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帝都のオデット乗り  作者: 石動なつめ


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♯14 休憩時間


 事後処理を終えて、アカツキに戻ったあと。

 戦闘用機械人形(オデット)の整備をコデマリ達に任せ、スミレとミズキは格納庫に併設された休憩室でひと息ついていた。

 部屋の窓から、サクラがスギノの後ろをついて歩いて、手伝いをしているのが見える。スギノは相変わらずおっかなびっくりの様子だったが、慣れてきたようで表情が少し柔らかくなっていた。


「バショウがそんなことを?」


 そちらへ時々目をやりつつ、先ほどの通信でのやり取りをミズキに伝えると、彼は目を丸くする。


「それはちょっとらしくないねぇ」

「ですよねぇ」


 元々バショウは、相手を惑わすような物言いと戦法を得意とする男だ。

 先ほどの話も、その一環だったと言われてしまえばそれまでだ。しかし、どうにもスミレは腑に落ちない。

 あのように思わせぶりな言葉を出すならば、もう少し具体的な『引っかけ』があってもおかしくないと思ったからだ。


 スミレもバショウとは戦場で何度も交戦しているし、会話だってしている。その都度、こちらを騙してやろうという『引っかけ』を彼は入れてくる。

 場所なり、人名なり。意識を向けるために想像しやすい『具体的な何か』を彼は言葉にする。

 けれど今回はそれがなかった。ただ心情に訴えるような――もっと言えば、心情を吐露しているだけのような言い方だ。


 これもすべてバショウの作戦の内――であれば別だが。

 それでもスミレは妙に気になった。

 そんな事をミズキに伝えると、彼も「うーん」と腕を組み、


「……まぁ、だけど。近々、何かを仕掛けてくる可能性はあるんだよな」


 と言った。


「そうですね。最近の襲撃は、ずいぶん手を抜いている感じでしたし。戦力を温存しているのでしょうか」


 彼の言葉にスミレも同意する。

 ここ最近のマスカレードの襲撃は、戦闘用機械人形オデット一機に、無人機を幾つかという編成が多かった。

 アカツキが保有している戦闘用機械人形オデットの数は七機。一機相手に全機が出撃するという事は防衛上の理由から基本的にはないが、いくらなんでも舐め過ぎである。

 よほど腕に自信のある操縦士でも数には勝てない。スミレだって三機相手に戦って生き延びたのなんて、ほぼ奇跡に近いのだ。あの時は必死だったので、何をどうしたのかはっきりとスミレも覚えていないが、運が良かったのだけは分かる。

 あの数で帝都を掌握できると考えるほど、マスカレードは楽観的でも馬鹿でもない。


「可能性はあるね。上もその辺りを警戒している」

「大規模襲撃?」

「うん」

「嫌すぎますね」

「本当だよ」


 そう言って、ミズキは肩をすくめる。


「単純に、そろそろ戦いたくないけど名目上でぐだぐだ引き延ばしてる――――なんて可能性が、万に一つでもあったら良い……かどうかは分からないけど。そうだったら多少はマシなんだけどね」

「それは希望的観測過ぎるでしょうね。バショウさん曰く、アカツキのぬるいやり方は御免だそうですし。厳しく来るかと」

「ぬるいかぁ……」


 肯定とも否定とも取れる声色で呟きながらミズキは苦笑する。

 それから目をスッと細くして「防衛面、少し見直すかな……」と言った。


「……あ、そうだ。サクラさんの乗っていた戦闘用機械人形(オデット)の事、聞いてみましたよ」

「おや、よく聞けたね。答えてくれた?」

「曖昧に。バショウさんの口ぶりだと、強奪された、みたいな感じらしいですよ。うちを少し疑っていました」

「強奪? マスカレードから?」


 ミズキが怪訝そうな顔になった。その気持ちはスミレもよく分かる。

 今現在、マスカレードと対立しているのは、ここ帝都の自治組織アカツキだけだ。

 帝都周辺には傭兵団などの組織が幾つか確認されてはいるが、どれも両者の戦いには不干渉を貫いている。下手に首を突っ込んで、余計な火種を貰いたくない、というところだろう。

 交渉次第では、一時的に味方になってくれる可能性はあるが――とにかくそんな感じだ。

 だからマスカレードから戦闘用機械人形(オデット)を強奪したなら、新たに介入してきた者がいる、という事だ。


 誰が、何の目的で。

 自然と二人の視線が、格納庫で働くサクラの方へ向けられる。


「アケビさん待ちかなぁ」

「はい。あまりややこしい事態にならないと良いんですけどね」

「そうだね。ま、でも、少なくとも、君の味方ではあるみたいだし」

「味方かぁ……」


 本当に思い当たる節がないのだけど、とスミレは唸る。

 味方だと断言するには尚早ではあるが、サクラを見ていると悪い感情は抱けない。


「……これも希望的観測ですけれど、味方であると良いですね」


 ぽつりとスミレが漏らす。

 ミズキは小さく笑って「そうだね」と答えたのだった。

 



◇ ◇ ◇




 スミレとミズキが話す休憩室の外。格納庫では、特務課の整備士二人が忙しそうに歩いていた。

 その一人、スギノの後ろを自動人形のサクラがちょこちょこついて歩いている。


「スギノさん、これはどこに置きますか?」

「お、おう。あそこの棚にしまってくれ。減っている奴は、補充してくれると助かる」

「分かりました!」


 スギノが指さすと、サクラはにこりと笑って、使い終えた道具を運んでいく。

 その後ろ姿を見ながら、スギノは後頭部をがしがしかいた。


「あの小せぇ体のどこにそんな力があるんだろうなぁ……まぁ自動人形だけどよ」

「うふふ。スギノさん、だんだん慣れてきましたねぇっ」

「うお!」


 すると、すぐ背後から声がした。

 白妙コデマリ。ミズキの妹で、特務課の整備士だ。


「おいこらコデマリ、気配無く後ろに立つのやめろっての」

「気配を消すのは私の面白特技の一つですよっ」

「お前は忍者か。どういうカテゴリーの特技だよ。っていうか他にもあんのかよ」

「ありますともっ」


 ふふーん、とコデマリは胸を張る。

 それからサクラの方を見た。


「サクラちゃん、働き者ですよねぇ。私も手伝ってもらっちゃったけど、大助かりです!」

「ま、自動人形だからなぁ」


 基本的に自動人形は何かしらの仕事をさせるために作られる事が多い。

 制作者がどのようなプログラムを施し、AIが学習しているかで出来る仕事は変わるが、サクラに関してはまだ何に特化しているのかは分からない。

 ただ、今見せている行動や、スミレ達から聞いた話から想像するに、料理以外の家事は一通り可能なのだろうとスギノは思う。


「そう言えば、良かったなコデマリ。サクラは料理は出来ないみたいだぞ」

「んふふ、そうなんですよ! スミレさんがうちに来なくなるのは回避できました!」

「お前さんは本当にスミレが好きだなぁ。……ああ、いや、お前さん()か」


 複数形にしたのは彼女の兄であるミズキが含まれるからだ。


「大好きですとも! でも兄さん、肝心なところはヘタレだから、全然伝わってないですけどね。……早くスミレさんが、本当のお姉さんになったらいいのになぁ」

「早いも何も、そこはスミレの意思と好みがあるだろうよ」

「趣味が合うからいけると思うんですよ。あとうちの兄さん、格好良いし」


 ふふん、とコデマリが胸を張る。

 この妹は、兄を目の前にすると少々反抗期――というか、ちょっとギクシャクしている部分があるが、いなければこうである。

 スギノが半眼になった。


「お前はそれを本人に言ってやれ。三倍くらいの勢いで働くようになるぞ、たぶん」

「やですよ、恥ずかしい」


 ぷい、とコデマリはそっぽを向く。

 素直じゃねぇなぁ、なんて思っていると、そこへサクラが戻ってきた。


「ママがコデマリさんのお姉さんになるのですか? つまりミズキさんがパパですか?」

「そうだったらいいなってお話ですよっ。でも、兄さん全然ダメダメです」

「ダメダメなのですか」

「そうなのです。今度、ヘタレ男って言って発破をかけてあげると良いですよ!」

「なるほど、分かりました」


 素直に頷くサクラを見て、大慌てでスギノは止めに入る。


「だー! 待て待て、分かるな分かるな! 言わんで良い! コデマリも余計な言葉を教えるなって!」

「えー」

「えー、じゃない!」


 変に焦ったせいで、どっと疲れて、ハァ、とスギノはため息を吐く。


「コデマリ、それにサクラ。その辺りはだいぶデリケートな話題だからよ、放っておいてやりな」

「うー……はぁい」

「はいです」


 コデマリはしぶしぶといった様子で、サクラは真面目な顔で、それぞれ頷いた。

 その二人の様子に「よし」とスギノも頷くと、


「それじゃ、整備の続きだ。時間ねーぞ」

「はーい! 合点承知ですよ!」

「はいです!」


 なんて言って、再び三人は仕事に戻ったのだった。



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