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ピアナと店長は恋仲になった。
ピアナはプティエを手伝いにでかけることも増えたけど、まだ居を移す気はないらしい。
「ワルターとアコナが、ちゃぁんと結婚するまでは心配で出て行けないよ」と笑顔で言ってくれたピアナの言葉が嬉しかった。
ふたりの愛を目撃してからというもの、私は罪悪感から逃げるように過激な罪深いことを試し続けていた。
ワルターさんと結婚して、長生きしたいと言っておきながら、ゾンビになることもできない罪悪感は、私を責め続けていた。
過激な罪深いことは、例えば三日間連続の徹夜。
どんなに眠くても、三日三晩花魔法や花の品種改良についての本を読み続けた。
公爵令嬢は政略結婚をすることが仕事のようなものだ。
自分という商品を磨くためにも、美を損なう可能性がある徹夜なんて、したことはなかった。
だからだろう。
三日三晩の徹夜を終えた後は、辛すぎて一日寝込んでしまった。
それでも、余命を刻む数字は消えない。
それならば、と。
ここ最近は庭仕事に精を出している。
令嬢は、土を踏むだけでもよくないと言われている。
こんな畑の真ん中で、つばの広い麦わら帽子を被り、首にタオルを巻いて、オーバーオールを着ているだなんて、罪深いにもほどがある。
わっしょいわっしょいと、畑に自分で配合した肥料を混ぜ込んで、苗を植える。
魔力を少しだけ込めたのは、私が生み出す花と同じような味ができることを願ってだ。
「……アコナか?」
作業が一段落したところで、汗を拭っていた私は、気怠げな声に振り返る。
そこには書庫から出てきたところのワルターさんが立っていた。
ここ何日間か、彼とは食事のときしか顔を合わせていない。
魔導銃の開発が佳境だと言っていた彼も、また徹夜をしていたのだった。
「ワルターさん、顔色が悪いですよ。少し寝てはいかがですか?」
「もう少しで、煮詰まっていた部分の活路が見いだせそうなんだ。だが、地下にこもってばかりではおかしくなりそうだからな。少し外の空気を吸いに来た。アコナは何をしているんだ?」
「公爵令嬢なのに、土の上に立ち、花を育てるという罪深い行為を試しています」
「なるほど。なかなか禁忌っぽいことを考えるのも難しいな。なんの花を育てているんだ?」
ワルターさんは日陰から、日向へと出てくる。
羽織っていたマントのフードを被ったのは、彼が日に弱い吸血鬼だからだろう。
こうした些細なことで、彼が吸血鬼なのだと言うことを思い知らされる。
どんなに長生きしようとも、彼を置いていってしまうのだという現実に胸が痛むようになったのは、最近のことだ。
「ロゼッタという花です。小さなバラのような花なんですけれど、棘がないお花なんですよ。花言葉は『あなたの幸せを祈る』」
「さすがは元花屋の店員だな」
「ふふ。店長にゆずってもらったんです。ワルターさんのために、私の生み出す花と同じ味の花ができないかなって」
ワルターさんの表情が曇る。
私のまだ隈の残る顔を、同じく疲れた顔をしたワルターさんがのぞき込んできた。
「君は長生きするんだろう? そんな花は必要あるか? アコナが生み出してくれる花だけを食べて、俺は生きていきたい」
切ない声に、胸がぎゅうっと苦しくなる。
けれど、私は魔法の花を作り出す必要があった。
「もちろん。私は長生きするつもりです。ですが、人間ですから。どんなに長生きをしても吸血鬼のように不老不死というわけには、いきません。ですから、私が居なくなった後も、お役に立てるように。花の交配は難しいですし、時間もかかります。長生きしなければ、完成しないものなんですよ」
冗談めかしてみて言ってみても、胸の内の罪悪感は消えてなくならない。
店長とピアナの姿を見てから、私はずっとひとつの罪悪感を抱えている。
不老不死のワルターさんと結婚するというのに。長生きするという約束をしたというのに、私はゾンビにはなれないという、罪悪感を。
「そうか。ならば、長生きして研究を完成させてもらわなければならんな……」
私の発言に、ワルターさんが目を細める。
寂しげな彼の瞳に耐えられない。
私が死んでしまったら、彼はこんな表情で、私が植えたロゼッタの花畑を見るのだろうか。
そう思うと、胸が痛くて痛くて、たまらなかった。
抱えていた罪悪感があふれ出す。
私は思わず、彼に罪を告白しまっていた。
「ワルターさん。……ごめんなさい」
「何がだ?」
罪悪感に震えてしまった声に、ワルターさんがぎょっと目を見開く。
「私……、ゾンビになることは、できません」
声の震えが激しくなる。
感情が高ぶってしまって、気づけば私の目尻には涙が光ってしまっていた。




