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ものまねピエロ  作者: 笑うクマ
3/3

1章−2 昨夜 月 綺麗

昨夜、夕食のあと、日課となっている香り滴る食後のコーヒーを飲みながら、

端正な顔立ちをしており、特徴的な切長な耳、太陽の光に反射した雪原を思わせる銀髪の

師匠と明日の日程の確認と雑談をしていた。


「明日は、学校初日ですから、朝トレして学校に向かいたいと思います。」

コーヒーを口に含み香りを楽しみ、喉に流し込みモノマネは、そう口にした。


師匠は、(ものまね)に顔を向けず、最近愛読している、少女漫画 「ドキドキ鈍器」を

何かに取り憑かれたように読んでいた。


「そうか」


雑な空返事をすると何か思い立ったように、勢いよく愛読書を閉じ、口を開いた。


「(ものまね)よ、最近ドキドキ鈍器という少女漫画がおもしろくてなぁ、入学式や転校日などに絶妙に遅れるか遅れないかのぎりぎりを狙って登校すると素敵な出会いがあるらしいよ。

フィクション作品におけるど定番ネタかもしれないけど、く〜っさいこう!」


「知ってますよ。最近、毎日朝から夜まで師匠を目にするたびに、ドキドキ鈍器のタイトルが目につくんですよ。なんですか?ドキドキ鈍器って!」


呆れたようなジェスチャーをしながらも、タイトルに少し興味をそそられていた(ものまね)は

疑問を投げかけた。


普段は、おちゃらけの無気力な師匠は神妙な面持ちで端正な顔に不釣り合いな死んだ魚の目をした目を閉じ、深く深呼吸をした。妙な緊張感が走る。ピリピリと肌が痛むようだと(ものまね)は感じていた。

何かまずかったのだろうか、特異の訓練でも死を覚悟するような際にしか感じないプレッシャーであった。


そうして、2秒ほどたっただろうか、(ものまね)は投げかけたただのくだらぬ質問の内容も

忘れ、死を覚悟するほどのプレッシャーにあてられ、大量の汗を流し、目眩すら覚えていた。

体感時間にして1時間ほどだっただろうか。


そうしていると師匠は、閉じた瞳を開き、悲壮ただよう表情で一言


「・・・・・・・約束だ。」


「はい?」


「なんでもない」


プレッシャーに押された(ものまね)はそれ以上なにも言えなかった。

なんてことない質問をしただけのはずであった。

普段からふざけた男ではあるが、

ただの、悪ふざけではっせられるプレッシャーではなかった。

頭に警報が響いてきていたようだった。


(ものまね)は、なにも言わずに自室戻り、眠りについた。


その後、夜の月明かりに照らされ、

輝きを放っている銀髪の主は、

窓を開け、風を感じ

グラスに注がれたウィスキーを手に同じく、

ウィスキーを注がれた4つのグラスの1つを眺め、誰かの声を匂いを思いを

思い出していた。



兵士の叫ぶ声、


硝煙の匂い、


血の匂い




幾人かの人影が、ドス黒い何かと交戦していた。

銀髪の少年

隻眼の女

金鎧の男

笑顔の女

大弓の男

仮面の

それと、統一された装束を着飾った兵士



「くっ・・。」

少年にドス黒い閃光が走った。

その瞬間少年と閃光の間に別の光が見えた

グチャッ・・・ぬめりのある音がする。

兵士たちはどす黒い何かに向かう。

少年は声を荒げた。


「えっ・・・なんだこれ・・・バッカ・・なにしてんだぁ!!」


腹に大きなドーナツの輪のような穴をあけ、今にも命の灯火が消え入りそうな鎧男に

詰め寄る。

「なぁ・・・どうして」


鎧男は血を吐きながら笑顔で答えた。

「友と交わした約束だからだ」


少年は顔を歪ませた。

「なに言ってんだ!契約したわけじゃないんだ!そんなの反故にすればいいじゃないか!!」


鎧男は消え入りそうな声で

「・・・魔法使いは・・これだからな・・契約なんてものはクソだ・・・一方的なら尚更

だが約束は別だ友と交わした約束なら尚更いい・・友を守れたなら」


「おい、待て、仁美はどうするんだ!子供だって!」

少年は声を掛け続ける。


鎧男をこの場所に止めるための鼓動が小さくなる。

最後の刻が来ていた。


少年は心から刻がやってくるのを拒んだ。しかし、

鎧男は刻が来たのを察して少し申し訳なさそうに

わりぃ頼んだ・・・約束してくれ・・あいつらのこと愛してるんだ。」

最後に残量の少ない命をその言の葉を残し

少年も悟った、望まぬ刻が来たことを


「ああっ、分かった、約束してやるっ・・一方的な契約ではなく友との約束をだからっ・・」


生きろと言いたかった諦めるなと言いたかった。だがその一言さえ言わせてもらえない

ほど希望がなかった。


だからせめて笑顔で答えよう

「酒でも飲んであっちで待ってろ」


鎧男は安心したように目を閉じ事切れた。


そこには、周りの喧騒と似つかわしくないほど静かで刻が止まっていたのかと思うほど。


少年は溢れだしていた水流を塞ぎ約束を果たすために鎧男だったものから離れ

兵士たちがなおも交戦中の黒いなにかに向かう。


向かいながら、ふと少年は約束と契約に違いはあるのだろうかと考えた。

約束をして本当によかったのだろうか。


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