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 私が使わせてもらっている部屋は、ワルターさんの両親が使っていた部屋だと聞いた。

 二人用のベッドはとても大きい。

 その端と端で、ワルターさんと私は背を向けて寝ている。


 マティアスとお姉様の新居にお邪魔したときも、確かこうやってベッドに入った。

 とても緊張していたけれど、辛いことが重なって泣いてしまった私はワルターさんに抱きしめられながら眠ったのだ。


 今思い出しても恥ずかしいけれど、照れちゃいけない!

 照れたら血流が良くなって、ワルターさんの吸血欲求を煽ってしまう。


 いけないいけないと自分に言い聞かせながら目を閉じる。

 けれど、全く眠れない。

 緊張しているせいで体はガチガチで、目はバチバチだ。


「ん……」


 目を閉じて朝を待とうと覚悟した私の背後で、ワルターさんが色っぽい声をあげる。

 彼が寝返りを打ったことをベッドのスプリングが伝えてくる。

 心臓がドキドキして破裂しそうだ。


 照れるな、なんて。

 感情をコントロールすることは難しすぎる。

 スーハー深呼吸をしていると、もぞもぞと背後にワルターさんが寄ってくるのがわかった。


「……ワルターさん?」


 だめですよ。という意味を込めて彼の名を呼ぶ。

 そろりと肩越しに振り返ると、ぼんやりと寝ぼけた目をしたワルターさんと目が合ってしまった。


「眠いです?」

「ん」


 こくんと頷いたワルターさんは、私の腰を抱き寄せる。

 抱き枕みたいにすっぽりと彼に抱かれてしまった私は、ますます体を緊張させた。


 ワルターさんは魔導銃の研究で徹夜をすることも多かった。

 最近もとてもがんばってくれていたし、今日テディが魔導銃をくれたということは完成して気が抜けてしまったのかもしれない。


 本当に眠たそうなワルターさんは、寝ぼけているのだと思う。

 私の頭にすりすりと頬を寄せて、首筋に息を吐きかけてくるのも、寝ぼけているからだ。


 ゾクゾクとした感覚に、じっとしていられない。

 このままでは恥ずかしすぎて爆死してしまう。


 幸い、ワルターさんは眠っているから吸血欲求が暴走していないけれど、彼が何かの拍子に目覚めたら大変なことになりかねない。

 私の血が毒で無ければ、彼にならいくら飲まれたってかまわないけど、毒なのだから飲まれるわけにはいかない。

 ワルターさんが起きる前に、ベッドを抜け出して、朝が来るまで書庫で本を読んでいよう!


 決意して、もぞもぞと身じろぎするけれど、ワルターさんが腰を抱く力は存外強かった。

 起こさないように、慎重に私の腹の前で組まれた手をほどこうとすると、「うん?」とかすれた声が耳をくすぐった。


「どこ行く気だ?」


 甘い声だ。そして、ゆるい声だ。

 彼の意識は、半分以上眠りの世界にいる。

 わかっているから返事はせずに、腕からの脱出を試みる。


 でも、ワルターさんはそれを許してはくれなかった。

 首筋に、ひやりと彼の唇が触れた。


「ひっ」


 思わず悲鳴じみた声が出てしまう。

 身を固めていると、彼はあろうことか私の首筋に甘く歯を立てた。


 思わず体が跳ねてしまう。

 逃げなければ、ワルターさんは私の血を吸ってしまうかもしれない……!

 慌てて逃れようとするけれど、不思議なことに体の力は信じられないくらいに抜けてしまっていた。


「ワルターさんっ。だめです」

「ん。愛してる。ここにいろ」


 さわさわと腹を撫でられて、首筋をちゅっと吸われる。

 チリッと走った痛みに驚いていると、ワルターさんはそのままくたりと眠ってしまった。


 勝手に体温を上げられて放置されたような気がする。

 絶対に離してくれそうも無いワルターさんの腕の中で呆然としていたら、ずいぶん長い時間が経ってしまったようだ。

 カーテンの向こうが明るくなり始めている。


 その頃になって、ようやく少し眠れた私はすぐに目を覚ますことになる。


「おはよう、アコナ」


 頬に落とされた口づけに、大げさにびくりと反応して身を起こしてしまう。

 昨夜首筋を吸われたことを思い出して、ワルターさんにぐるんと顔を向ける。


 大げさな反応に驚いている様子のワルターさんが目をぱちりと瞬かせた。


「……ワルターさんは、獣でした」

「は?」

「寝ているときに、お、おなかを撫でないでくださいっ」


 彼がなでなでさすさすと可愛がってくれた下腹部に手を当てて必死に訴える。

 覚えていなかったのだろう。ワルターさんは数秒おいて、爆発でもしたかのように真っ赤になった。


「っ、覚えていないなんて、惜しすぎる!」

「後悔するところはそこですか!?」

「はあ、くそ。君の呪いが解けたら、俺は君の全身を余すこと無く撫でる! そして、その一つ一つの感触を絶対に忘れんぞ。覚えていろ、アコナ」

「……すっごく、変態です」

「変態なものか。これは、愛だ」


 真剣な表情で言うワルターさんに、愛とはなんなのだろうと考えてしまう。

 けれど、そんな変態発言も嫌ではないなと思ってしまうのは、もうきっと愛なのだろう。 

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