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「アコナさんは、ワルターに出会って1年も経ってないよね? 僕は百年単位でワルターの弟やってんの。ぽっと出の女に殺されちゃたまんないよ。吸血鬼なんて数も少なくなってんのに、ワルターが死んじゃったら僕はこの先永遠にひとりぼっちなわけ?」

「テディール、おまえ本当にブラコンだったんだな」

「ほんとに、うるさいなぁ!」


 テディの愛に感心している様子のワルターさんに、テディが羞恥から噛みついている。

 その間に割って入るように体の位置をずらして、私はできうる限りの背伸びをした。

 ディナス兄弟は背が高い。

 彼らの視界に割って入るには、背伸びしなければならなかったのだ。


「いいですか、テディ! あなたがワルターさんを愛しているのは、本当に素晴らしいことです。ですが、その妻である私に危害を加えれば、ワルターさんは悲しみます。それはあなたも本意ではないでしょう。現にあなたは、記憶を失った私を見て、辛そうにしていたではありませんか」

「……それは、ワルターに殴られて、痛かったし」


 テディが素直ではないということは、もうよくわかっていることだ。

 言葉ではそう言っているけれど、視線は申し訳なさそうに泳いでいる。


「ワルターさんを悲しませたんです。あなたは間違いました。罰を受けてもらいます」

「記憶が戻っちゃったなら、仕方が無い。出てけって言うなら出て行くよ。……二度と帰ってこない」


 テディは気丈に言うけれど、その表情は悲しみに染まっている。

 背後にいるワルターさんを肩越しに振り返ると、彼もテディと同じような表情をしていた。


 そう。ワルターさんを悲しませることは、間違いなのだ。

 そんな間違った罰はくださない。


「出て行けなんて、絶対に言いません。ワルターさんは、あなたのことを大切な弟だと思っているのですから」

「じゃあ、どうするのさ」


 拗ねたような口調で、テディが言う。

 私は自分の表情筋の限界まで、悪い表情をした。


「テディ。あなたには、死ぬまでワルターさんの傍に居てもらいます」

「……は?」

「アコナ?」


 テディとワルターさんは、兄弟そろってぽかんとしている。

 私は胸を張って続けた。

 

「わかりませんか? あなたが出て行きたいと願っても、何が起きても、あなたにはワルターさんの傍に居てもらいますと言ったんです」

「なにそれ。そんなのが罰なの」

「罰です。私のわがままに付き合わせているのですから、相当な罰ですよ。私は人間ですから、ワルターさんの傍にずっといることは出来ません。私がいなくなった後も、あなたはワルターさんの傍で支え続けるんです」


 ピッとテディを指さす。

 彼はよく見ると、殴られて顔が腫れているのもあってか、本当に子供っぽい顔をしていた。

 かわいいなと思うくらいに。


「それから、ワルターさんのために私がつくっているロゼッタの世話をし続けてください。私は死ぬまでに花魔法で生み出す花の味を、あのロゼッタで再現したいんです。ワルターさんが何日も寝ていなかったら、紅茶に睡眠薬を混ぜてでも寝かせてあげてください。私の夫は頑張り屋さんなのです」

「そんなの、罰にならないよ……」

「では、もうひとつ」


 うつむくテディに、手を差し伸べる。

 困惑している彼に、私はふんわりと笑った。


「我慢して、好きではない私の家族になってください。そして、できれば仲良くしてください。あなたはワルターさんの大切な弟。私にもあなたを大切にさせてください」


 テディがくしゃりと表情を崩す。

 泣き出す前の子供のような表情のまま、彼はワルターさんを見やる。

 ワルターさんが優しい微笑みで頷くと、テディは私の手をそっと握った。


 私がぎゅっと握ると、テディはためらいがちに握り返してくれる。


「すごい罰だよ。こんなことされたら、僕はきっとあんたが死んじゃったときに泣いちゃうじゃないか」

「ありがとう。ワルターさんと一緒に泣いてちょうだいね」


 ズズッと鼻をすすったテディに、私まで泣きそうになった。

 その隣でワルターさんも鼻の下をこすっていたから、兄弟のかわいらしさに笑ってしまった。

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