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「まあ!見ました!?また男性、しかも婚約者がいらっしゃる方とベタベタしてらっしゃるわ!」

「本当に!この前は身分も弁えず王子に擦り寄っていたと言うのに、次から次へとまぁ飽きませんこと!」


『ねー!!』と集まっていたご令嬢全員が一斉に相槌をうつ。

その中でタイミングを外した私はただ扇子の中で引きつった笑顔を隠していた。

確かに悪口を言われている少女も良くない所は沢山あるが、私はこうみんなで集まって悪口を言うのが好きではない。それは真面目ぶっている訳ではなく、ただきまりが悪いだけである。


「流石、平民育ちですわ。まあ、平民と言っても身を弁えた方もいらっしゃるのですから、一緒にするのは悪いですけれども。」


一人の令嬢が平民をフォローするような発言をするが、その顔は下品極まりない笑顔である。


「…そう、そういうことね。あっちの出の方なのね。なら、自ずと分かりますわ。道理で男性の扱い方が上手いこと。」


周りはその意味を理解しているのか、うんうんと首を縦に振っている。

私はその場から一刻も早く離れたくて、一歩後ろに下がった。


「タチアナ、どうかしたのかい?」


背後から声をかけられ、私は振り返った。


「リカルド様!」


そう、私の名前はタチアナ、しがない子爵令嬢である。そして声をかけてくださったリカルド様は伯爵家の嫡男であり、私の婚約者だ。


「申し訳ないが、婚約者であるタチアナをお借りしてもよろしいでしょうか?」


リカルドは胸に手を当て、紳士に挨拶をする。


「ええ。」


輪の中心にいた令嬢が許可を出すとリカルドは「失礼します。」とタチアナの手を取って歩き始めた。

通常ならば、あの殺伐とした雰囲気の中で空気が読めないと咎められるかもしれないが、私たち二人にはそれはない。

…なぜなら、私たちはモブだから。

眼力の無い瞳と低い鼻、濃淡は違うが髪と瞳は目立たない茶色だ。

例え一人でいたとしても、風景に溶けてしまうような存在感のなさは、人混みの中に居るとより一層発揮される。

だから嫉妬もされず、羨ましくも思われない。

リカルド様はともかく私はその辺の石ころのような存在として生きてきて、それはそれで幸せだと思えるのは一重にリカルド様のおかげである。

私には前世の記憶があった。

この世界をゲームとし、あの悪口の主である少女としてプレイしていた人間だ。

最初、この世界がゲームであり、同時に自分がモブであることに気づき残念にも思ったが、リカルド様に出会って全てが変わった。

優しく紳士的に接してくれたリカルド様に私、タチアナはすぐに恋に落ち、それ以来リカルド様は私にとって唯一無二の王子様なのだ。

それにヒロインでも悪役令嬢や親友役でも無いこと、それが幸せなことだとここ最近切に思うようになった。


「…よく我慢したね。」


リカルド様が私の頭を子どものように撫でる。

リカルド様は私が悪口が嫌いで無理をしているのに気づいていてくれたのだ。


「…リカルド様が助けてくださったので大丈夫です。」


子供扱いは嫌だけれど、リカルド様に頭を撫でられるのは嫌いでは無い。

私は頰が少し熱を持つのが分かった。


「あの方は私の家と取り引きがあるけれども、合わないなら無理して付き合う必要はないよ。」

「…!気づいておいでだったのですね。」


リカルド様の為に何かしたくて仲良くしていたのだが、これで心配させてしまったのなら、元も子もない。

私は肩を落として、目を伏せた。


「最近騒がしいからね。もし嫌じゃないのなら、しばらく一緒に過ごしませんか?」


そんな私を元気付けるかのように、リカルド様は嬉しい提案をしてくれる。

願っても無いことに、私の耳が熱くなっていく。

今、きっと顔真っ赤になってる!

リカルド様は私といてもいつも平常心なのに、私はいつも嬉しくて愛しい気持ちを隠せない。


「…お食事は私がご用意しますわ。」


リカルド様と一緒だなんて!どうしましょう!昼食はリカルド様の好きな物にしましょう!あとお菓子とお茶も準備しなきゃ!

自身の失敗に落ち込んでいたというのに、すぐに浮かれてしまう自分を恥ずかしく思いながらも、胸の奥底から湧き上がる喜びに抗えない。

好き…出会ってからずっと…そしてもっと…

私はリカルド様のことを好きになっていってる。



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