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帝都のオデット乗り  作者: 石動なつめ


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♯11 指導役


 新入職員の研修開始から五日経った。

 彼らはそれぞれの部署を順番に周り、その後でそれぞれに合っている部署や、本人が希望する部署等も加味されて配属先が決まる。

 新人達の明るい声が聞こえるアカツキは、何となく空気が良かった。


――――のだが。


 問題がちらほらと起こり出していた。

 ちなみに新人達が原因ではない。入ったばかりの彼女達が失敗をするのは当然であるし、そもそも頭を抱えるレベルの行動を起こしてはいない。 

 問題なのは新人ではなく、彼女達の指導役についた『先輩』だった。

 その一人は、スミレの後輩である朽葉ヒナゲシだ。


「ですからね! ボクは常々思っているのです。生まれは関係ないと! 入った時点で実力を見抜くべきなんです、上が!」


 彼女は新人達に向かって、大きな声で演説をしている。スミレも何度も聞いたアレだ。しかも上層部への批判まで入っている。

 一緒にいるもう一人の指導役はそれを聞いて青褪めているし、新人達も声高らかに自分の考えを豪語する彼女に困惑して、顔を見合わせている。

 軽い混沌(カオス)に、たまたま通りかかったスミレは思わず半眼になった。


「誰があの子を指導役に選んだの……」

「ママ、ママ。頭が痛いですか?」

「そうですね、ちょっと精神的なもので頭が痛いですね……」


 あわあわと心配そうに見上げるサクラの頭を優しく撫でて、スミレはそう答える。


「ちょ、ちょっと、朽葉サン!? 何を馬鹿な事言ってんの!? 穏便にって言われたでしょ!」

「甘いのですよ、練絹先輩! 言われた事だけやるのは、新人のやり方です!」

「あんた新人に毛が生えただけでしょ!」


 的確にツッコミを入れているのは、スミレと同期だ。

 名前を練絹カタバミと言い、そばかすが特徴の穏やかな少年である。

 そう言えばヒナゲシと同じ部署だったな、と思いながら見ていると、


「フフン。入職して半年で指導役に抜擢されたボクが、新人に毛が生えただけの存在なんてあるはずないでしょう!」

「あるんだよ。完全に押しの強さで選ばれたじゃん! 最後、上司もううんざりして諦めてたよ!」

「自己アピールは大事なのですよ!」

「くっそ、話が通じねぇ……。ほんと勘弁してよ、こいつを指導役に選んだ上司ぃ……」


 ……かわいそうに。

 スミレは心から彼に同情した。

 ほろり、と涙が出そうになっていると、ヒナゲシと目が合った。


「あっ! スミレ先輩!」

「バレた……」


 呼びかけられて、思わず声が漏れた。

 幸いヒナゲシには聞こえなかったようで、彼女は意気揚々とこちらに近づいて来る。


「スミレ先輩、見てください! ボクが! 指導役に!」

「こらー! 山吹にまで迷惑かけるんじゃなーい!」


 慌ててカタバミが、ヒナゲシの首根っこを掴んだ。

 スミレが渇いた笑みを浮かべ「お疲れ様です、練絹さん」と声をかけると、彼は心底困った顔で、


「本当だよ……。急にごめんね……」


 と言った。まだ午前中なのに、へとへとに疲れている様子を見ると、相当大変なのだろうなという事が伺える。

 これは少しフォローしてあげた方が良さそうだ。そう思いながらスミレはヒナゲシの方へ顔を向ける。


「ヒナゲシさん。指導役のお仕事とは?」

「はい! 新人にうちの部署の仕事を教える事です!」

「そうですね。それで、あなたは何をしているんですか?」

「心構えを教えていました!」

「そうですか。少し聞きましたけど、私が知っているアカツキの心構えとは違いますね」

「え?」


 スミレがそう言うと、ヒナゲシは目を瞬く。


「アカツキの心構えについては、研修初日にミズキさんから新入職員の皆さんに教えていますので、すでに全員知っていますよ」


 ね、とスミレが新人達へ話を振ると、彼女達は揃って「はい!」と大きく頷いてくれた。

 すると、とたんにヒナゲシの顔色が悪くなる。


「え、あの、ミズキさんが……でも、ボク……」

「自分の信念を持つのは悪い事ではありません。ですが今日は新人研修です、ヒナゲシさん。彼女達の事を一番に考えてあげてください」

「…………はい」


 ヒナゲシはミズキの名前を出したとたんに、急に大人しくなった。

 何だかんだでミズキに憧れている彼女だ。自分がミズキの伝えた言葉とまったく違う事を言っていると知ったら、やはりバツが悪いのだろう。

 これで少し大人しくなってくれただろうか。そう思いながらカタバミへ視線を向ける。彼は片手を顔の前に立てて「ありがとう」と小声で言うと、


「うん、そういう事。それじゃ、話を進めるよ」


 と、ヒナゲシを連れて新人達の元へ戻って行った。


「ママ。あの女の人は、悪い人ですか?」

「うーん。ちょっと周りが見えなくて困っているけど、根っからの悪い人ではないですよ。……たぶん」

「それが一番厄介なのでは?」

「かもしれませんねぇ」


 目で見えている敵よりも、味方の中にいる敵の方が、ずっと厄介なのよ。

 サクラの言葉でスミレは、自分を助けてくれたミズキの祖母がそう言っていたのを、ふっと思い出す。


「ママ、どうしましたか?」

「いえ、何でもないですよ。それでは、そろそろ……」


 アケビさんのところへ行きましょうか、とスミレが言いかけた時。

 不意に、敵襲を告げる警報が鳴り響き始めた。


「その前に、ひと仕事入りましたか」

 

 スミレはそう呟くと、サクラをひょいと抱き上げて、格納庫目指して走り出した。



◇ ◇ ◇



 しょぼくれたヒナゲシをフォローしつつ、カタバミは何とか今日の新人研修を終えた。


「はー……終わったー……」


 主に心労の方の割合が大きいが。

 そんな事を呟きながら、カタバミはげっそりと疲れた顔で、自動販売機のボタンを押す。

 ブドウジュースのボタンを二度だ。

 ひょいと取り出すと、カタバミはその一本をヒナゲシに渡す。


「ほい、お疲れさん」

「…………ありがとう、ございます」


 元気のない声で、ヒナゲシはジュースの缶を受け取った。

 スミレに言われた事が相当堪えたのだろう。

 そんなにきつい言い方でもなかったが「ミズキ」の辺りがだいぶショックだったようだ。


 アカツキの英雄、白妙ミズキ。

 彼が自治組織アカツキに入り、戦闘用機械人形(オデット)の操縦士になってから、マスカレードによる帝都への被害が劇的に減った。


(腕も良い、見た目も良い、家柄も良い……って、また、天は二つも三つも与えたもんだよなぁ)


 羨ましい、とは、まぁ思わなくもないけれど。

 そんな彼だがただ唯一、色恋沙汰周りだけは面倒そうだった。

 表面の情報だけを見てミズキに憧れる人間は多い。想いを寄せられる数もまた然りだ。

 本人は興味がないそうで、告白の類はすべて断っているようだけど。

 ちなみにその理由は、ミズキ自身に好きな人がいるからではないかとカタバミは思っている。


(……たぶん、山吹じゃないかなぁ。他の人と絡み方が違うもん。まぁ山吹、まったく気づいてないけれど)


 他人からの想いも、自分の想いもなかなかどうして難しいものだ。

 色んな意味でミズキも大変だなぁとカタバミが思っていると、


「……ボク、頑張ったのに」


 なんてヒナゲシが呟いた。

 カタバミはその言葉を聞きながら、カシュ、と缶ジュースのフタを開ける。

 そして一口飲んだあと、


「まー根性はあると思うけどな。頑張り方がちょっと違うんだよ、朽葉はさ」

「頑張り方?」

「自分本位の頑張り方って事。人に自分の意見を押し付けちゃダメだ」


 と言った。


「……ダメばっかり」

「ん?」

「……でも、認めてもらうには、見てもらわなきゃじゃないですか。大人しく黙っていたって、誰も見てくれない。……ただ言う事を聞く良い子じゃ、認めて貰えない」

「え?」


 酷く暗い声で、まるで独り言のようにヒナゲシは言う。

 ぎょっとしてカタバミが彼女を見ると、


「……ジュース、ありがとうございました」


 と言って、ヒナゲシは歩いて行った。


「あ、ああ。……朽葉、ちゃんと家に帰って、ゆっくり休めよ」


 その背に向かってカタバミはそう声をかける。

 ――否、あまりに普段と違い過ぎて、それしか浮かばなかったのだ。

 ヒナゲシからの返答はなかった。



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