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【完結】余命1年の花嫁は、グルメ吸血鬼と禁忌を犯して長生きする ~婚約破棄された上に呪われたし、もう家には帰りません~  作者: 夢旗ひつじ
禁忌5 ゾンビだけど、幸せにする

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 ここ数日、いろいろなことがあって疲れていたのだと思う。

 書庫で倒れて、そのまま寝込んだ私は夜に目を覚ました。


 気付けば自室のベッドにいて、ピアナが傍で看病をしてくれていた。

 「よがったよぉ」と目覚めたことを喜んでくれたピアナの姿は、なんだか懐かしかった。


 彼女に、ワルターさんは書庫の地下室で研究をしていると聞いて、すぐに向かうことにした。


「地下は迷宮だからね。今日は、第6研究室にいるって言ってたから、あたしが連れてったげる!」


 ピアナの言うとおり、書庫の地下は迷宮だった。

 どこをどう曲がったのかもよくわからないまま、第6研究室という札が下がった部屋にたどり着く。


「ありがとう、ピアナ」

「アコナ。あたしは、アコナのこと大好きだからね。酷いこと言う奴のことなんて、気にしちゃダメだよ」

「……本当に、ありがとう。ピアナ」


 お母様には道具と思われていようとも、私には私を好きでいてくれる人がいる。

 そう思うと、生きていていいような気がした。


 最後に私をぎゅうっと抱きしめて、ピアナはパタパタと去って行く。


 彼女の小さな背中を見送ってから、ノックをしようと手をあげる。

 すると、ドアをたたく前に、第6研究室のドアが開いた。


「びっくりしました」

「驚かせてすまん。ピアナが行っただろう。あいつは匂いで、すぐにどこにいるかわかる」


 確かにピアナは、いつも素敵な香水のにおいがする。

 でも、ドア越しでもわかるだなんて、さすがは鼻の利く吸血鬼だ。


 感心していると、ワルターさんに室内へと促される。

 室内のテーブルには、金属でできた筒がいくつも並べられていた。


「これは?」

「自身の魔力を高圧で射出できる武器のパーツだ。試作段階でな。どの材質がいいか選んでいる。この魔導銃は、君と俺が幸せになるための研究だ」

「私たちのためのですか?」

「そうだ。毒血(どっけつ)の呪いがなくなろうとも、この魔導銃があれば、人間は吸血鬼を殺傷できる。アコナが長生きする文句を、誰にも言わせないための魔法具だ」

「すごいです……! 私のためにこんなことまでしていただいて、ありがとうございます」

「俺たちのための研究だ。君が長生きすることは、俺のためでもある」


 ワルターさんは、私の花魔法でうまれる花を愛している。

 だから、私の長生きはワルターさんの幸せに直結しているというわけだ。


 もっとがんばってたくさんの禁忌を犯してみなければ。

 内心張り切る気持ちを新たにしながら、机の上に乗っている筒をいろいろな角度から観察していると、ワルターさんがほっとしたような息をもらした。


「思っていたよりも元気そうで安心した。もう大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃありません。だから、慰めてもらいに来ました」


 今までの私からじゃ、考えられないような答えだったのだろう。

 きょとんとしているワルターさんに、私はくすくす笑う。


「だって、ワルターさんは私を甘やかす天才なんですもの。大丈夫じゃないです。だから、慰めてください」


 ここ数日、マティアスの件も、お姉様の件も。

 そして、お母様との件も。

 辛いことが多かった。


 その度に立ち止まりかける私を救ってくれたのは、いつだってワルターさんだった。


 彼の言葉は、いつだって魔法みたいに私を救ってくれる。

 だから、お母様に傷つけられた心もワルターさんなら救ってくれると、信じていた。


 ふっと笑んだワルターさんが、私の傍へと歩み寄る。

 ぽすりと彼の胸に私から顔を埋めると、彼は文句も言わずに抱きしめてくれた。


「頼まれなくても、慰めにいくつもりだった。実の母が娘に言って良い言葉ではなかった。傷ついただろう」

「胸にぽっかり穴が空いてしまったみたいで、ずっと痛くて苦しいんです」

「悲しいときは、とことん悲しめばいい。君の傍には、いつだって俺がいるのだから。大丈夫だ」


 ワルターさんの「大丈夫」は、どうしてこうも力があるのだろう。


 傷ついた心を癒やすように、その言葉はしみこんでくる。


「ワルターさん。私、お母様に道具と思われていたことは、本当にショックでした。すぐには受け入れられないくらいに。でも、気が狂うほどの悲しみには襲われなかった。大丈夫なのかもって思えたんです。ワルターさんのおかげで」


 彼の背に腕を回す。


 抱きしめると、ワルターさんの温もりが近くなった。


「私には、ワルターさんがいる。悲しい過去はあったけれど、今とこれからの私にはあなたがいてくれる。そう思ったら、笑って生きていける気がしたんです」

「アコナは、過去を乗り越えたんだな。本当にすごいな、君は」


 ぽんぽんとワルターさんが背を撫でてくれる。


 がんばった。

 私はがんばって、過去を知って、怒って悲しんで、乗り越えた。


 だから、ここから先は幸せになるだけだ。


「ワルターさん。結婚式の日取りを決めましょう」

「今か?」

「はい。だって、吸血鬼と人間の結婚式だなんて、とっても罪深い香りがしますもの」


 いたずらっぽく笑って、ワルターさんを見上げる。

 彼は、小さく笑って私の髪を撫でた。


「確かに。禁忌の香りがするな。俺は親戚はいないからいいが、アコナは呼ばなければならないだろう。あの母と姉がいることに、耐えられるか?」

「乗り越えた過去ですから」


 それに、私にはワルターさんがいる。


 お母様やお姉様が、私を傷つけたって、彼がまた癒やしてくれる。


 もう何も怖いものはなかった。


「では、決めよう。あー、マティアスのときのような盛大な式ではないと思うのだが、構わないか?」

「来賓の方は親族以外必要ありませんよ。ワルターさん、人付き合い苦手そうですもんね」

「吸血鬼は人間とかかわると碌なことがないから、避けていたんだ」

「私も人間ですよ。今のは失礼だと思います」

「……わかった。訂正しよう」


 渋々訂正するワルターさんに笑ってしまう。


 あんなに悲しいことがあったのに、彼と話すだけで、もう救われている。


 この感情は、まるで……。

 いや、大丈夫。

 きっとまだ、友好的な感情のはず。


 だけど、急に恥ずかしくなってしまって、彼から身を離した。


「もう慰めなくて良いのか?」


 小首を傾げたワルターさんの首筋を銀髪が流れる。


 その美しさに、また胸がぎゅうっとなったけど、大丈夫。

 これは、美しいものを見た全員が抱く感情に違いない。

 決して、愛ではない。


「ありがとうございます。もう大丈夫です。なんだかはしたない真似をしてしまいました」

「君が甘え上手になってくれて、俺は嬉しいがな。最初の頃は考えられなかった」

「私もです。自分がこんなにはしたない女だったなんて、びっくりです」

「……そこまで不埒な真似をしたわけではないだろう」


 ワルターさんはちょっとだけ呆れた様子だ。

 けど、婚姻前の男女が抱きしめ合うだなんて、不埒以外の何者でもない。


 反論しようと口を開くと、ワルターさんが手で制した。


「ピアナ。何か用か?」


 吸血鬼は本当によく鼻が利く。


 ワルターさんが声をかけると、ドアが開いてピアナがひょこりと顔を出した。


「ワルター。変なの。本が一部なくなってる」

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