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帝都のオデット乗り  作者: 石動なつめ


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♯15 スミレとサクラの休日 上


 その日、スミレはサクラと一緒に、帝都の街を歩いていた。

 今日は休日だ。なのでサクラの服でも買いに行こうか、と思ったのである。


 自動人形に替えの服が必要なのか。

 そういう議論はたまにされているが、スミレからすると『是』である。必要に決まっている。

 着続けていれば汚れるし、綻びだって出る。何より身だしなみは大事なのだ。

 なので本日の目的は帝都の服屋である。

 

「ママとお出かけ、ママとお出かけ」


 手を繋いで歩くサクラは、嬉しそうに笑っている。スキップでもしそうな様子だ。

 本当に人間の子供いみたいだなと、スミレは微笑ましく思う。

 人工知能(AI)とは実に不思議なものだ。作り出した側すら予想できない部分があると、前に読んだ本に書いてあったのをスミレは思い出す。


 治安維持組織アカツキでも、多くはないが、自動人形は働いている。

 元は戦闘用機械人形(オデット)の操縦士を想定して作り出された子達だ。操縦士にはならなかったが、それ以外の仕事――特に書類仕事に関して、彼らの右に出る者はいない。彼らの仕事には間違いがないし丁寧なのだ。

 その中でスミレが一番関わり深いのは、防衛課に配属されている自動人形だろうか。戦闘用機械人形(オデット)での戦闘後の後処理や、帝都の見回り等でよく話をしている。


 言葉に裏がある人間と違って、自動人形達は常に真っ直ぐだ。それがスミレには安心出来た。

 サクラもそうだ。まだアケビに解析を頼んでいる部分があるため、百パーセント信用する事は出来ない。

 けれど、向けてくれる混じり気のない好意は、スミレにとっては嬉しいものだった。


(そう言えば、すっかりママ呼びに慣れてしまった……)


 最初の内は訂正していたが、サクラは呼び方を変えるつもりはないようで、スミレをずっと『ママ』と呼んでいる。

 スミレはまだ十七歳だ。子供がいる歳ではないが――まぁ、自動人形だから良いか、と思うことにした。

 動物の子供を育てる事になった時など、年齢問わず「親だよ」と言うのと、そんなに変わらないだろう。

 ちなみにサクラがママと呼んだ時、事情を知らない人間に聞かれると「えっ?」と二度見されるが、アカツキ内ではだいぶ減った。

 これもまた慣れである。


「ママはお休みの日は、よくお出かけしますか?」


 そんな事を思い出していると、サクラからそう聞かれた。


「そうですね。古本屋にはよく行きますよ。あと、食材の買い出しとか」

「なるほど……。そう言えば、コデマリさんから聞いたのですが、ママはよく白妙家にご飯を食べに行くのに、食材を買うのですか?」

「なかなか痛い所を突いておいでになる。まぁ、あれです。さすがに三食毎日お願いしますというのは、人としてどうかなって……」

「人として……深い」


 サクラからチチ、という音が聞こえた。何やらしっかり記録されたようだ。

 というかそんなに深い話ではない。単純にスミレがコデマリや、彼女の両親の料理の虜だという話だ。

 そりゃあスミレだって、美味しい料理を――もちろんその分のお金は支払っている――三食毎日お願い出来たら幸せだ。 

 だが。だがしかし。白妙家を出たにも関わらずそんな事をしていては、さすがに恥知らずではなかろうか。


「手遅れじゃない?」


 一瞬、脳内でミズキの声が再生された気がした。

 スミレもそれは思っている。


 ちなみに最初からこうだったわけではない。

 北区のアパルトメントに引っ越した時は、スミレだって自分で料理をして食べていた……のだけど。

 仕事の忙しさと疲れのせいで料理をする気力が湧かず、簡単な――――栄養バランスと回数が壊滅的な食事を摂っていたところ、仕事中に目を回して倒れた事があったのだ。


 それでミズキやコデマリに食生活がバレて、しこたま怒られて。

 週に最低四日は白妙家で夕食を食べる事を約束させられたのである。

 あまりに申し訳なくて、お金だけは払わせてくれと頼み込んだところ、しぶしぶ了承して貰った――というのがスミレの食生活事情だ。

 今はすっかり白妙家の食事の虜だ。もっとも、白妙家でお世話になっていた頃から虜ではあるが。


 そんな事を思い出しながら、スミレはサクラに、


「サクラさんはここへ来る前は、よくお出かけしていたんですか?」


 と尋ねた。


「サクラは部屋の外に出たらいけないよって言われていました」

「そうなんですか?」

「はい。―――――さんが、外は危ないからって」


 相変わらず名前の部分にザザッとした音が入って聞き取れない。

 ただ聞けば答えてくれる辺り、サクラ自身に内緒にしなさい、という命令は下っていないようだ。

 それ関係のデータにかけられたプロテクトは、海老名探偵事務所のアケビが進めてくれている。

 先日、サクラを迎えに行った時に聞いたら「もう少しよ」と彼は言っていた。


 果たしてどんな名前が出て来るのか。出来れば知っている名前ではないと良いなとスミレは思う。

 まぁ、まったくの初対面の相手が自分の事を知っているのは、それはそれで怖いのだが。


「という事は、帝都が初めてのお出かけというわけですね」

「初めてです。ワクワクします!」

「そうですか。それなら、色んなところを見てまわるとしましょうね」

「わーい!」


 スミレがそう言うと、サクラが笑顔でぴょんと跳ねた。

 その姿を見て、ふふ、とスミレは微笑む。


(まずは服、それから食料品。……あ、そうだ。花、なんてあっても良いかも)


 自動人形は食事を必要としない。だからその代わりと言っては何だが、花や本など、目で見て楽しいものがあっても良いのでは、とスミレは思った。

 サクラが好むかどうかは別として、何となく、そんな事をしてあげたくなったのだ。

 そう考えたので、スミレは「よし」と気合を入れる。幸い戦闘用機械人形(オデット)の操縦士になったり、特務課に配属されてから危険手当等も増えて、給料が上がっている。

 そこそこ貯金も出来ているので、多少出費が増えたって問題ない。


(サクラさんはどう思うだろう)


 反応を想像して、少し楽しくなりながらスミレが歩いていると、


「あれ、スミレちゃん?」


 そう呼び掛けられた。

 顔を向けると道の先に、アカツキの先輩の渋紙ルコウが、紙袋を抱えて立っていた。

 

 

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