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帝都のオデット乗り  作者: 石動なつめ


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17/34

♯17 情報が必要


 スミレが渋紙ルコウと出会ったのは、アカツキに入って少し経った頃だった。

 

 その頃のスミレは貧民街である南区出身という事で、奇異の目を向けられていた。

 『ドブネズミ』なんて揶揄る言葉があるくらいだ。南区出身者はそれだけで、帝都では下に見られる事が多い。


 もちろん南区出身で優秀な人間はたくさんいるし、出世だってしている者はいる。しかし、植え付けられた価値観は、そう簡単には変わらない。

 いくら初日にミズキが釘を刺してくれたとしても、そういう『目』は完全に払拭される事はない。


 それに加えて、スミレは同年代と共通の話題を持っていなかった。

 アカツキに入るまでずっと勉強に集中していたからだ。帝都の流行や、人気のあるドラマなど、そういう話のタネがほとんどなく。

 会話をしても話題が通じない、話が続かない。まぁつまり、どうにもこうにも浮いていた。


 前者はともかく、後者に関してはスミレも少々落ち込んでいた。

 話しかけてくれる人はいても、何となく気まずい顔をさせてしまうのが、心にくる。

 ドブネズミだの、南区出身だの、そういう類の陰口は気にならなくなったが、これは駄目だった。


 スミレが一人、ずーん、と沈みながら建物の外で弁当を食べていると、ルコウが話しかけてくれたのだ。


「あらー、どうしたの? そんなところでお弁当なんて。ぼっちか!」


 なかなか確信をつく声のかけ方だった。ぐさりと言葉の刃が胸に突き刺さる。

 うぐぐ、と顔を引き攣らせながら「そんなところです」と答えると、ルコウはにっこり笑って「じゃあ、私もここで食べよーっと」と隣に座ったのだ。

 何でそうなったのかよく分からないが、スミレはルコウと並んでお昼を食べた。


 翌日も、またその翌日も。

 ルコウはやって来て、隣に座った。一緒にお昼を食べる内に、ルコウの知り合いも集まって来て。

 気付いたら、スミレは『ぼっち』ではなくなっていた。会えば雑談出来る知り合いが出来たのだ。

 スミレにとって、ミズキ以外で普通に接してくれるアカツキの仲間が出来たのは、ルコウのおかげだった。



◇ ◇ ◇



「なるほど、緊急で呼び出した理由は、そういう事か」


 帝都の路地裏にある、小さな喫茶店。

 珈琲ゼリーとオムライスが美味しいこの店は、スミレの行きつけだ。

 スミレはそこにミズキを呼び出したのだ。

 勤務日だったミズキだが、ちょうど時間が空いていたらしく、直ぐに来てくれた。

 何も頼まないのもアレなので、珈琲とクッキーを頼んで、スミレは先ほどのサクラの話をミズキに伝える。すると彼は神妙な顔で腕を組んだ。


「サクラさんを作った人が、ルコウさんに気をつけろと言っていた、ねぇ……。確かに、初めて会った時の反応が、ちょっとおかしかったね」

「ええ。あの後も、サクラさんの様子を見ていましたけれど、あの態度を取ったのはルコウさんだけでした」

「ふーむ……」


 ミズキは呟き、少し思案するように目を細くする。

 それからサクラの方を向いた。


「ねぇ、サクラさん。どうしてルコウさんに気を付けた方が良いんだい?」

「ママ達の敵だからです」

「めちゃくちゃストレートのアレがきちゃったぁ……」


 これにはさすがのミズキも頭を抱えた。

 こうもはっきり『敵』と言われて、スミレも「ううむ」と唸る。


「情報に信憑性が足りないので何とも言えませんが……率直な感想を言えば『ルコウさんが?』になりますね」

「だね。俺もだ。あの人、特に問題行動は起こしてないし……あ、食品で経費使い過ぎるくらいか」

「さっきも買い出ししてましたよ。食べ過ぎで」

「たまに思うんだけど、あの人、胃袋おかしくない?」


 ミズキが半眼になる。スミレも聞いた事があるが、ルコウは飲食可能な集まりに来ると、一番食べるらしい。

 まぁ、それはともかく。

 ルコウが自分達の敵とはどういう事だろうか。

 現状、スミレ達が敵対しているのはマスカレードだけだ。サクラの言葉をそのまま信じると、ルコウはその一員という事になる。

 

(サクラさんを作った人が、味方と言う確証もまだないですし)


 ただ、先日のバショウの言葉の件もある。

 彼は近い内にマスカレードが何か仕掛ける、というような事を言っていた。

 サクラの登場、バショウの言葉、そしてサクラが示した敵。

 すべてを丸っと信じる事は出来ないが、繋がっていないとも言い切れない話だ。


「……上に相談して、情報を貰うか」


 ミズキがぽつりとそう言った。

 無条件に信じられると断言するのは心が楽だ。誰だって仲間を疑いたくなんてない。

 けれどスミレ達の仕事は、帝都の治安維持が最優先される。

 『敵』という物騒な言葉を耳にした以上は、調査する必要があるのだ。


 調査し情報を集め、並べて精査して、そして結論を出す。

 事実を導き出すために心情にはいったんフタをする。

 その過程でルコウが自分達をどう思うかを考えると、少し気は滅入るけれど。


「サクラ、ママ達を困らせてしまいましたか?」


 考えていると、サクラが少し心配そうな顔でスミレ達を見ている。

 スミレは彼女の頭を優しく撫でて、


「いえいえ。情報は大事ですから」


 と答えた。


「そうそう。実際に、ルコウさんがどうって話じゃないけど、可能性としてはあるからね。常に」


 ミズキもそう続ける。

 情報は大事だ。それは別にアカツキにだけ言える事ではない。

 敵にとっても情報は大事なのだ。


「――――さて、ちょっと忙しくなりそうだ」


 ミズキはそう言うと、珈琲をぐいと飲み干した。


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