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帝都のオデット乗り  作者: 石動なつめ


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13/34

♯13 クラウン


 強力なエネルギーを秘めた『花水晶』は、金色に輝く花のような形をした水晶だ。

 戦闘用機械人形(オデット)や自動人形などの動力源として使われるそれは、産出地が限られており、相当の高値で取引されている。

 その鉱脈の一つが、帝都クロガネ――自治組織アカツキの地下に広がっている。


 元々帝都はその鉱脈を守るために、アカツキの前衛となる組織によって作られた街だった。

 花水晶は強力な反面、使い方を間違えば世界を滅ぼすものになりかねない。だから良からぬ事を考える者の手に渡らないようにと、帝都が生まれ、そして自治組織アカツキは結成されたのだ。


 花水晶を売ってくれと、外国から要請があったのは一度や二度ではない。

 渡さないならば制圧すると脅された事もあった。

 それでもアカツキは首を縦に振らなかった。外へ出た花水晶が、どういう使われ方をするかを、理解していたからだ。

 自分達の故郷から産出された花水晶を、戦いの火種にしたくない。その信念のもと、アカツキは要請の全てを拒んだ。


 今もそういう話はよく来るし、乱暴なちょっかい(、、、、、)を出される事もあった。

 そのせいで家族を失くした者もいる。


「何が信念だ。交渉して、有利な条件を得る事も出来ない、無能な連中の言い訳だ!」


 そう叫び、アカツキを飛び出して行った者達。

 それが反乱組織マスカレードの始まりだった。




◇ ◇ ◇




 闘犬型(ドッグタイプ)の一機は『ワダツミ』の攻撃に成す術なく破壊された。

 次は、とスミレが他の二機へ意識を向けた時、通信が入る。ミズキではない。他の味方でもない。

 通信を飛ばしてきた相手は、ミズキが交戦中の『クラウン』の操縦士、バショウだ。


(――――どうするか)


 敵からの通信に、スミレは僅かに思案しながら、大槌(ハンマー)を回転させ、ライフルのように持ち直す。

 柄の部分をカチリと折るように外してずらすと、そこから銃口とトリガーが顔を出した。

 それを残り二機の闘犬型(ドッグタイプ)へ向け撃ちつつ、スミレは通信許可を出す。

 するとモニターに、緩くうねった髪をしたモノクルの青年が映った。


『やあ、どうもどうも、スミレさん。相変わらず素晴らしい攻撃ですね! 情緒の欠片もない破壊、ありがとうございます!』

「それはどうも、バショウさん。言葉と心情が一致しておりませんよ」

『いやいや、そんな。僕は心からそう思っておりますよ、ええ! ええ!』


 ふざけているような口振りでバショウは言う。

 実際にふざけているのだろうな、とスミレは思う。今までにバショウとは何度か交戦しているが、始終こういう調子だ。 

 表情と口調を崩さず、常に一定。胸の内を見せないその様は、まさに道化師(クラウン)


「で、何の用事です? 大人しく投降してくださるんですか?」

『まさか! スカウトですよ、スカウト。ではさっそく……スミレさん、うちに来ませんか?』

「行きませんね」

『あまりにバッサリ! ミズキ君と同じく即断! 潔いところが憎らしい!』


 大げさに嘆いてみせるバショウにスミレはため息を吐く。


「そちらの仲間になるなんてあり得ないですよ」

『万に一つも? 小指の皮程度の可能性も?』

「ありません」

『ノオウ!』


 本当に騒がしい男だとスミレは半眼になる。

 スカウトと言っても今回が初めてではない。交戦するたびにバショウはこんな風に、軽い口振りでスミレ達をスカウトしてくるのだ。

 何を血迷ってそんな事をしているのか、スミレにはとんと分からない。


『フフ、すげない……お二人共本当にすげない……。がぜん燃えてきましたよ!』

「燃えなくて結構。ですが、あなたがこちらに投降し、然るべき裁きを受けて刑期を全うした上で仲間になるなら、それこそ小指の皮程度は歓迎しますよ」

『残念、あり得ませんねぇ』

「でしょうね。平行線ですよ」


 スミレはそう返し、ライフルを撃つ。銃弾が当たりよろめいた闘犬型(ドッグタイプ)を、防衛課の戦闘用機械人形(オデット)が叩き斬るのが見えた。

 よし、とスミレは頷く。これで闘犬型(ドッグタイプ)は全部破壊できたはずだ。

 確認して、スミレは大槌(ハンマー)を元の状態へ戻す。


(――――それにしても)


 そう思いながらミズキの駆る戦闘用機械人形(オデット)『シノノメ』の方へ視界を動かす。バショウの『クラウン』とは相変わらず撃ち合い、斬り合いを続けている。

 そんな状態でこんな話をしているなんて、やはりバショウは相当肝が据わっている。

 腕が良く、精神も安定――しているかは正直分からないが、その点だけを見るなら良い操縦士だ。彼の戦い方は敵としては厄介だが、味方だったら心強かっただろう……なんて事をスミレも少し思う。

 しかし先程の会話の通り、お互いの要求は平行線だ。それこそ『信念』とやらが違うのである。


「もう一度聞きますが、投降しては?」

『御冗談を。――――アカツキのぬるいやり方は御免ですよ』


 声の最後は、少し冷えていた。

 モニター越しのバショウは相変わらず笑顔で、けれど目からは表情が消える。

 だろうな、とスミレも思う。だから彼らはマスカレードとしてアカツキと対立しているのだから。


『ま、ですが。やっぱりこの程度の数だと、なかなか厳しいですねぇ。スカウトが成功していればなぁ~』

「成功なんてしませんよ、永遠にね」

『そうでしょうね』


 フフ、とバショウは小さく笑う。


「……あ、そうだ。ついでに聞きますが」

『おや、あなたから質問なんて珍しい。うちの給料ですか?』

「違いますよ。というかあるんですか、給料」

『ま、ぼちぼち』

「はあ……」


 それは初耳だ、と思いながら、スミレは聞きたかった事を投げる。


「そちらの戦闘用機械人形オデットが一機、行方不明になったりしていませんか?」

『おや、どこで情報が漏れたんです? あ、もしかして、そちらが強奪を?』

「しませんよ。うちは専守防衛です。基本的にはね」

『ですよねぇ……。ふーん。こちらはてっきり……』


 バショウはそう呟くと、思案するように軽く目を細くする。

 だがその直後、モニターの画像が大きくブレ(、、)た。ミズキの攻撃が当たったのだろう。


『おっと! もう少しのんびりしたかったんですけど……限界かな。お話が出来て楽しかったですよ。その内、これも出来なくなるのは寂しいですが……ま、仕方ありません』

「あら、投降してくださるので?」

『いいえ。――――では、また』


 そこだけは断言すると、バショウからの通信は切れた。

 それから程なくして、バショウの駆る『クラウン』が撤退して行くのが見えた。

 ミズキは『クラウン』に向かって数発、銃弾を撃ったが、深追いはしなかった。


「…………」


 遠ざかって行く『クラウン』を見ながら、スミレは先程のバショウの言葉を思い浮かべる。


『その内、これも出来なくなるのは寂しいですが……』


 ――――寂しがられる筋合いはないが、妙に気になる言い方だ。

 何をしようとしているのだろうか、

 そう思っている間に『クラウン』の姿は見えなくなった。

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