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 テディが私の義弟になって日々は過ぎた。


 プティエから帰ってきたピアナは、テディが人型になっていることに驚いていたけれど、おおらかな彼女はすぐに受け入れた。


 食堂の四人がけテーブルの椅子がすべて埋まる日常は賑やかながらも楽しい。

 けれど、私にはタイムリミットがある。


 手首に刻まれた余命は、今日でちょうど100。

 明日から二桁になってしまうのだと思うと、気持ちは焦る。

 そこで私は朝食の場で、テディとピアナに相談してみることにした。


「テディ、ピアナ。ふたりは私とワルターさんよりも悪いことを知っている気がするの」

「おおっ!? それは褒めてるの、アコナ!?」

「アコナさん的には褒めてんでしょ。確かに研究ばっかのワルターよりは、僕やピアナの方がいろいろ知ってるだろうし。で、なに?」


 テディは花を食べながら話を聞いてくれる。


 最近のテディは花をよく食べる。

 吸血欲求を抑えるためだという彼に、花魔法で出した花を与えようとしたこともあるけれど、それは断固としてワルターさんが許さなかった。


 そんなワルターさんは、現在研究室に引きこもり中だ。

 魔導銃の開発が終わろうとも、魔法伯であるワルターさんの仕事は終わらない。

 ワルターさんに負担をかけないためにも、私はふたりに聞きたかったのだ。


「悪いことを知ってるふたりに、考えて欲しいの。なにが、私の呪いを解く禁忌になるのかを」


 今日この日まで、私は禁忌を試すことをサボってきたわけではない。

 回数の問題なのかということでワルターさんとは、毎晩寝所を共にしている。

 最初は照れもあったけれど、最近は抱きしめ合って穏やかに眠れるようになったくらいだ。


 それに、夫であり家長であるワルターさんに敬語をやめるという禁忌を犯してみたこともあった。

 恥ずかしいし、たどたどしくなってしまうしで、不便すぎたけれど、それでも一日は試してみたのだ。

 でも、私の手首の数字は未だに消えていない。


 正直、私とワルターさんの堅い頭で考える禁忌は、限界に達していた。


 ピアナが呆れたように肩をすくめる。


「は~、これだから純粋なおふたりは困っちゃうなぁ。ねえ、テディ」

「まったくだよ、ピアナ。本当に夫婦なのかと疑うレベルだね。特にアコナさんに関しては公爵令嬢なのに、そんな教育も受けてないのかなと疑問に思うレベル」


 テディとピアナが、顔を寄せてこそこそ話す。

 テディがゴーレムだった時代からの付き合いのふたりは、なんだか波長が合っている気がする。

 これはいい禁忌が期待出来そうだ。


 わくわくしている私に、ピアナとテディは顔を見合わせた。


「ちょっと。アコナさん純粋すぎて僕には言えない。それに男の僕がこれ伝えたら、ワルター怒りそうじゃない?」

「あ~、そうだね。ワルター嫉妬深いから」


 相談の結果、ピアナが教えてくれることになったらしい。

 椅子から立ち上がったピアナは、とことこと歩み寄ってくると、私の耳に口を寄せる。

 手を口元に寄せて、彼女は囁きで教えてくれた。


「初夜。迎えてみたら、どうかな?」

「しょや!?」

「わあ、でっかい声」


 テディが涼しい顔で、自身の耳を押さえている。

 真っ赤な私をからかうように、テディは笑みを浮かべた。


「アコナは公爵令嬢なんでしょ? そのくらいの教育受けてるよね?」

「噂程度にしか知らないわ。お母様は私に教育は受けさせてくれなかったし、本にもそんなことは書いてなかったもの」


 無知を馬鹿にされた気がして、唇をとがらせながら答える。

 ピアナには「やだ、純粋!」と口元を押さえてからかわれた。

 反して、テディは納得した様子で半眼になる。


「ああ。だぁから、ワルターのこと時々無防備に煽るわけだ。かわいそうに」

「私はワルターさんがかわいそうなことはしていないつもりよ。安心してね」

「はいはい。アコナさんが純粋なのは、よくわかったよ」


 両手をあげて、テディがおどける。

 純粋純粋って……子供扱いをしないでほしい。

 私はこんなに禁忌を犯してきているわけだし、キスだってたくさんしてしまっているのだから、十分立派なレディのはずだ。


「でも、テディ。初夜なんか迎えたら、ワルターってばアコナの血吸っちゃうんじゃないの? やっぱり血流はよくなっちゃうよね?」

「そ、そんなに恥ずかしいことなの!?」

「ん~、まあ多分我慢できないんじゃない? 普通にしてれば」

「血流がよくなっても、吸血欲求を煽らない方法があるの?」


 ワルターさんと居ると、照れてしまうことが多い。

 吸血欲求が暴走してしまったときのようになったことは、馬車での件から一度もないけれど、お互い気をつけているからなんとかなっていることだ。

 方法があるのならば、教えて欲しい。


 テディは、「まあね」と言いながらポケットから小瓶を取り出した。


「ワルターは魔法学が得意だけど、僕は薬学が得意でさ。ご存じの通り吸血欲求も強いし、血に対するこだわりも強くて、困ることも多かったから抑制薬をつくったんだ」

「すごいわ、テディ! さすがワルターさんの弟ね」

「なによ、テディ! こんなのがあるなら、最初っからワルターにあげれば良かったじゃん!」


 テディの知能に感動して気がつかなかったけれど、ピアナの指摘は確かにそうだ。

 テディはワルターさんのことが大好きなかわいらしい弟だ。

 彼なら吸血欲求という吸血鬼に付きまとうものを抑制できる薬ができたなら、すぐにでもワルターさんに渡しているはず。

 なぜ渡していないのかは不思議だ。

 ピアナの言葉にテディは難しい表情をしながら、小瓶の中の液体を揺らした。


「この薬だいぶ前に作ったやつで、残り一個しか無いんだよ。材料に使ってる花があるんだけど、それの入手が大変すぎる」

「大丈夫です。私が頑張ってそろえます」

「おっ。アコナったら、初夜にやる気?」

「ち、違うわよ! ワルターさん、吸血欲求で苦しそうな時もあるから、そういうときに飲めるものがあったら安心すると思うの」


 禁忌のことを聞いておいて、禁忌とは関係なく薬をつくってもらおうだなんておかしな話だとは思う。

 けれど、ワルターさんのためなら私はなんだってしてあげたいのだ。

 これは、私のわがまま。

 私が幸せに生きるための、わがままだ。


 テディはいつもとは違い、真剣な表情でこちらを見た。


「大丈夫? 相当とりにいくの大変だから、やめた方が良いかもよ。特にアコナさんは」

「どういうこと?」

「薬の材料になる流血の花が咲くのは、聖域だけ。勇者ジュールが呪いを受けた血の湖があったあの場所だからだよ」

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