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本の世界(戯曲)

作者: 秋村智星

 〈登場人物〉

大田おおた 智哉ともや

三井みつい 蓮華れんか

司書ししょ高島たかしま 加奈かな

店員てんいん医者いしゃ


第一場


壁も床も、全て真っ白な部屋。舞台中央には椅子が一脚あり、その上に古ぼけた青い布張りの本が一冊置いてある。智哉がやって来て、その本を手に取る。


智哉 僕が手に取った時、既にこの本は古ぼけていた。端は擦れて色が剥げ、表紙には所々に凹みや傷があった。同じ本がないか店員に聞こうとした。が、辞めておいた。僕は今すぐに、この本を読む必要があるように思えたからだ。


幾人が交差に通り過ぎ、それに紛れて椅子を取り除くと同時に店員が僕の前に立つ。


智哉 何となく、本屋で店員にこの本を読んだか聞いた。すると、

店員 勿論。

智哉 と返って来た。でも可笑しな事に、彼はこの本の登場人物なのだ。


店員、去る。それと同時に暗転し、智哉独白。

この間に上手に向かい合った二脚の椅子・下手にカウンターを置く。


智哉 最初に可笑しいと思ったのは、この世界を『可笑しい』と思わなかった事に気付いた時。明らかに僕が生まれ育った環境と違うし、何より少し前の記憶が思い出せない。どうやってこの世界に来たのか、なぜこの世界に居るのか分からない。それなのに僕は、平然とこの世界でしばらく生きていた。そこでこの世界について知るべく、まずは図書館へと向かった。


舞台、明るくなる。

図書館。カウンター前に、司書が立っている。智哉、カウンターの前に立つ。


智哉 あの、新聞のバックナンバーってありますか。

司書 生憎ですか、取り扱っておりません。

智哉 じゃあ近年の事が分かる物、雑誌とかでも良いです。

司書 生憎ですが、取り扱っておりません。

智哉 じゃあ、この図書館では何を取り扱っているんですか。

司書 見ての通り、本です。

智哉 そう言う事じゃなくて。どんなジャンルの本を取り扱っているとか、中身の話です。

司書 実際に本を手に取って読んでみれば分かります。

智哉 そりゃそうでしょうけども。手に取るにしても、どれを手にすれば良いのか。

司書 (智哉の持っている本を見ながら)既に貴方は、本を持って居るじゃないですか。それを開いて読む、それだけで良いんです。

智哉 言われるまでは気づかなかったが、いつの間にかこの青い本を持っていた。これ以上彼女に本やココの事を聞いても同じような事を言われる気がしたので、とりあえず借りて家に帰る事にした。


司書、去る。智哉、上手側に移動する。

智哉の家。蓮華がやって来て、手前の椅子に座る。


蓮華 お帰りなさい。

智哉 (驚いて)貴方、誰ですか。如何して僕の家に。

蓮華 まさか、私を追い出すの?

智哉 ・・・ううん、追い出さない。どうしてだか分からないけど、君を追い出してはいけない気がする。

蓮華 (少し間を置いて)ありがとう。

智哉 僕は大田智哉。字は大きい田圃に、

蓮華 知ってる。大きい田圃に明智の「智」、裁縫の「裁」の衣を口に変えて大田智哉、でしょ?

智哉 それ、僕が名前を言う時のフレーズ。よく知ってたね。

蓮華 貴方の事なら、何でも知ってるわ。

智哉 君、名前は。

蓮華 三井蓮華。三つの井戸に、蓮の華。

智哉 蓮と言えば、僕の飼っている猫の右脇に蓮の花のような模様があるんだ。(あたりを見回し)可笑しいな。僕が帰って来ると、いつも出迎えてくれるのに。君に怯えて、どこかに隠れたのかな。

蓮華 この家に、動物が居た形跡はないわ。もしかしたら、今は一緒に暮らしているんじゃないかな。実家や友達の家に預けたとか。

智哉 (動揺しながら)そうだったかも、しれないな。

蓮華 (智哉の持っている本を見て)それ、読むの?

智哉 分からない。成行きで借りたんだ。図書館に行ったら、いつの間にか持ってて。

蓮華 今日はもう疲れてるんじゃない?本はいつでも読めるんだし、読むのはまた今度にしたら?

智哉 それもそうだね。先に休ませてもらうよ、お休み。


智哉、空いている椅子に本を置いて去る。少し間を置いて、蓮華はそっと手を本に伸ばす。が、何かの力に阻まれて手を引っ込める。蓮華が去ると同時に暗転。智哉、中央にて独白。


智哉 こうして、蓮華との生活が始まった。彼女との生活は、実に心地よかった。必要最低限の事しか干渉してこないし、何より僕とは気が合った。僕のしたい事が彼女のしたい事であり、彼女のしたい事が僕のしたい事だった。まるで、一心同体。彼女と居る事は、安らぎだった。だから、本の事は忘れてしまっていた。そんなある日、家に司書さんが家にやって来た。



第二場


舞台、明るくなる。

智哉の家に、智哉と司書が居る。司書は本に埃をかぶっているのを確認するように表紙を指でなぞり、指先に付いた埃を吹き飛ばす。


智哉 すみません、すっかり返すのを忘れていて。返却期限、どれぐらい過ぎてましたか。

司書 当館の貸出物に、返却期限はありません。

智哉 本の回収じゃなかったら、どうして来たんですか。

司書 貴方がこの本を読んだか、確かめに来たんです。如何して、読まなかったんですか。

智哉 どうしてと言われてもな。単に、読む気にならなかったんです。成行きで借りただけだったし、そもそもその本には僕の知りたい事が載ってない。

司書 読んでもないのに、如何して『知りたい事が載ってない』と分かるんですか。本を開いて読む、それだけで良いんです。

智哉 貴方こそ、如何して僕にその本を読ませようとするんですか。

司書 お答え出来ません。

智哉 理由を言わないのに、強要するのはどうかと思います。

司書 貴方は何も分かってない。だって、その本は、


そこへ、蓮華が紅茶の入ったカップを持ってくる。


司書 (顔を強張らせ)失礼します。


司書、去る。


智哉 蓮華、何かしたのか。

蓮華 何かって、紅茶を持ってきただけなんだけど。客人にお茶を出すのは、当たり前の事でしょ?もしかして、紅茶の匂いが駄目だったのかな。

智哉 紅茶の匂いが駄目な人っているかな。

蓮華 いるかもしれないじゃない。それより、この紅茶どうしよう。

智哉 俺が飲むよ。本の横にでも置いといて。

蓮華 えっ。

智哉 如何したの。

蓮華 ・・・ううん。ただ、埃をかぶっている物の横に置くのもどうかなって。

智哉 それもそうだな。


智哉、本を手に取る。蓮華、本のあった場所にカップを置く。


蓮華 ちょっと出かけてきて良いかな。

智哉 何処に行くの。

蓮華 内緒。


蓮華、下手にあるカウンターに向かう。それと同時に、智哉は本とカップを持って去る。

図書館。蓮華はカウンター前に立ち、深呼吸する。


蓮華 (カウンターの向こうに)すみません。


司書、やってくる。蓮華を見て、立ち止まる。


蓮華 そんなに構えなくても、今の私なら大丈夫でしょ。ちょっと、話したい事があるんだけど。

司書 分かった。


2人、上手の椅子に座る。


蓮華 この世界に、貴方も居るとは思わなかった。本を渡したのは貴方なの?

司書 図書館に来た時には、もう持っていた。私に出来る事は本を読んだか確認する事だけ、持たせる事は出来ない。

蓮華 二度と、智哉の前に現れないで。

司書 私から会いに行く事はもうしない。だけどあの人が私に逢いたいと思ったら、それを止める事は私にも貴方にも出来ない。

蓮華 そうはならないし、そうはさせない。

司書 どうなるのかは、まだ分からない。あの人はこの世界に疑問を持ってしまった。だから私達がこの世界に居る。この世界には、意味もなく存在するモノはないのだから。

蓮華 智哉はもうすぐ、選択をするでしょうね。

司書 その選択がどうであれ、私たちは見守るしかないのよ。


蓮華と司書、去る。

第三場


智哉、本を持ってやってくる。椅子に座り、本を開こうとする。が、躊躇して目の前の椅子に本を置く。


智哉 (本に向かって)彼女は、返却期限はないと言っていた。でも、ずっと持っている訳にもいかない。この本はあくまでも図書館の本であり、僕の本じゃない。さっさと読んで、返せばいい。いや、読んだって事にして返しに行けば良い。だけど、そんな嘘はすぐに見破られるだろう。ならば、さっさと読んでしまえばいい・・・・とまあ、こんなループを何日何日も繰り返している。この本と対峙している時は何故か、蓮華は僕に近付こうとしない。さっさと行動しない僕に、嫌気をさしているのかもしれない。彼女の為にも、いち早く読むべきだと思った。だけど割り切れる事ができず精神的に追い詰められ、別の本を開く事さえも億劫になった。そこで僕は思い切って、この本を返す事にした。そもそも、この本を読む義務は僕にはない。僕はただ(ハッとして)何が知りたかったんだろう。どうして僕はあの日、図書館に行ったんだろう。


智哉は本を持って立ち上がり、下手のカウンターに向かう。

図書館。司書がやってくる。


司書 どうかされましたか。

智哉 本を返しに来ました。

司書 でも、まだ読んでないじゃないですか。

智哉 借りた物は返す、当たり前の事じゃないですか。

司書 駄目です。ちゃんと読んでください。

智哉 如何して、僕にこの本を読ませようとするんです。

司書 お答え出来ません。

智哉 この本を読む義務が、僕にあるんですか。

司書 お答え出来ません。

智哉 (本をカウンターに置いて)返します。

司書 本当に、良いんですか?

智哉 何に対して、良いのか悪いなんですか。

司書 お答え出来ません。

智哉 やっぱり、君は答える気がないんだ。

司書 違う!私はただ、


智哉、去ろうとする。


司書 本屋に行かれてはどうですか。

智哉 (立ち止まって)本屋。

司書 それなら、本を返さなくてもよくなります。いつでも、本を読む事が出来ます。今すぐじゃなく、いつか読めばいい。

智哉 その義務が、僕にあるんですか。

司書 如何して分からないんですか。

智哉 貴方が僕を分かろうとしないのに、如何して僕が分かろうとしなくちゃいけない。

司書 えっ。

智哉 貴方は答えを知らないから、答える事が出来ない。それをあたかも、答えを知っている様に装う。僕は貴方のそういう所が嫌いだ。

司書 酷い。

智哉 酷いのはどっちだ。僕は理解しようとしたのに、それを払いのけたのは加奈の方じゃないか。

司書 違うわ。ただ私は、貴方の為を思って。

智哉 僕の為じゃなくて、自分自身の為だろ!だから君は、僕からロータスを取り上げた!


智哉はハッとして、後ろを振り返る。


智哉 すみません、酷い事言って。それじゃあ。


智哉、下手に向かう。司書、智哉を追いかけようとするが諦めて去る。

智哉の家。蓮華がやってくる。


蓮華 顔色が悪いわね。お茶、入れてくる。

智哉 ありがとう。


智哉、椅子に座る。蓮華、紅茶の入ったカップを持ってきて智哉に渡す。智哉はそれを受け取り、一口飲む。


蓮華 今日はもう休んだ方が良いと思う。

智哉 何があったのか、聞かないんだね。

蓮華 言ったでしょう、貴方の事は何でも知ってるって。嫌な事は、無理に表に出さなくて良い。暫く自分の中に閉じ込めておいた方が、案外時間が経つと別の視点や解決策が出てくるかもしれない。第一、今の気持ちは言葉に表せないでしょ。

智哉 本当に、蓮華はなんでもお見通しだな。

蓮華 本について悩む必要は無くなったんだし、それだけも十分気が楽になったじゃない。

智哉 そうだね。今思うと、如何して早く返しに行かなかったのかなって思う。

蓮華 あの本についてはもう忘れましょう。ここで私と生きていく、それで良いじゃない。

智哉 ああ。


蓮華、智哉からカップを受け取って去る。

暗転



第四場


智哉、中央で独白。


智哉 再び、僕は蓮華との日々に戻りました。だけど時折、司書さんとの会話を思い出す事がある。僕は確かに、猫と暮らしていた。右脇に蓮の模様があった、雌猫。名前はロータス。彼女は常に人間に寄り添う、優しい猫だった。ロータスとの生活は、何不自由ない幸せな生活だった。


舞台が明るくなると同時に、智哉は下手に向かう。

本屋。店員がやってくる。


店員 (愛想よく)いらっしゃいませ。

智哉 (ハッとして)ここは。

店員 見ての通り、本屋ですよ。

智哉 どうして本屋に。

店員 何かを求めているんじゃないんですか。人は知識を得る為に本を読むんです。


店員、幾冊かの本をカウンターの上に並べる。智哉はハッとし、カウンター上にある図書館に返却した本と同じ本を手に取る。


智哉 やっぱり、ボロボロだな。端は擦れて色が剥げてるし、表紙には幾つもの凹みや傷がある。

店員 本は表紙ではなく、中身が重要なんですよ。表紙がどれだけ綺麗だとしても、中身がちゃんとしていなければ駄目なんです。

智哉 そうかも、しれないな。

店員 (本を指さし)おすすめですよ。

智哉 読んだ事があるんですか。

店員 勿論。

智哉 面白かったですか。

店員 この手の本は、面白いか如何かじゃありませんよ。

智哉 どんな話なんですか。

店員 可笑しな事を聞きますね。この本、貴方が書いたんじゃないんですか。

智哉 (背表紙を見ながら)えっ?

店員 お値段は三千円になります。


智哉、一瞬躊躇うが店員に三千円支払う。


店員 またのご来店、お待ちしております。


智哉が下手に向かうと同時に、店員去る。智哉、中央に立って本を開く。幾人かの人が通り過ぎ、司書が下手側・店員が上手側の斜向かいに立つ。智哉は本に視線を向けたまま会話する。


司書 最近の智哉は疲れていると思うの。だから一度、専門の人に相談した方がいいと思う。

智哉 僕はどこも可笑しくない。

司書 可笑しいなんて言ってない。だけど、気持ちに整理が付いてないなって思うの。

智哉 知ったような口を聞かないで欲しいな。整理が付いてないのは僕じゃなくて、君じゃないのか。

司書 どうして私の気持ちを分かってくれないの。

智哉 君が僕を分かろうとしないのに、如何して僕が君の事を分からないといけないんだ。

店員 先日、高島加奈さんよりお話を伺いました。

智哉 愛猫が亡くなったショックで婚約者を傷付けた、最悪な男だって聞いたんですか。

店員 人生は表面だけじゃないんです、その内面が大切なんです。貴方がどう生きるのか、それが大切なんです。

智哉 それならいっそ、全てが本に記された世界だったら良かった。ページを戻したり飛ばしたりできれば、傷つかないままでいられたのに。傷つけなくて、良かったのに。


蓮華がやってくる。蓮華が智哉の持っている本を払いのけると同時に、司書と店員去る。智哉、ハッとして本を拾う。


蓮華 読まないんじゃなかったの。

智哉 そのつもりだった。だけど、ようやく彼女が言っていた意味が分かったんだ。僕はこの本を読まなくちゃいけない。本当はこの本がどんな本か、最初から知っていた。でも、怖くて向き合おうとしなかった。

蓮華 それがどういう事か、分かっているの?

智哉 この本には、僕の探している答えが全て載っていたんだ。

蓮華 (怯えながら)駄目、それ以上は言わないで!

智哉 この世界は僕が作り上げた世界。この本の世界だったんだ。


暗転



第五場


智哉、中央で独白。


智哉 まだ全てを思い出した訳ではないが、如何して自分がこの世界に居るのかは思い出した。そして、本当は誰と一緒に暮らしていたのかも。僕は確かにロータスと暮らしていた。しかし同居をする事になった人が極度の猫アレルギーで、薬を処方をしても駄目だった。彼女は僕がロータスを大切にしている事を知っていたから、婚約自体を考え直そうと言い出した。でも、避けられない出来事が起きてしまった。彼女の中に、新しい命が宿ったのだ。だから仕方なく、という訳じゃない。その事がなくても、僕はロータスではなく彼女を選んでいたと思う。でも互いに気持ちの整理がつかなくて、心がちぐはぐになってしまった。


舞台、明るくなる。


智哉 確かに、僕は君と暮らしていた。でも、今は一緒に暮らしていない。君はロータスだね。君が本に近付かない理由がようやく分かった。

蓮華 その本はこの世界を構築している智哉の思念の塊であると同時に、人生でもあるの。死者は生ある物に触れない。さっきみたいに本を払うのが精いっぱい。

智哉 如何してこの世界に?

蓮華 詳しくは私も分からない。気付いたらこの部屋に居た。すぐにここが、貴方の世界だって分かった。でも、この家にあの女は居なかった。だから、私があの女になろうと思った。私ならあの女みたいに、貴方を苦しませる事はないってずっと思っていた。

智哉 いつ、亡くなったんだ。

蓮華 覚えてないのね。安心して。私は寿命を全うしてから、この世界に来たの。

智哉 それを聞いて安心したよ。

蓮華 でももう、お別れね。

智哉 どうして。

蓮華 貴方は選択してしまったのよ。

智哉 いつ、何の選択をしたんだ。

蓮華 本を開いた時点で、貴方は前に進む事を決めたの。それがどういう事か、貴方が一番知っているはず。

智哉 でも、向こうの世界には何もない。君も居ない。

蓮華 本当にそう思っていたら、この世界にあの人は存在しないはずよ。あの人がこの世界に居るって事は、智哉があの人に逢いたいって思っているからよ。

智哉 僕らは上手くやっていけると思うかい。

蓮華 それは分からない。でも貴方がこの世界に居る間も、あの人はずっと貴方の傍に居た。

智哉 君が新しい命となってくれたらいいな。

蓮華 もしそうなれば、やっとあの人にも愛してもらえるわ。正直気にくわないけど、貴方にとって大切な人だから。

智哉 ありがとう、ロータス。


智哉、蓮華の頭をなでる。暗転すると同時に蓮華は去り、背後に司書が立つ。

舞台、明るくなる。


司書 貴方は今、現実世界で生死を彷徨っている。ロータスや私との事があって、心が疲れてしまった。日に日に痩せて言って、目も当てられなかった。

智哉 だから僕は、この世界に逃げ込んだ。

司書 この世界は今、生死の狭間にある。だから魂だけの存在になったロータスはこの世界に来る事が出来た。人の姿として出てきたのはロータス自身が望んだ事でもあり、貴方が望んだ事でもあった。

智哉 ロータスが人間なら、君はアレルギーを起こさないからね。僕はただの動物としてではなく、一つの命としてロータスを愛していた。多分その気持ちが、ロータスをこの世界に呼んだのだと思う。悪かった、ずっと君の事から目を背けていて。

司書 本当に目を背けていたら、私はここに居ないわ。貴方は最初から、私に、自分の事に向き合う覚悟は出来ていたの。

智哉 僕が目覚めても、傍に居てくれるかい。

司書 勿論。

智哉 子供が生まれたら、名前は蓮華にしよう。

司書 まだ女の子って決まった訳じゃないのよ。

智哉 (笑顔で)きっと大丈夫。

司書 (笑顔で)そうね。


舞台正面が開き、光が差し込んでくる。智哉、光に向かって歩き出す。


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