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帝都のオデット乗り  作者: 石動なつめ


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♯26 サクラだけが何故来たか


 カンナと別れた後、スミレは気になってヒナゲシを探したが、見つからなかった。

 見かけたという職員によると、ルコウと一緒に外出したらしい、という事は分かった。


「うーん……」

「スミレさん、どうしたの?」


 特務課に戻り自分の机で唸っていると、休憩時間にサクラとカードゲームをしていたアジサイに聞かれた。

 人見知りの激しいアジサイだが、サクラの事は気に入っているらしく、こうしてよく相手をしてくれている。

 サクラもサクラで、構ってくれるアジサイを好意的に思っているのか、特務課の中で一番懐いている様子だった。

 まぁ、その事実にミズキがとても悔しがっていたが。


「いえ、ちょっと。……朽葉ヒナゲシさんの事が気になって」

「あ、はは……あの圧が強い子かぁ……」


 思い出して、苦手そうな面持ちでアジサイは呟く。

 想定していたが、やはりあまり得意な相手ではないようだ。


「あの子がどうかした?」

「いつもより様子が変だったんですよね……。あと、少々自分の態度を反省しています」


 厄介な相手という意識が強くて、ぞんざいな態度を取っていたなとスミレは思う。

 そう話すと、アジサイは首を傾げ、


「頼られるのと、寄りかかられるのは違うから、限度を越えたら跳ねのけるのはアリでは……?」


 なんて言った。そういうものだろうか。

 スミレ自身が対人関係に強い、とはお世辞にも言えないので、難しい問題である。

 もっともアジサイがその方面に強いかと考えれば、そうでもないのだが。


「ママ、人間は複雑ですね。サクラにはまだまだ分かりません」

「私にもまだまだ分からない事ばかりなので一緒ですねぇ」

「あ、僕も僕も」


 するとサクラの目が「一緒!」とキラキラと輝く。どうやら嬉しいらしい。

 そんな彼女を見て、アジサイはしみじみと、


「……本当に良いAI搭載しているなぁ」


 なんて言った。


「この子を作った人、相当腕の良い技術者なんだろうな……会って話がしてみたいですよ」

「そうですね。……たぶん、アジサイさんは話が合うのでは、と思いますよ。覚えている限りだと、穏やかな人でしたし」

「そっかぁ……機会があったら良いなぁ」


 アジサイの言葉に、スミレは自分も、と心の中で呟く。

 でも、ただ話をしたい、というのとは少し違う。スミレの場合は十年前の事を黛リンドウに聞きたいのだ。

 あの時何があったのか。家族はどうしていたのか。そして犯人は誰だったのか。


(サクラさんを送ってきたなら一緒に来たら良かったのに)


 まぁサクラが来たばかりの頃だと、問答無用で捕まるだけだが。

 けれどあの時はサクラだけだったとしても、解体される可能性はあった。

 ついて来た方が、まだ良かった……かどうかはともかくとして、作った人間としては少々無責任でもあるのでは、と思わなくもない。

 そこまで考えてスミレはふと、とある可能性に気が付いた。


(……いや、もしかして、来られない理由があったのでは)


 例えば、来たら命を奪われる、とか。

 いくら凶悪な爆弾犯だったとしても、敵意や攻撃意志が見られなければ、アカツキは即座に射殺の類をする事はない。

 極めて慎重に身体検査をした上で捕らえて尋問をし、その罪の裁量を測って刑に処す。結果的に死刑――となる場合もあるが、それは稀だ。

 どういう結果になろうが、大人しくしていれば即座に死ぬなんて事にはならない。


 スミレの推測が合っていれば、黛リンドウはアカツキに自分の命を狙う敵がいると知っている事になる。

 では何故、彼は命を狙われるのか。

 

(十年前の爆発事件……?)


 彼が捕まった辺りの事件だ。あの辺りで、黛リンドウを生かしていては不都合な何かがあった。

 そうなると、アカツキから逃亡した一度目の爆発は、彼を殺すために行われたものだった事になる。

 つまり二度目の爆発も――――。


「ママ、大丈夫ですか?」


 考えに耽っていると、くいくい、と控えめに服を引っ張られた。顔を向けると心配そうに桜色の瞳が向けられている。


「う、うん。青い顔になっていますよ、スミレさん」

「……すみません。ちょっと嫌な想像を」


 そう返していると、特務課の部屋のドアが開いて、ミズキが入って来た。

 彼はスミレ達を見つけると片手を挙げる。


「いたいた。スミレさん、ちょっと良い?」

「あ、はい、大丈夫です」

「うん、ごめんね……って、顔色良くないけど、どうしたの?」

「そこまで悪いですか?」

「うん」


 大きく頷かれ、スミレは片手で顔を覆う。

 相当悪いらしい。

 スミレは少し迷ったが、今の想像をミズキを含めた彼らに話す事にした。


 あくまで推測で、とつけた上で、黛リンドウの話をスミレはする。

 アジサイは「ひえっ」と青褪めていたが、ミズキは「なるほど」と納得した様子だった。


「……確かにあり得るね。黛リンドウに敵対意志がなかったのだとしたら、十年前に捕まった時点で、すべて話せば良かっただけだ」

「リンドウさんは、アカツキの事を嫌いではありませんでした」


 するとサクラがそう言った。

 三人の視線が集まる中、彼女は、


「リンドウさんは、お金のためにマスカレードに協力してしまった事を、ずっと後悔しています。だから私を、ママのところに向かわせました」


 と言った。


「それは償いとして?」

「はい」

「サクラさんは、ピンポイントで私を選んだ理由について知っていますか?」

「ママの家族が亡くなった原因を作ったのは自分だからって」


 サクラは真っ直ぐにスミレを見上げ、言葉を続ける。


「あんなに優しくしてくれたのに、自分に関わったせいでママの家族を死なせてしまった。二度とあんな事はさせないって」

「…………」


 彼女の言葉にスミレはどう反応したら良いか分からなくなった。

 言葉なく小さく口を動かしていると、サクラがしゅんとなる。


「……プロテクトが掛かっている間は、話をしたら駄目だよって、リンドウさんに言われていました。ごめんなさい、ママ」

「あ、ええ、いえ……」


 自動人形は嘘を吐かない。

 だから――インプットされた情報や、聞いた情報が嘘でなければ、サクラが言っているのは真実だ。

 真実、だとして。

 十年前の事を、それほどに気にしてくれているとは思わなかった。

 何となく、ぎゅう、とスミレはサクラを抱きしめる。サクラは目を丸くしていた。

 ミズキとアジサイは微笑ましそうな眼差しになった。

 それから彼は、


「ねぇサクラさん。スミレさんが危険な理由って何なのか知っている?」

「腕の良い戦闘用機械人形(オデット)の操縦士になったからです」


 サクラはそう答えた。


「防衛課も頑張っていますが、マスカレードの戦闘用機械人形(オデット)を最も多く撃退しているのがミズキさんです。そこにママが増えました。ママとミズキさん、どちらかを先に狙うとしたら、落としやすいのはママです。身体的にも、精神的にも。リンドウさんが警戒している人は、味方に出来なければ、命を奪えば良いと考えます」

「…………」

「自動人形の身体は硬いです。盾になれます。だからサクラはママを守れます」


 アカツキにいる間は、ミズキや、他の人の目がある。

 戦闘用機械人形(オデット)に搭乗している時を狙うとしても、映像は記録されているから下手な事は出来ない。

 狙うとしたら一人の時だ。

 家に一人でいるような、そんな時。

 だから家に連れて行けるような、そんな条件でサクラは作られた。

 スミレのためだけに彼女は作られたのだ。

 何だかスミレは泣きたくなった。


「でも、それなら……機会は今までありましたよね。なのにどうして、来たのは今なんですか?」


 スミレの様子を見つつ、アジサイがおずおずと聞く。


「アカツキを破壊する計画が近いからです。仲間に引き入れられなかったので、戦力を削ぐ方に力を入れたと考えます」

「なるほど……って、そそそ、それなら防衛課もやばいんじゃなんですかっ?」

「そこは……」


 サクラは少しだけ迷った後、


「リンドウさんの知り合いが、こっそり何とかしてます」


 と言った。思わず三人はぎょっとした。


「待って。そっちの方も結構大事なんだけど!」

「内緒です」

「内緒に出来ないやつだぁ……。でも、今はしといた方が良いかもしれない奴だぁ……」


 アジサイが頭を抱える。最後にとんでもない爆弾が落とされたものである。


「ああ、でも、何となく情報が伝わってる理由は分かったよ……。これちょっと、本格的に全職員調べ直さないといけないねぇ……」

「ですね……。でも、先にやるのは、その計画を止めてからです」


 スミレはそう言うと、サクラを見る。

 怪しい人物の名前はずっと前から上がっていた。警戒もしていた。


「その人物は、渋紙ルコウさんですね」


 スミレは敢えて聞く。サクラは大きく頷いた。


「はい。渋紙ルコウはアカツキを破壊するために、十年以上前から機会狙っていた、マスカレードの諜報員(スパイ)です」


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