寝取られた女のたどり着く先
ほんの気の緩み――いや、単純に私が愚かだった。私は恋人がいるのに、他の男に体を許してしまった。
どうしてそんなことをしてしまったのか。それは彼――眞鍋博也からの返信が遅い――という些細なものだった。
付き合いたての頃は、博也はすぐに返信してくれた。私は博也の返信が遅いのは、何かやましいことがあるからだと疑心暗鬼に陥った。
そんな時にクラスメイトの小野幹人から、こんなことを言われた。
「眞鍋のやつ、多分浮気してる」
「そんな……」
幹人は自他共に認めるイケメン。
彼は私と違い、恋愛経験も豊富だった。その幹人がそう言うのだからそうなのかと、私はあっさり信じてしまった。
馬鹿だったと思う。
博也は私の幼馴染で、付き合いで言えば幹人よりずっと長い。
それなのに私は高校で初めて出会った幹人の言葉を鵜呑みにし、博也に浮気をしているのか確認すらしなかった。
「教えてくれてありがとう、小野くん。私……どうしたらいいかな?」
それどころか、私は幹人に感謝していた。
博也が不貞行為を働いたと思い込み、傷心していた私に親身になって接してくれる彼が魅力的に見えた。
「眞鍋はきっと、佐藤の気持ちを分かってないんだよ。だからさ、佐藤、俺とデートしないか?」
「え?」
幹人曰く、同じ苦しみ――浮気をされた――を味合わないと、私と博也は分かり合えないのだと言う。
それから私は博也から連絡が来ても、一切無視するようにした。
罰を与えるという大義名分のもと、私は幹人とデートを繰り返した。
そして私は――幹人と関係を持った。博也とはそんなことしたことがなかったのに。
「佐奈……あの……もしかして、僕のこと避けてる?」
博也から直接話しかけられても、私は彼と目を合わせなかった。
相手をしない私に、博也は慌てふためいていた。その様子を見て私は内心ほくそ笑んだ。
「幹人くん、好き♥️」
更に私は当て付けのために、博也の前で幹人とイチャイチャした。
「なんで……」
大粒の涙を浮かべる博也に対して、私は思った。
私を裏切ったんだから、当然の報いだ。ざまあみろと。
幹人と浮気をして2、3ヶ月が経った。
博也の表情からは生気が無くなっていた。しゃきっとしていた背は、丸まって猫背になり、日に日に彼が衰えていっているのが分かった。
この時になってようやく罪悪感が芽生えた。
こんなこともう止めようと考え始めた時、私は真実を知ることになった。
「お姉ちゃんって、最低だよね」
最初は何故、仲の良かった妹にこんなことを言われるのかわからなかった。
理由を問いただしたら、妹は答えてくれた。
「博也くんはお姉ちゃんのプレゼントを買うために、毎日遅くまでバイトしてたんだよ? 何でそれを裏切れるの?」
博也の返信が遅いのはバイトが忙しい、ただそれだけだった。しかも、そのバイトは私のために始めたもの。
何故妹がそのことを知っていたのかと言えば、私へのプレゼントをどうしたらいいかと、博也が相談していたからだった。
妹は幼い頃から博也のことが好きだった。だけど博也の気持ちが私に向いていると気付き、身を引いた。
だから、幹人を家に連れ込んだこともあった私を、相当苦々しく思っていたらしい。
妹は私に侮蔑の言葉を浴びせかけた。それでも憤りが収まらなかったのか、私の浮気を周囲の人へ伝え回った。
そして彼女は、傷ついた博也を癒すため「お姉ちゃんの代わりでもいいから」と博也と付き合った。
献身的な妹のおかげで、博也には笑顔が戻ったようだった。
私はと言えば、クラスメイトから、家族からも白い目を向けられるようになってしまった。
時折教室からは「うわ、佐藤ってゴミ女じゃん!」なんてヒソヒソ話が聞こえてくる。
共犯である幹人はそんな私を庇わない。教室の片隅でブルブルと震えているばかり。
彼からしたら、私との関係はつまみ食い程度にしか考えておらず、ここまで大事になるとは思っていなかったのだろう。
もう学校にも、家にも私が安らぐことのできる場所はない。ただ虚しい時を過ごす毎日。
全て自業自得。だけど――――
私にとって、世界は地獄そのものだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。