エダ Ⅱ
終わりませんでした……。
そして何故か冒頭が消えているのに気付きました。内容を忘れてしまいましたが、修正を試みます。(勘違いでした! しかし修正してしまっていました!)
繋がっていない時にお読みになられた方がいらっしゃいましたら、本当に本当に申し訳ございません。(二重におかしなことになって本当にすみませんすみませんすみません)
こんにちは。復讐に燃える女、エダ・クロサキです。
ケーキを食べた後『元婚約者達をフォークで血が滲むまでツンツン(あっ)ブスーしてみよう大作戦』について検討しました。
実行するのに問題だったのは、いくらフォークといえど刺したら傷害だという事と、私の評判に関わるという事。
全員は無理でもせめて誰かに一矢は報いたい。
考えた結果、対象を一人に絞る事にしました。
ちょっと大きな商会の長男で、長く一緒にいすぎて中々結婚に漕ぎ着けない幼馴染に対する完全なる当て馬にされたというかなり腹の立った一件。
最初から私の経歴に傷をつけるつもりだったのです。通常より傷が多いからといって、ワザと増やしていいものではありません。
踏み台はより沈んだというのに、自分達だけ上に上がろうとするその醜い性根。赦すまじぃぃぃ。
「さあ、手をお出しになって」
にこやかに元婚約者のグリーンさんを促します。
候補者の選定を速やかに終えた私は、その日のうちに会う約束を取り付けました。
立場的には私の方が上ですし、向こうにも弱みがあるので返事も早くて結構な事です。いつでも良いというので、翌日の訪問です。
ご夫婦で出迎えてくれたけど、若干顔色が悪かった。今もだけど。
向かいのソファーに座る二人は戸惑っているようで、なかなか手を出しません。
面倒ですね。
「先程も申し上げましたけれど、本当に少しのことなんですのよ」
「でもワザワザ傷を付けるなんて……」
グリーン夫人のピースさんが口を出してきました。
まあ、そうなりますよね。
「グリーンさん。貴方、私を当て馬にしましたよね」
彼がギクリと肩を震わせます。
「別にまあ構いませんのよ? 奥様との絆を深める切っ掛けが欲しかったんですよね」
ここでピースさんが嬉しそうに頬を染めて旦那さんを見るのが、また腹立ちますね!
「でも、婚約までする必要がありまして? ピースさんが『ワザワザ傷を』とおっしゃいましたけど、正に私の経歴にワザワザ傷を付けられたのですわ」
二人とも俯いて目を逸らします。
おーおー。そうよ。そうやって気まずそうにしてりゃいいのよ。
「でもね。それももう数年も前の話です」
「! そ、そうですよね!」
グリーンさんがパッと顔を上げます。
「数年も前から、私に余計なケチが付いた状態だった訳です」
そっとピースさんが旦那さんの手を握ります。あーもーっちょっとチクっとするだけなのに! 私、悪者ですか!? 確かにそうですね!
だんだん面倒になってきました。
もういいかなと思わなくもないですが、ここで引き下がっては『頭のおかしい女が来た』だけで終わってしまいます。
……致命的じゃないですか!
いやいや、抑え込めると思ってこの男を選んだのでした。焦りました。
ここまで心労をかけさせられたのです。やり遂げなくては。
責任転嫁であっても!
「当家と親交の深い占術師のインゲンさんによると、グリーンさんが切っ掛けで、更なる悪縁が続いてしまったようなのよ。そこでこのアイテムの出番。少しは痛むでしょうけど、このフォークで縁切り出来るというのよ! 貴方も過去の女である私との因縁を、スッパリと切っておくべきなのではなくて?」
勿論嘘です。
お世話になっている占術師のインゲンさんは実在しております。主に失せ物探しをされる方で、かなりの確率で手がかりをくださる、有能な人物です。
もしかしたら縁切りくらい出来るかもしれませんが、こんな相手に不信感を与えるようなマネしないと断言出来ます。
有名なインゲンさんの名前を出した事で、相手の警戒心を緩める事が出来たようです。何とか説得に成功し、無事に「えいっ」っと手の甲に突き立てる事が出来ました。全く肝っ玉の小さい男でした。
「それでは、もう2度とお会いすることもないでしょう。御機嫌よう」
私の『過去の女』発言からはっきりと不機嫌になった奥様と彼がどんな会話をするのか楽しみにしつつ、いとまを告げます。婚約していたというだけの関係なんですけどね。
グリーンさんが手当てされた甲を摩りながら、挨拶を返して来ます。
ーーーーえ?
思わずガン見してしまいました。
彼が視線に気づき、手を止めます。
気を取り直して最後の別れを済ますと、また……。
二人から見えない位置まで下がると、私の歩みはどんどんと早くなっていきました。
何で揉み手をするのーーーーー?!!
何かに追われるように、息が切れるまで走りました。直ぐに息切れしたので、最初の曲がり角までです。
少しでもあの家から離れたかったのです。近くに住んでいたので、散歩がてらに歩いて行ったのですが、馬車を使えば良かった……!
早鐘を打つ胸を抑え、呼吸が整うのを待ちます。
あれって、アレが脚を擦り合わせている姿に似てた……! まさか、まさかマサカあの白昼夢みたいなのは現実だったのっ?!
深く深呼吸をして少しずづ収まってくる鼓動を聴きながら、気分を落ち着けようと試みます。
……気のせいだったのかも。いえいえ、そんな筈はありません。それまで揉み手をするところは見たことがありません。揉んでいると言うよりは、擦り合わせているような感じでしたし。
単に新たな癖が私の目の前で発症した?
希望的観測も過ぎるというものです。
あの化け物が実在したとしてーーーー私、人を刺した?! アハハつい先程も刺しましたね!
もしかして捕まる?!
しかし、あの可笑しな場所は、どう考えてもこの国ではありません。
妙に体も軽くふわふわしてましたし、空気の感じから違っていたと思います。視界がハッキリし過ぎていて、それでいて上手く認識出来ないような、現実味の薄い不思議な感じでした。
それで夢かと思っていたのですが、
……おや? 何も問題ない、かも?
そんな事件は聞いた事がありません。
あれは、そう神隠し。
周りの人達も、王子らしき人の皮が弾けて驚いていましたし、あれは化け物の正体を暴く神意の表れだったのではないでしょうか。
グリーンさんは弾けなかったし、彼がちょーーっと気になるくらい手を擦っても、血行が良くなるくらいの影響しか無いのでは。
うん。忘れよう。
気分の浮上した私は、帰宅後本日もメイドに美味しいケーキ……は、何となく止めにして、クリームたっぷりのスコーンを用意してもらい、普段通りの1日を過ごし就寝するのでした。
眠りに落ちる前に、ふと街中で全力疾走をしたことを思い出してしまいました。
『行き遅れ令嬢、白昼の奇行』………。
鈍足の私です。庶民の方から見れば、早歩きくらいにしか見えなかった事でしょう。きっとそうです。きっとそう。きっと……。
寝起きの気分は最悪です。
夢に見る。ヘラヘラした王子を私が手に掛けるシーンを。王子の死体から次々に虫が産まれて行くのを。それらが全て私に向かってくるのを。
現実であった可能性に気付いたあの日から、毎晩悪夢を見ます。
グリーンさんもすっかり揉み手が知れ渡り、取り引き先からの信用を落としたそうです。真面目な顔でやられると胡散臭さ倍増だそうで、ちょっとザマミロと思ってしまいました。
とはいえ、ほんの少し意趣返しがしたかっただけなので、気の毒にも思います。まあ私にはどうする事も出来ないので、あまり考えないようにしています。
それよりも自分の事です!
食欲も落ち、体重も減って来ました。
嬉しくありませんよ。適正体重から減少するのは良い事無しです。
表情も何となく暗くなり、髪も肌も艶が失われ、少しシワっぽくなりました。『実家の金』以外の唯一の取り柄が目減りしていきます。
近頃では眠るのが怖い……。
これはまずい。
考えた結果、私は神にすがる事にしました。
そして運命に出会うのです。
*****
「これで良しっと」
椅子を磨き終え、ピカピカになった教会をみて満足しながらエプロンを外します。
「ああ、綺麗になりましたね。いつもありがとうございます」
「レンズ先生!」
レンズ先生は、まだ二十代独身のイケメン牧師です。
柔らかな色合いのくるくるした赤毛で、ご本人の人柄が滲み出たような優しい雰囲氣に惹かれ、教会に通う人が増えたと、評判の人物です。老若男女誑し込む凄腕ですが、『男』まで範囲内なのはどうかと思います。
説教? うっとり聞き惚れる素晴らしい声であるとだけ申し上げておきましょう。
私はそんな彼に救われたのです。
信心深くもない私が神に救いを求め、世情に詳しいインゲンさんに良い教会はないか尋ねたところ、教えていただいたのが郊外にあるこちらの教会でした。
そう離れてもいない場所に、都合の良く我が家の別邸が。余暇を楽しむ為に使う物のうちの一つです。
結婚の予定もなくなり、暇を持て余していたので早速別邸へと移動。
次の日もやはりうなされて起きたものの、心地よい風の吹く良い天気に少し気分も上がりました。よし、歩いて行こう。
日傘を片手にてくてく進んで行くと、古くこじんまりとした石造りの建物が見えて来ます。
周囲には花が植えられ、何処と無く可愛らしさのある教会です。
近づいて行くと、何やら喧騒が聞こえてきます。何かのお祭りでしょうか。
「××××勘違い××××××! ×××××アンタなんか×××××!」
「×××××××」
「どうせアンタも×××××クセに! ××××××!!」
「×××××××」
人垣の中心で女性が言い争いをしているようでした。
気になります。
自分が悩んでいたのも忘れ、人を掻き分けて見える位置を探します。
首を伸ばして何とか見えたのは、二十歳前後の年頃の娘さん達でした。
「レンズ先生は、アンタになんか興味ないから!」
「私は常に皆さんの事を考えていますよ」
「そんな訳ないでしょ! 私の事を美しいって言ってくれたんだから!」
「ええ、労働する手は美しいものです」
「アンタこそ先生の迷惑になってるのが分かんないの?! 料理下手のアンタの差し入れなんて拷問かっての!」
「神の試練として喜んで受けていますよ」
「そういうアンタはーー」
ズレた合いの手を入れているのが牧師さんでしょう。チラチラと赤毛とサスペンダーが見えます。祭服は着ていないようです。
女の戦いはまだ続いています。
「先生! この女よりも私の方がお役に立ててますよね?! 先生の身の回りのお世話は」
「私は二人の手伝いを必要としてますよ」
「あははははは! ちょっとくらい料理が出来るからって、私の方が女の魅力が」
「素晴らしい女性達に出会えた事を感謝します!」
ん?
「奉仕の精神に溢れたお二人は、その情熱の行き場を探しているのですね! なんと尊い心延えでしょう! ええ、ええ、丁度あなた方の力を必要としている人を存じ上げておりますよ。脚の悪いクロさんと目が不自由になってきたハナさんをご紹介させてください」
まさかのレフェリーからの一撃! 断りにくい善意の攻撃を食らった二人は揃ってダウン。牧師さま、目の前に絶望に染まった顔をした小羊が二人もいますよ〜。
見物していた人達も、がっくりと肩を落とす二人を尻目に、三々五々教会へと入って行きます。
人垣が崩れ私の目に映ったのは、くたびれたシャツの袖を捲り、毛羽立ったスボンと長靴に身を包んだ赤毛の青年天使でした。
その日からです。私の夢に出てくるのが化け物からレンズ先生に変わったのは。
化け物が出てくる時も、先生が優しく説教して撃退してくれるのです。
夢ですので若干、人には言えないような登場の仕方もありますが、寝覚めも良くなり、お肌も髪もツヤツヤに。
彼の存在自体が私を救ってくれたのです。嗚呼、恋は偉大なり……!
私は目標を定めました。
長期目標としては、勿論人生を共にする事。その為にもまずは彼と食事をとる関係になりたい。
というか、彼をおかずにご飯を食べたい!
必ず実現して見せます! 頑張るぞー!