28
お姉様だけが楽しそうだった夕食が終了した後。
私とワルターさんは、それぞれの客室に案内された。
丁寧に案内してくれた侍女にお礼をしたあと、ドアを少し開いて様子を見る。
彼女が廊下の角に姿を消したことを確認してから、廊下に出て隣室のワルターさんの部屋のドアをたたいた。
ドアは思っていたとおり、すぐに開いた。
「俺から行こうと思っていたところだ」
ワルターさんに招き入れられた室内は、私の案内された客室と同じ造りだ。
設置してあるティーテーブルを挟んで、腰掛ける。
ワルターさんは、疲れた表情をしていた。
「夕飯はリーリスに話しかけられすぎて、頭が痛かった」
「お姉様は、ワルターさんを気に入られたみたいですね」
「嫌なことにな。それよりも、大丈夫だったか? その……泣いていただろう」
視線をそらしながら、ぎこちなくも心配してくれるワルターさんは、やっぱり優しい。
その優しさに視界が滲む想いがしながらも、私は苦く笑んだ。
「私も彼を傷つけたので、お互い様です」
「……なぜ今夜は泊まることにしたんだ? こんな家にいても辛いだけだろう。今からでも他の馬車を頼んでも構わないんだぞ」
「それは、ダメなんです」
「この宿泊には、なにか意図があるのか?」
察しのいいワルターさんが、心配そうにしていた表情を冷静なものに変える。
私は、正にそのことを話に来たのだ。
「マティアスに婚約破棄をした理由を聞いたんです。これは、ワルターさんだからお話しするんですが……、彼は人狼でした」
ワルターさんの赤い瞳が大きく見開かれる。
マティアスとの会話を思い出して、感情が引っ張られないように。
努めて、淡々と話を進めた。
「ワルターさんは、人狼の習性についてご存じですか?」
「ああ。……愛する者を食らってしまうんだったな。残酷な性だ」
「マティアスは、私を愛してくれていました。人狼の血に抗えるか不安に思っていたところを、お姉様に誘惑されたんだそうです」
「やはり、リーリスから誘惑したのだな」
「はい。その誘惑をされた日は、結婚式の日取りを決めるために、彼がグロウ家を訪れていた日でした。その日も、帰りに馬車が壊れたんです」
ワルターさんが、眉根を寄せる。
「そして、今日も偶然馬車が壊れたと?」
「前回の時、御者が親切に車輪のなくなったパーツ部分見せてくださったんです。今日なくなっていたパーツも同じ部分のものでした」
「十中八九、リーリスが仕掛けをしたのだろうな。前回も、今回も」
呆れた表情を見せるワルターさんに、同意だ。
「お姉様は、きっとマティアスを誘惑するチャンスをつくるために馬車を壊したんでしょう。そして、今回はワルターさんを誘惑するために」
「毒血の呪いを知っていたのなら、マティアスを誘惑したことについては、理解できる。アコナより先に結婚しなければ、呪われるのは自分なのだからな」
「……お姉様は、呪いについて知っているのでしょうか?」
今回の訪問で、聞いてみたいと思っていたことだ。
タイミングが図れず、聞けなかった質問はワルターさんがしてくれていたらしい。
彼は首を横に振った。
「いや、知らなかった。だからこそ、なぜリーリスがマティアスを奪ったのかが理解できない。リーリスがマティアスを愛している様子もなかっただろう。しかも、次は俺だなんてどういうことだ」
深くため息を吐いて、ワルターさんが頭を抱える。
百歩譲って、お姉様が毒血の呪いを恐れてマティアスを奪ったのならば、それは仕方がないと思っていた。
だけど、呪いを知らないのであれば、その可能性はない。
それに、ワルターさんにばかり話しかけるお姉様の姿を見て、確信した。
「お姉様は、私が思っていた以上に、私のことを嫌っていたのかもしれませんね」
マティアスとワルターさん。
お姉様が、私の大切な人を奪う理由なんて、嫌われているからとしか、考えられない。
だから、それを確かめるためにも、私は今日ここに泊まることにしたのだ。
「お姉様は現行犯で捕まえなければ、きっと本音をお話になってはくれません。だから、今日は泊まることにしたんです」
「なるほど。マティアスのときと同様、泊まればリーリスは夜這いに来るだろうということだな。そこで彼女を捕まえろと」
「いえ」
張り切っているワルターさんの答えを否定する。
「ん?」と首を傾げる彼に、私は自身の手を強く握りこんで答えた。
「私が、捕まえて直接話を聞きたいんです。だから、ワルターさん。今日はあなたのベッドで共に寝かせてください」
「……はっ?」
ワルターさんは、耳まで真っ赤になって、素っ頓狂な声をあげた。




