♯12 開花
スミレが所属しているのは『特務課』と呼ばれる部署だ。
所属しているのは五人。
戦闘用機械人形操縦士として白妙ミズキ、山吹スミレ。
整備士として白妙コデマリ、煤竹スギノ、戦闘用機械人形の技術者として縹アジサイ。
主な仕事は戦闘用機械人形での帝都の防衛。その他、アカツキ上層部からの直接指令を受けて動いている。
帝都の防衛には特務課以外に『防衛課』が存在しており、そちらと連携を取って行動していた。
「おう、来たな、スミレ。整備は済んでるぜ。ミズキは先に出てる」
特務課専用の格納庫に到着すると、整備士のスギノが軽く手を挙げて声をかけてくれた。
五十代前半の彼は、特務課の中で一番長くアカツキに所属している。
「ありがとうございます、スギノさん。サクラさんをお願いできますか?」
「お、おう」
スミレが頼むと、スギノはやや動揺しながら頷いてくれた。
スギノは子供が苦手――というか、大柄で強面なせいで近づくと怖がられる事が多い。
なのでサクラが自動人形だと分かっていても、幼い子供の見た目をした彼女を前にすると、身構えてしまうのだそうだ。
「サクラさん。スギノさんと一緒に待っていてくださいね」
「はい、ママ。スギノさん、よろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げるサクラ。スギノは目を丸くしたあと、指で頬をかき「お、おう……」と、先程と似た調子で返していた。
それを確認するとスミレは自身の戦闘用機械人形『ワダツミ』へ向かい、コックピットに入る。
起動準備をしていると、ミズキから通信が入った。操作しモニターを点ける。ミズキの姿が表示されると同時に、銃撃の音が聞こえて来た。どうやらすでに戦闘に入っている様だ。
『スミレさん、出られる?』
「はい、直ぐに。そちらはどうですか?」
『マスカレードの戦闘用機械人形が一機と、闘犬型が三機』
闘犬型とはその名前の通り、闘犬を模して造られた無人の特殊戦闘車両だ。
武装は主に背中部分に装着するミサイルランチャーで、素早い動きで相手を翻弄し攻撃する事に長けている。
帝都内に入り込まれると厄介な相手だ。
「となると道化師ですか」
『そういう事! 防衛課が対応しているから、フォローしてあげて。そっちが終ったら加勢よろしく~』
「了解しました」
スミレが答えると、ミズキは軽くウィンクをして、通信を切った。
戦闘中にどこまでも落ち着いているのが、さすが英雄というところだなとスミレは思いながら『ワダツミ』を起動させる。
動力源の花水晶から『ワダツミ』にエネルギーが行き渡ると、コックピットも淡く光りを放ち始める。
「行きます」
格納庫の仲間に向けてそう言うと、スミレは『ワダツミ』を駆り、空中へ飛び上がる。
帝都の外に交戦中の戦闘用機械人形らの姿が見えた。
その内の一機が黒色の戦闘用機械人形――マスカレードが所有する機体だ。
顔の部分にピエロのような塗装が施されているあれは、通称『クラウン』。
闘犬型等の無人戦闘車両の操作を得意とする操縦士、若竹バショウが駆る戦闘用機械人形だ。
(厄介なのが来たな)
スミレは心の中で独り言つ。
『クラウン』は近・中距離の戦闘に主眼を置いた機体で、相手を攪乱させる装備を多数備えている。
閃光及び煙幕による妨害、ワイヤーによる拘束、投影による惑わし。その間をついて闘犬型での強襲。
基本的な行動パターンはそれだ。これまでスミレも相当苦労させられている。
ミズキ達と対処を相談したところ、誰かが『クラウン』を引き付けている間に、複数人で闘犬型を倒してしまうのが、一番早いという結論に至った。
先程のミズキの指示は、そういう話だ。
スミレは『ワダツミ』を操作し、闘犬型の位置をモニターに表示させる。
確認するとまずは一機に狙いを定めた。
大槌を構え、コンソールへ音声で文字を入力する。
「『開花』」
すると大槌に花水晶のエネルギーが送られ始める。ややあって、ブオン、と音を立てて、花水晶のエネルギーが大槌から迸る。
それを確認しながらスミレは『ワダツミ』を加速させ、闘犬型の真上に飛ぶ。
闘犬型は接近する『ワダツミ』を察知し、迎撃の態勢を取る。
しかしそれより『ワダツミ』の動きの方が早かった。
背からミサイルが放たれる直前、大槌を闘犬型に振り下ろす。
その瞬間、花水晶のエネルギーが花のようにぶわりと広がり、
「潰れろ」
僅かに遅れて爆発音が響き渡った。
◇ ◇ ◇
同時刻、同じ戦場にて。
スミレとミズキの駆る戦闘用機械人形の動きを見て『防衛課』の操縦士の男が、自身のコックピット内で口笛を吹いた。
「ヒュウ! やるわぁ、さすが特務課!」
『ワダツミ』により破壊された闘犬型。
花水晶の開花の一撃が、綺麗に入った。
「く~~格好良いねぇ! あとで録画したの見なおそっと」
なんて、聞こえていないからこそ、少々不謹慎な言葉も言いつつ。
彼の駆る戦闘用機械人形にも開花は搭載されているが、起動に多少の準備時間が必要のためタイミングが難しいのだ。
それをスミレとミズキはいつだって、バッチリのタイミングで繰り出すのだから憧れる。
二人共、自分よりも年下だ。
けれど操縦士としての腕は素晴らしいし、何より日々、努力しているのも彼は知っている。
整備士や技術者に搭乗時の事を話し、改善案を相談し。
月一で行われる全体操縦訓練にも常に参加している。
彼らは戦闘用機械人形の操縦士として、技術を磨く事に熱心だ。向上心もある。
単純に戦闘用機械人形が好きなんだろうなぁというのは、同じ操縦士として分かるが、あれほど真摯に向き合っているのは珍しい。
男は今まで何度も二人と話をした事があるが、その時にいつだって、驕った態度を取られる事はなかった。
同じ操縦士として、アカツキの同僚として、そして先輩として。スミレ達の態度はそれだった。だから男も同じものを返す。
ごくたまに任務関係で意見の違いによりぶつかったりもしたが、その時もお互いが納得いくまで話をした。
だから尊敬できる。年齢なんて関係ない。
そんな事を考えながら、彼は他の闘犬型へ意識を向けた。
残りは二機だ。
男は操縦桿を握り直す。
「……ま、でもよ。俺だって操縦士だ。憧れてても、負けられはしねぇよなぁ!」
そう言ってニッと笑みを作り。
男は自身の戦闘用機械人形の得物――太刀を振りかぶって闘犬型へと向かって行った。




