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帝都のオデット乗り  作者: 石動なつめ


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♯19 特務課の技術者


 その日、スミレがサクラと一緒に出勤すると、特務課の部屋に技術者の縹アジサイがいた。

 彼は自分のデスクに座って、何やらソワソワと身体を揺らしている。


 朝早くからここにアジサイがいるのは珍しい。

 普段の彼は、朝から晩まで――何なら徹夜もしている――格納庫の作業部屋に籠って作業をしている。

 この部屋に来る時は、珈琲や何か食べ物を探しているか、寝るためのソファーを求めているかのどちらかだ。


 それが起きた状態で、しかもデスクに座ってとは。

 今日は雨でも降るのかな、なんて失礼な事を思いながら、スミレは彼に声をかける。


「おはようございます、アジサイさん」

「ひえ!? お、おはようございます!?」


 普通に挨拶をしただけなのだが、何やら大げさに驚かれてしまった。

 スミレが目を丸くしていると、アジサイは立ち上がる。


「あ、ああああの、スミレさん!」

「はい」

「その、本日はお日柄も良く!」

「結婚式です?」


 珍しくサクラがツッコミを入れた。AIの成長を目の当たりにして、スミレが「おお……」と感動する。

 今日は赤飯だろうか。食べるのは自分だけだが。

 そんな事を思っていると、アジサイはあたふたしながら、デスクの上に置いてあった封筒を持ち上げ、


「あの、えっと! これをどうぞ!」


 と、スミレに差し出した。のし袋だ。

 そこには綺麗な字で『出産祝い』と書いてあった。


 思わずスミレはピシリと固まる。

 もう一度見ても、やはりその封筒――ご祝儀袋には『出産祝い』と書かれている。見間違いではない。

 どう考えても勘違いである。恐らくサクラの事で、用意してきてくれたのだろうが……。


 どうしよう。

 あまりに予想外の事が起きると、思考とはフリーズするものだ。

 その時。


「おっはよーございまーす! あっ珍しくアジサイさんがいる!」

「おはよう~。あ、本当だ。というか、二人してどうしたの?」

「お前ら、そんなところで固まって、何してんだ?」


 救世主――もとい、他の特務課のメンバーが出勤してきたのだった。

 



◇ ◇ ◇




「うはははははは。珍しくアジサイがいると思ったら、そういう事か!」

「スギノさん、笑い過ぎですよ~、ひははは……」

「そう言うコデマリも笑ってるでしょ」

「ううう……穴があったら入りたぁい……」


 それから少しした後の特務課の部屋。

 スミレ達がアジサイにサクラの事を説明すると、ようやく彼の誤解を解く事が出来た。

 コデマリとスギノは目に涙まで浮かべて、腹を抱えて笑っている。

 その目の前で椅子に座ったアジサイが、恥ずかしそうに手で顔を覆っていた。


「ああああ、つらぁい……よく考えたら、さすがに年齢合わないですよねぇ……」


 まぁ突然の出来事に焦ると、思考は鈍くなるものだ。

 スミレが苦笑していると、落ち込むアジサイの背中を、サクラはよしよしと撫でた。


「元気出してください」

「えっサクラさん優しい……すごく良い子……」


 励ますサクラに、アジサイが今度は手で口を抑えた。感極まったような顔になった。


「……それにしても、自動人形でこの年齢設定って、珍しいですねぇ」

「アケビさんもそう言ってたなぁ」

「え? 何でアケビさんの名前が出て来るんです?」


 ミズキの言葉に、アジサイが不思議そうに首を傾げた。

 その辺りも、今まで碌に会えていなかったので伝えられていなかった。


「サクラさんのプログラムの一部にプロテクトがかかっていまして。その解除をお願いしているんですよ」


 スミレがそう説明すると、アジサイは「えっ」とショックを受けた顔になる。


「な、何故、僕じゃなく……」

「新しい装備を開発中だから面会謝絶ですって言ったのアジサイでしょ」

「言ってたぁ……」


 自分の言葉が原因だったと知って、アジサイはがっくりと肩を落とす。

 それから彼はサクラへ視線を向けて、


「……んー……。僕、ちょっとアケビさんのところへ行って来ようかなぁ」


 と言った。今までと違って、アジサイは少し真面目な顔をしている。

 何かあったのだろうか。


「どうしました?」

「うーん、そのプロテクト、ちょっと僕も見てみたくて」


 そう言いながら、アジサイはスミレを見る。

 ミズキは軽く頷いて、


「となるとサクラさんもか。スミレさん、一緒に行って貰える?」


 とスミレに聞いた。

 ちょうどアケビに会いに行く予定だったし、同行者が増えても問題はない。

 なので、


「はい、構いませんよ」


 とスミレは頷いたのだった。



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