」
「はい。状況次第では応援を要請します。外に逃げた時のために、入り口付近の見張りもお願いします。買い物客との区別は……」
「チェック済だ。従業員はどうする?」
「外に出た奴は別の場所で待機して貰った方が分かりやすいな。抵抗を受けた場合の制圧許可は出てる」
「了解」
一通り話を終えると、防衛課の職員と監視役の職員はそれぞれ分かれて行動を開始した。
太陽珈琲館へ向かうのはスミレとヤナギだ。
二人は直ぐに入口へ向かい、ドアを開けて中へ入る。
物販をしているフロアには大勢の買い物客で賑わっていた。
(外へ出て貰った方が安全ですね)
(そうだな)
小声でやり取りをすると、周囲をぐるりと見回して、
「失礼、治安維持組織アカツキです! 只今、こちらに爆弾を仕掛けたとの犯行予告がありました!」
「これより調査に入りますので、いったん外へお願いします!」
と大きな声で言う。もちろん爆弾云々は嘘だ。
二人の言葉に買い物客達はざわつくと、手に持っていた商品を置いて外へ向かい始める。客以外に従業員達も「えっ」「本当に?」と青褪めた顔で、店の外へと出て行く。
それを確認していると、太陽珈琲館の従業員――他とは違い、制服に金色の襟章がついている――が慌てた様子で駆け寄って来た。
「あ、あの、何のお話ですか? そのような連絡はまったく……」
「ええ、連絡はしておりませんね。ですが、この方がそちらにも良いかと思いまして」
「え?」
スミレはそう言うと、捜査令状を広げて見せる。
そこに記されていた文面に、従業員の顔がサッと顔色を変えた。
「こちらに、反乱組織との繋がりがあるという、嫌疑がかかっています」
「それは……」
「噂は噂を呼びますので、こうさせていただきました。やましい事がないのでしたら、従っていただきたい」
スミレは努めて冷静に、諭すように告げる。
「やましい、ですか。……アカツキは実に横暴ですね」
「それが仕事ですので」
「そうですか。……分かりました、では、私達は外へ――――」
従業員はそう言って、ドアの方へ体を向け。
直後、服の袖からナイフを滑らせ、大きく薙いだ!
反射的にスミレは身体を後ろにそらせる。ちり、と前髪が刃先に当たって僅かに切れた。
スミレはその態勢で、相手の顎を蹴り上げる。ぐ、と顔を歪めたその頭を掴んで、ヤナギは床に叩きつけた。
「いや本当に物騒じゃんなっ!」
「まったくですよ」
スミレがそう言いながら周囲の様子を確認する。
フロアにはまだ留まっている従業員達の姿があった。
彼らの顔には多少の動揺はあるものの、怯えはない。じりじりと、スミレ達を取り囲むように近づいて来る。
「すげぇやましい事があるじゃんよう。で、山吹、格闘技はいかほど?」
「ええ、まぁ、操縦士の嗜みていどに?」
「だよなぁ!」
ハハ、と笑いながらヤナギは頭を掴んでいた男を気絶させ、立ち上がる。
スミレは耳につけていた通信機に手を伸ばす。
「山吹です。太陽珈琲館はクロ。応援を要請します」
そして短くそう言うと、
「――――まずはここを制圧します」
「おうともさ!」
ヤナギと共に従業員達へ突撃した。
◇ ◇ ◇
スミレとヤナギがそのフロアを制圧したのは、それから間もなくの事だった。
外で見張っていた仲間にその場を託すと、スミレとヤナギは建物の奥へと向かう。
「この先の地下だったな」
走りながらヤナギは言う。一番最初に気絶させた男から聞き出した情報だ。
従業員用の通路の奥にある階段から地下へ降りた先。そこへルコウとヒナゲシは向かったと、あの男は言っていた。
その途中も、敵対意志のある従業員達と遭遇したが、先ほどと同様に床に沈めて先を急ぐ。
「やべぇもんを持ってないといいんだがな……」
「そうですね。ただ、まぁ、その辺りは……あまり良い期待は出来ませんが」
そんな話をしながら地下へ続く階段を降りて進むと、その先に大きな鉄製のドアがあった。
スミレは自動拳銃を抜く。そしてヤナギと目で合図をすると、一気にドアを開く。
現れたのはまるで格納庫のように天井の高い空間だ。
飛び込んで、同時に構えた銃口。
その先に探していた人物の姿があった。
「――――あっ、やっほースミレちゃん! ヤナギくんも来たんだねぇ」
ひらひらと手を振りながら、いつも通りにルコウは笑う。
「ルコウさ」
名をを呼び掛けた時、その背後にあるものに、スミレとヤナギの目が釘付けになった。
黒色の戦闘用機械人形が一機。
そこには反乱組織マスカレードのマークが塗装されていた。
「ん~、最近、疑われてるかな~って思ったんだけど、やっぱりねぇ」
「渋紙……」
「やだー怖い顔したらダメだよ~ヤナギくん。ただでさえ、顔怖いんだから!」
「うるせぇよ。お前、どういうつもりだ」
「アハ」
ヤナギの言葉にルコウの目が細くなる。
「分かってて聞いてる?」
「そうですね。お答えを、ルコウさん」
「うふふ、真面目だねぇ。……それではご期待通りに応えてあげましょう!」
ルコウはそう言うと、芝居がかった調子で手を広げた後、胸にあて、
「治安維持組織アカツキの防衛課所属改め――――マスカレードの渋紙ルコウです。よろしくねぇ」
なんて、にへらと笑って言ってのけた。




