♯13 クラウン
強力なエネルギーを秘めた『花水晶』は、金色に輝く花のような形をした水晶だ。
戦闘用機械人形や自動人形などの動力源として使われるそれは、産出地が限られており、相当の高値で取引されている。
その鉱脈の一つが、帝都クロガネ――自治組織アカツキの地下に広がっている。
元々帝都はその鉱脈を守るために、アカツキの前衛となる組織によって作られた街だった。
花水晶は強力な反面、使い方を間違えば世界を滅ぼすものになりかねない。だから良からぬ事を考える者の手に渡らないようにと、帝都が生まれ、そして自治組織アカツキは結成されたのだ。
花水晶を売ってくれと、外国から要請があったのは一度や二度ではない。
渡さないならば制圧すると脅された事もあった。
それでもアカツキは首を縦に振らなかった。外へ出た花水晶が、どういう使われ方をするかを、理解していたからだ。
自分達の故郷から産出された花水晶を、戦いの火種にしたくない。その信念のもと、アカツキは要請の全てを拒んだ。
今もそういう話はよく来るし、乱暴なちょっかいを出される事もあった。
そのせいで家族を失くした者もいる。
「何が信念だ。交渉して、有利な条件を得る事も出来ない、無能な連中の言い訳だ!」
そう叫び、アカツキを飛び出して行った者達。
それが反乱組織マスカレードの始まりだった。
◇ ◇ ◇
闘犬型の一機は『ワダツミ』の攻撃に成す術なく破壊された。
次は、とスミレが他の二機へ意識を向けた時、通信が入る。ミズキではない。他の味方でもない。
通信を飛ばしてきた相手は、ミズキが交戦中の『クラウン』の操縦士、バショウだ。
(――――どうするか)
敵からの通信に、スミレは僅かに思案しながら、大槌を回転させ、ライフルのように持ち直す。
柄の部分をカチリと折るように外してずらすと、そこから銃口とトリガーが顔を出した。
それを残り二機の闘犬型へ向け撃ちつつ、スミレは通信許可を出す。
するとモニターに、緩くうねった髪をしたモノクルの青年が映った。
『やあ、どうもどうも、スミレさん。相変わらず素晴らしい攻撃ですね! 情緒の欠片もない破壊、ありがとうございます!』
「それはどうも、バショウさん。言葉と心情が一致しておりませんよ」
『いやいや、そんな。僕は心からそう思っておりますよ、ええ! ええ!』
ふざけているような口振りでバショウは言う。
実際にふざけているのだろうな、とスミレは思う。今までにバショウとは何度か交戦しているが、始終こういう調子だ。
表情と口調を崩さず、常に一定。胸の内を見せないその様は、まさに道化師。
「で、何の用事です? 大人しく投降してくださるんですか?」
『まさか! スカウトですよ、スカウト。ではさっそく……スミレさん、うちに来ませんか?』
「行きませんね」
『あまりにバッサリ! ミズキ君と同じく即断! 潔いところが憎らしい!』
大げさに嘆いてみせるバショウにスミレはため息を吐く。
「そちらの仲間になるなんてあり得ないですよ」
『万に一つも? 小指の皮程度の可能性も?』
「ありません」
『ノオウ!』
本当に騒がしい男だとスミレは半眼になる。
スカウトと言っても今回が初めてではない。交戦するたびにバショウはこんな風に、軽い口振りでスミレ達をスカウトしてくるのだ。
何を血迷ってそんな事をしているのか、スミレにはとんと分からない。
『フフ、すげない……お二人共本当にすげない……。がぜん燃えてきましたよ!』
「燃えなくて結構。ですが、あなたがこちらに投降し、然るべき裁きを受けて刑期を全うした上で仲間になるなら、それこそ小指の皮程度は歓迎しますよ」
『残念、あり得ませんねぇ』
「でしょうね。平行線ですよ」
スミレはそう返し、ライフルを撃つ。銃弾が当たりよろめいた闘犬型を、防衛課の戦闘用機械人形が叩き斬るのが見えた。
よし、とスミレは頷く。これで闘犬型は全部破壊できたはずだ。
確認して、スミレは大槌を元の状態へ戻す。
(――――それにしても)
そう思いながらミズキの駆る戦闘用機械人形『シノノメ』の方へ視界を動かす。バショウの『クラウン』とは相変わらず撃ち合い、斬り合いを続けている。
そんな状態でこんな話をしているなんて、やはりバショウは相当肝が据わっている。
腕が良く、精神も安定――しているかは正直分からないが、その点だけを見るなら良い操縦士だ。彼の戦い方は敵としては厄介だが、味方だったら心強かっただろう……なんて事をスミレも少し思う。
しかし先程の会話の通り、お互いの要求は平行線だ。それこそ『信念』とやらが違うのである。
「もう一度聞きますが、投降しては?」
『御冗談を。――――アカツキのぬるいやり方は御免ですよ』
声の最後は、少し冷えていた。
モニター越しのバショウは相変わらず笑顔で、けれど目からは表情が消える。
だろうな、とスミレも思う。だから彼らはマスカレードとしてアカツキと対立しているのだから。
『ま、ですが。やっぱりこの程度の数だと、なかなか厳しいですねぇ。スカウトが成功していればなぁ~』
「成功なんてしませんよ、永遠にね」
『そうでしょうね』
フフ、とバショウは小さく笑う。
「……あ、そうだ。ついでに聞きますが」
『おや、あなたから質問なんて珍しい。うちの給料ですか?』
「違いますよ。というかあるんですか、給料」
『ま、ぼちぼち』
「はあ……」
それは初耳だ、と思いながら、スミレは聞きたかった事を投げる。
「そちらの戦闘用機械人形が一機、行方不明になったりしていませんか?」
『おや、どこで情報が漏れたんです? あ、もしかして、そちらが強奪を?』
「しませんよ。うちは専守防衛です。基本的にはね」
『ですよねぇ……。ふーん。こちらはてっきり……』
バショウはそう呟くと、思案するように軽く目を細くする。
だがその直後、モニターの画像が大きくブレた。ミズキの攻撃が当たったのだろう。
『おっと! もう少しのんびりしたかったんですけど……限界かな。お話が出来て楽しかったですよ。その内、これも出来なくなるのは寂しいですが……ま、仕方ありません』
「あら、投降してくださるので?」
『いいえ。――――では、また』
そこだけは断言すると、バショウからの通信は切れた。
それから程なくして、バショウの駆る『クラウン』が撤退して行くのが見えた。
ミズキは『クラウン』に向かって数発、銃弾を撃ったが、深追いはしなかった。
「…………」
遠ざかって行く『クラウン』を見ながら、スミレは先程のバショウの言葉を思い浮かべる。
『その内、これも出来なくなるのは寂しいですが……』
――――寂しがられる筋合いはないが、妙に気になる言い方だ。
何をしようとしているのだろうか、
そう思っている間に『クラウン』の姿は見えなくなった。




