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帝都のオデット乗り  作者: 石動なつめ


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18/34

♯18 呼称


「そう言えばスミレさん達、お休みだったよね」


 喫茶店を出ると、思い出したようにミズキが言った。

 サクラはにこにこ笑って、


「お休みです。ママとお出かけです!」


 と手を挙げて答える。


「いいなぁ、二人でお出かけ。俺も混ざりたいなー。っていうか、うち人数少ないから、スミレさんと一緒の休みになった事ない」

「特務課の戦闘用機械人形(オデット)操縦士、二人ですからねぇ。人数を増やせば別ですけど」


 そうは言ったが、それはちょっと難しいな、ともスミレは思った。

 スミレとミズキが所属する『特務課』にある戦闘用機械人形(オデット)は、他の機体とは少し違う。

 アカツキが保有する戦闘用機械人形(オデット)を汎用型とするならば、特務課の戦闘用機械人形(オデット)は特別製。

 特務課の戦闘用機械人形(オデット)技術者である縹アジサイが、独自で改良を重ねた機体なのだ。


 縹アジサイは天才と呼ばれる戦闘用機械人形(オデット)技術者の青年なのだが、少々――というか、かなり――人見知りで、なかなか他人を信用しない。

 なので自分が手掛けた戦闘用機械人形(オデット)に搭乗するのも、信用できる人でなければ嫌だ、そうじゃなければ自分はアカツキを辞める、と半泣きで言ったのだ。

 なかなかワガママな話だが、何度も何度も頼み込んでアカツキに入れた天才を失うのを惜しんだ上層部は、彼の提案を受け入れた。


 それがこの『特務課』が設立されたきっかけだったりする。


「ヒナゲシさんが入りたがってたけど、腕がどうかはともかく。ちょっと彼女の押しの強さは、アジサイが苦手そうなんだよなぁ……」


 スミレの言葉に、ミズキは指で頬をかいてそう言った。


「まぁ、その辺りは……」

「そう言えばスミレさんは早かったよね」

「共通の話題がありましたので」


 ふふん、とスミレは胸を張る。

 共通の話題とは戦闘用機械人形(オデット)の事だ。出会った初日は怯えられていたが、戦闘用機械人形(オデット)の話題になったとたんに意気投合したのである。

 つまるところ、二人は相当な戦闘用機械人形(オデット)オタクだった、という話だが。

 そんな話をしているとサクラが、


「サクラ、アジサイさんにはまだ会った事がないです」


 と言った。


「新しい装備のアイデアが浮かんだって、ずっと引きこもってるからねぇ。まぁ整備の手伝いに、顔を出しているみたいだよ。深夜だけど」

「深夜」

「はい。深夜に格納庫か、そこの休憩室へ行くと会えますよ。差し入れにカップラーメンを持って行くと喜ばれます。豚骨とか」

「あっ、俺は醤油が良いな」

「ミズキさん、深夜にはいないでしょう?」

「たまにしかね」


 そう言うと、ミズキは大きく伸びた。


「さーて、それじゃ俺はアカツキに戻るよ。二人共、お休み楽しんでね!」

「はい。ミズキさんも」

「頑張ってください」

「んふふ。はーい!」


 スミレとサクラに応援されて、ミズキは嬉しそうに笑うと。

 手をひらひら振って歩いて行った。

 その背中を見送っていると、くいくい、とサクラに服を引っ張られる。


「どうしました?」

「ママは、ミズキさんと仲良しですか?」

「そうですね、良い方だと思いますよ」


 白妙家でお世話になっていた事もあるし、仲良くしている、というか、してもらっているという意味合いが強いかもしれない。

 だが最近、趣味が合う事も分かったし、それなりに仲が良いと思う。

 なのでスミレが頷くと、サクラは真面目な顔でこう続けた。


「パパと呼んでも良いですか?」


 スミレは変な声を出しかけて、思い切り咽た。


「げほ、な、何ででしょう……?」

「―――――さんが、ママと仲が良い人がいたら、パパと呼んでも良いよって言っていました」

「謎の人物が謎の許可を出している……ッ」


 相変わらず人物名のところでノイズが走ったが、それよりも内容にスミレは頭を抱えた。


「そこはね、まぁ、だめです」

「だめです?」

「はい。単体なら別ですが、セットになるとややこしいお話になっていしまいますので。あと別に、そういう関係じゃないですよ」

「違うですか?」


 サクラが不思議そうに首を傾げた。


「はい、違いますよ。ミズキさんに将来的に良い人が出来た時に困るので、そこはね、封印しておきましょうね」

「ミズキさん、前途多難……」


 スミレが言うと、サクラは神妙な顔で呟いた。

 何が前途多難だと言うのだろうか。よく分からないが、とりあえずサクラは「分かりました」と頷いてくれた。

 良かった、とスミレは胸をなでおろす。何だか変な汗をかいた気がする。

 ふう、と息を吐くと、サクラへ手を伸ばし。


「それじゃあ、お買い物の続きをしましょうか」

「はい!」


 笑いかけると、サクラは元気に頷いて、スミレの手を握ったのだった。




◇ ◇ ◇




 そんな彼女達から少し離れた位置。

 そっと、こちらを見つめる人物がいた。

 眼鏡をかけた、気弱そうな顔立ちの青年。彼は三人のやり取りの断片が聞こえていたようで、


「…………ま……ママ……!?」


 なんて驚愕の表情を浮かべていた。


「えっどうしよう、これ、僕、ご祝儀とか渡した方が良い奴……? えっどうしよう、どうしよう、というか、えっいつの間にそんな事に……!?」


 そして大慌てでそう言うと「こうしちゃいられない!」とその場を駆け出した。


 恐らく大変な勘違いをした様子の彼こそが、件の縹アジサイである。


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