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09



「おっはよう、アコナ! 元気!? って、なにしてるの? その格好は?」

「おはよう、ピアナ。お掃除しようとしてたところよ。お洋服はテディに持ってきてもらったの。おそろいね」


 翌朝。

 私は黒いメイド服姿で、廊下に立っていた。


 朝食を持ってきてくれたテディに聞いたところ、この屋敷の管理は、すべてテディが行っているとのことだった。


 ピアナは、人嫌いなワルターさんに代わって商談をしたり、テディに的確に指示を出すという仕事を担ったりしているらしい。


「掃き掃除なんか、アコナがしなくたって大丈夫なんだよ?」

「テディにも言われたわ。だけど、助けてもらったのに、何もやらずには居られなくって」

「アコナはお嬢様なんでしょ? しかも、グロウ家の公爵令嬢! お掃除なんてできるの?」

「家でもやっていたわよ。使用人に混ざって」

「なんで!?」


 小さな体なのに、大きな声だ。


 私はしびれる鼓膜をかばうように耳を押さえて、苦笑した。


「だって、そうしなければ誰にも愛される気がしなかったんだもの」


 ピアナが不思議そうな表情を浮かべる。 


 私は、お母様に愛されたかった。

 だから、役に立つ娘であることを証明したかったのだ。


 ワルターさんのお屋敷は、生活区域だけは実家より随分狭い。


 このくらいの広さなら、ちゃちゃっと終わらせることができる。

 それに、ここなら使用人の仕事を奪わないようにと調整しなくても良さそうだ。


「さて、やるわよ」


 胸元にしのばせていた杖を手に取ると、私は風に指揮をする感覚で振った。


 廊下全体に風をぶわっと吹かせると、廊下の隅や天井の梁に乗っていた埃が、すべて舞い上がる。

 風を操って、一所に集結させてお団子を形成。

 ほうきとちりとりでそれを回収すれば、廊下掃除は一丁上がりだ。


「一階にも行ってくるわね」

「ちょっ、待って待って待って!」


 掃除を終えたら、ワルターさんに話をしに行かなければと思っている。

 急いでいる私を引き留めたピアナは、目を丸めていた。


「アコナ!? 魔法すごすぎない!?」

「ええ、勉強と練習はとにかく頑張ったわ!」


 魔法の勉強は、マティアスの妻になるためにがんばった。


 将来は騎士団長になるマティアスだ。

 不意な争いごとに巻き込まれることもあるかもしれない。

 そのとき、彼の足手まといにならないように、魔法はとにかく勉強した。


 ……まあ、無駄になったわけだけど。


「勉強と練習でここまで!? こんな長い廊下を一瞬で、こんな器用に掃除できる人いないと思うよ!?」

「努力をすれば、誰でもできるようになると思うわ。お姉様には、貴族にはいらない力だと言われてしまったけどね」


 ピアナが口をあんぐり開けている。


 騎士ではないのだ。

 公爵令嬢が魔法を使えたところで、自慢にはならない。


 ピアナもお転婆な公爵令嬢だと、あきれているのかもしれない。


 そう思っていたのとは裏腹に、ピアナは興奮気味に青い目を輝かせた。


「すごすぎる! 魔法伯のワルターにこんなお嫁さんが来たら、最強な伝説すぎる! もう、運命だよ。伝説になるしかない運命だよッ」

「あ、ありがとう?」


 よくわからないが、褒めてもらえているらしい。

 きょとんとしたまま礼を述べると、ピアナは私にぎゅっと抱きついた。


「は~、もう、あたしは確信しちゃったもんね! アコナは絶対に長生きできるよ。だって、伝説すぎるもん」

「ふふっ、ピアナは伝説が好きね」

「伝説ハンターだもん」


 その伝説ハンターというのは、以前にも言っていた気がするが、なんなんだろう。

 

 聞いてみようかと口を開いたところで、ピアナは時計を見て「あっ」と声をあげた。


「いっけない! 今日、商会行かなきゃいけないんだった!」

「おつかい?」

「そうそう。ワルターってば、出不精なんだもん。新魔法具の販売についての相談」

「気を付けて行ってきてね」

「うんうん! あ、さっきはお嫁さんだとか言っちゃったけど、嫌だったら断りなね。あたし、ちゃ~んと元気が出るダンスの練習してるから、ワルターのことは心配しないで」



 ぐっと拳を握ってから、ピアナは「いってきまっす」と駆けていく。


 元気が出るダンスって……なに?


 謎のダンスに首を傾げながらも、一階の廊下をさっきと同じように掃除をしていると、後ろで息を飲む音がした。


「アコナ……。君は、天才か。メイド姿も可憐だ。やっぱり、どうしても君と結婚したい」


 銀色のまつげに縁取られた赤い瞳が、今日も綺麗だ。

 彼は、はっとした様子で口を押さえた。


「しまった。つい、反射でプロポーズを……!すまない。掃除を手伝ってくれていたのだな。ありがとう」

「いえ、そんな。その、ワルターさん。プロポーズの件について、話があるんです」


 やっぱり、彼がなぜ私と結婚したいのかは疑問だ。

 断るにしても、きちんと話を聞かなければ。


 ふうと息を吐いたワルターさんは、緊張しているように見えた。


「俺もだ。食堂で話そう」


 

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