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「すごいです……! こんな難解な暗号でできた古代語を三日で解読するだなんて。やっぱり、ワルターさんって魔法伯なんですね」
「アコナが迅速にここまでの資料をかき集めてくれなければ、この速度は不可能なことだった。君は自分の実力を誇って良いんだぞ」
ワルターさんの後ろには、私が書庫からかき集めてきた資料が山になって積み上がっている。
これだけの量を瞬時に読み込んで、解読に活かすために応用するなんて技は、やっぱりワルターさんだから出来たことだろう。
この古代語の文献が解読できたことは、素直に喜ばしい。
だけど、不安な点は大きかった。
「なんか、超曖昧な言葉だね。『禁忌を犯せ』って言うけど、その犯すべき禁忌はなんなわけ?」
文献を見て、ピアナが首を捻る。
そう。その禁忌が、わからなかったということは大きい。
毒血の呪いは、吸血鬼であるワルターさんにもわからないことが多い呪術だそうだ。
書庫の本は、すべて目を通したことがあるという彼が、これ以上詳しい文献はないだろうと言っていた文献の解読結果が、一文のみ。
私の余命を伸ばすことが、いかに難しいことなのかという現実を突きつけられた気がした。
少し落ち込む私に対して、ワルターさんはとても前向きだ。
ぴんと人差し指を一本立てて、嬉しそうに笑った。
「婚姻前の同衾という禁忌は、その禁忌ではないということが判明したのだ。問題はない。あらゆる禁忌を試していけば良い。いずれ、呪いは解けるはずだ」
「そうですね。がんばってみます! 何から始めれば良いでしょう……。えっと、深夜にごはんをたくさん食べるとかですかね」
ワルターさんの言葉に元気づけられて、ひとつ絞り出して提案してみる。
ピアナは、「え~っ」と唇をとがらせた。
「禁忌って言うくらいなんだから、もっと悪~いことなんじゃないの? 例えば、結婚式当日に婚約破棄する不誠実顔だけ男をボコボコにしちゃうとか!」
「マティアスは強いから、たぶんボコボコにするのはとっても大変だと思うわ」
「俺が加担すればいけるだろう。だが、大変以前に、それは犯罪だな。復讐のために、こちらが痛手を負うことは馬鹿らしい話だ」
手ひどく裏切られたものの、私はまだマティアスへの想いを断ち切れていない。
ボコボコにするなんて、許された行為でも、きっとできないだろう。
それに、私は誰かを傷つけてまで長生きしたいとは思っていなかった。
手頃な禁忌を試してみて、それでもなお死んでしまうというのならば、それは仕方のないことだ。
つまり、誰も傷つけず、最期まであがきたい。
「ピアナ。私は禁忌初心者だから、手頃な禁忌がいいわ……。何か思いつく?」
マティアスをボコボコだなんて、過激なアイディアが浮かぶピアナだ。
何か他にいい案があるのかもしれないと振ってみると、ピアナはにんまり笑って、カーテンを開けた。
「今は深夜。お手頃な悪いことには、ぴったりの時間だよー!? 大体なにしても悪いことになる、禁忌にはうってつけの時間だもん」
「そうね。やっぱり、深夜ごはんがいいかしら」
「いや、深夜デートにしよう」
窓の外に見える月を見上げた私は、ワルターさんの声に「へ?」と素っ頓狂な声をあげる。
「婚姻前の男女が深夜に逢い引きだなんて、罪深いだろう。それに、出先で食事をすれば、深夜ごはんという禁忌の実験も行える。効率的だ」
「ワルターったら、デートのお誘いで効率的はないっしょ」
「すごいです、ワルターさん。効率的です。行きましょう、デート!」
「……アコナが良いんだったら、良いんだけどさぁ」
なにやら腑に落ちていない様子のピアナに、「とりあえず着替えとお化粧はしよ!」と部屋に連れて行かれる。
「では、屋敷の門で待ち合わせよう。待っているからな、アコナ」
書庫の扉が閉まる前。
微笑んで手を振ったワルターさんの優しい表情に、デートという響きへの照れを、今更ながらに感じた。




