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召喚士 II

 あれから2時間。まだ術は発動し続けている。


 既に王子はテーブルと椅子を用意させ、茶を飲んでいるが、私は術を途切れさせる事も出来ないので立ちっぱなしだ。


 おかしい。通常なら長くて30分もあれば召喚出来るのに。条件が満たされず召喚されない場合は…………。


「あーーーっ!」


 思わず声を上げてしまった。

 なんだ、どうしたと大神官達に心配を掛けてしまったが、問題ない旨を伝えた。


 問題大有りだ。

 条件が合わない場合に必要な、召喚終了の術式を組み込み忘れてしまった。

 これでは必ず見つけるか、私が死ぬまで解けない。


 強制的に終了することは出来るが、それをしてしまえば2時間経っても該当者が居らず、ほぼ失敗が確定している勇者召喚そのものの責を問われる確率が高くなる。

 殿下唯一の存在意義を自らの手で奪う事になるとは。


 くそ。全ての元凶なのに! ああ、やってしまった……疲れてたんだよ!!!




 だが神は私を見捨てなかった。




 それから間も無く、祭壇に一人の美しい女性が現れたのだ。


 私は心身の疲労から膝をつくも、救世主の登場にかつてない感謝を込めて祈りを捧げた。

 隣で翻訳?術師が術を掛けるのが分かった。

 王子以外は皆優秀だ。


 とても綺麗な女性だが、妙な体勢で手にはフォークを持っていた。


 ——?


 そうか! 食事中だったんだ! 軽食の用意を手配しなくては。


 白状しよう。

 この時私は物凄く動揺していた。疲労と絶望感から、『勇者』を召喚しようとしていたのを忘れていたのだ。


 しかしバカ王子のバカ発言で目が覚める。


 はあ?! 結婚だと?!!

 更にバカはフォークを取り上げようとする。


 これが狙いか!!


 勇者の『伝説の武器』を我が物とし、覇権を狙っているのか!

 ——どう見てもただのフォークだが——。


 そこからは彼女の独壇場だった。


 どうやら女性は力のコントロールが出来ないらしく、意図した以上に王子を傷つけてしまうようだ。だがそれよりも、王子が問題だった。


 黒靄王子の外側が弾け飛んだと思ったら、そこには巨大な羽蟲がいた。

 毛が生えたような足を擦り合わせ、ヴヴヴヴヴと翅を震わせている。


 気持ち悪りぃ……!!


 なんだアレ。女性が絶叫しているが当然だろう。転移したのかと思うほどのスピードで退いてはいたが、至近距離でアレはない。

 せめて触れていない事を願う。


「魔蟲バーエ!!」


 大神官はアレのことを知っているようだった。


 悲鳴を上げながら女性は消えた。


 勇者らしき人物はいなくなったが、大神官の指揮の元、待機していた兵士達を筆頭にその場にいた者全てが一丸となって戦った。

 私も武器や神具を召喚しまくった。


 そうして魔蟲なるモノの討伐に成功したのだった。


 ホッとしたのも束の間、大神官からの情報により、再び戦いを余儀なくされる。


「皆、聞いて欲しい。バーエは病原体を撒き散らす疫蟲である。今目撃したように、生物に寄生して成長する。寄生されたものの行動は次第に単純になり、蟲の生育に注入する様になる。十分に育つと皮を脱いで飛び立ち、病と卵を降らすのだ」


 王子に取り付いていた蟲はデカかった。随分前から寄生していたのだろう。

 一体何処で…………ああ、そう言う事か!


「大神官様。殿下の様子が変わったのは王宮に伺候に上がった女性と親しくなってからです」


 すぐさま討伐隊が結成された。

 兵士は最初から剣を持っているのに色々と召喚し過ぎて、ほぼ役に立っていなかった数々の武器が活用されることになった。


 私は決して無能ではない…………ただ、判断力が落ちていただけだ。それに飛び道具はちゃんと利用されていた。


 ーーーー無駄にならずに済んで良かった。





 それから王子と親しくしていた少女・側近のうちの二人、使用人十数名が寄生されていた事がわかり駆除された。


 判断材料として血液の採取が使われた。

 術式の媒体に使われる事の多い血液の提供を求めたのだ。何の危険もなく日常的に良く行われている事だが、寄生されているものは本能的に忌避してしまうようだ。


 判別方法は兵士の試行錯誤から生まれた。

 疑いだけで人を討伐は出来ない。だが取り押さえたものの、そこからどうしたら良いか分からない。

 無為に時間だけが流れるかと思われたその時、祭祀の間で起こった出来事を見ていた者がフォークを持って来て突き立てたのだ。すると刺した所から靄が出るではないか!

 ……試行錯誤はしていなかった。むしろヤケになった思考停止の結果だった。


 いきなり突き立てては騒ぎになる。まずは細い針で試す事になり、一定の効果があると分かった為、このような手順となったのだ。


 召喚してしまった気の毒な女性のお陰でスムーズに王宮から駆逐する事が出来た。

 緊急時だ。フォークがなければ、無駄に死傷者を増やしたに違いない。

 勇者ではなく、やはり救世主と呼ぶべきであろう。


 数少ないながらも得られた証言から、少女の持ってきた差し入れを食べた者から感染していった事が判明した。


 王宮は掃除できても、まだまだ仕事は残っている。


 勇者召喚自体寝耳に水の国王そっちのけで、大神官を中心に対策本部が設けられた。陛下には事後報告の予定だ。

 私もそのメンバーに抜擢されたが、いつ家に帰れるのだろうか。妻と子が待っているはずなのだが……。


 捨てられていないことを祈りつつ、会議に参加する。

 大神官より魔蟲バーエについての詳細な説明があった。若い頃に修行で大陸を旅した際にあの蟲を知ったそうだ。


「バーエは本来ならば、せいぜい小型の動物に付くのが精一杯のはずなのだ。人間には手や体を洗う習慣もあるので、普通の生活で感染する事はまずない」

 あまりに大きければ潜伏も困難になるし、孵化(?)した後も目立つので討伐対象になりやすい。大型化するには時間もかかるだろう。


「しかし二十人近い人間に取り付いていましたよ」

「おかしいのはそれだけではないぞ。この国で生息が確認されたことはなく、また勇者に執着し、その武器……と言っていいかは分からんが、それを得ようとするのも本来なら無い行動だ」


 魔蟲自体に知性は殆ど無く、宿主の日常に沿う形で行動するそうなので確かに変だ。


「魔蟲の多くはマーメ帝国に生息している」


 マーメ帝国とは、自分の所以外の芝生は全て青々として見えるらしい大迷惑な侵略国家だ。

 大神官の言葉から、帝国による侵略戦争の可能性が出てきた。

 王都にまで拡がりつつある疫病。

 帝国による魔蟲の従魔化成功を念頭に、先ずは王都のバーエ討伐が決定した。





 出陣する兵士らの片手には、銀色のフォークが光っていた。








終わりませんでした。

次話は明るくなる予定です。

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