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町案内

 俺はラキアと共に城の外へと出ていた。既に城の中の案内は終わったのだが、これからここで生活することを考えたら、やはり城の外についても詳しくないといけない。


 城の外は、魔王軍が占領している土地が広がっている。魔界と呼ばれているらしいそこは、空が禍々しく淀んでいることを除けば、意外と普通の街という感じだった。


 石や黒いレンガのような建材でできた家々が立ち並び、その基盤となる地面は黒と紫のレンガでできている。魔界の人々はドクロが好きなのだろうか、時に玄関に、時には家の門にドクロの飾り付けが成されていた。


 ラキアは「わったしーの仕事♪ わったしーの仕事♪」と元気ハツラツに俺の前を歩いている。


「あ! おい人間、この店はいい店だぞ!」

「あ? ……肉屋か、ここ?」

「うん! ここの揚げ物は上等なんだ! 絶対気に入るから、是非食べてみてよ!」


 ラキアはそう言って、肉の絵が描かれている看板が掲げられた店へと入っていく。

 中の作りは意外と普通だった。木の板で作られた床、黒い石の壁、肉を並べたショーケース。この世界には冷蔵保存の技術があるのかと商品を見ていると、突然豚の怪物(人型)が俺に話しかけてきた。


「何にするんだい?」


 その声は暴力的だった。俺は身震いして「は!? いや、その……」と口ごもると、ラキアが「ポルクの揚げ物をくれ! 2つ!」と割って入った。


「……あいよ」


 そう言って、豚の怪物は俺たちにポルクとか言う生物の揚げ物をくれた。ラキアがお代を出す。俺はこの世界の通貨を持っていないから仕方ないのだが、明らかに自分より年下の奴に奢ってもらったこの状況に不満を隠しきれなかった。


 いやいやいや、無い無い。いくら魔王の娘で金持ちで自分は無一文だからって、奢って貰うなんてそんなこと。俺は恥ずかしさで頭を掻きながら、片手に持った揚げ物を食べようか迷っていた。


「どしたの、人間? 食べないの?」

「あのな、年下の女の子に飯おごってもらいましたなんてすっげぇ恥ずかしい事なんだぞ? お前それわかってる?」

「ふっふっふ! 私の方が存在が上なのだから当然だな! いやぁ、人間を見下すこの感じ、たまんないなぁ」


 こいつ、想像以上にむかつくな。一瞬怒ってやろうかと思ったが、後が(主にこいつの父親が)面倒そうなのでやめた。


「……ったく。いいか、これは奢りじゃねーぞ? 絶対後で返すからな」

「むぅ、生意気! ラキアポイントマイナス5点!」

「……なあ、ラキアポイントってなんだ?」

「私の好感度だよ。100点でケーキ一個と交換できる」


 今がマイナス7だから、道のりは遠いな。俺はこいつの面倒くささにため息をついた。


「ああ! ため息ついた、ため息ついた! こいつメンドクセーって今思ったでしょ!」

「はいはい、思ってない思ってない」

「ムッキー!」


 ラキアはそう叫ぶと俺の脛を蹴りつけた。


「いってぇなお前!」

「うっさい! あんたが悪いんだろバーカ!」


 こいつ、ますますムカつくな。魔王の娘じゃなかったらシバいてる所なのに。俺は歯ぎしりをしながらラキアへの怒りを飲み込んだ。


 そして俺たちは、買ったポルクとか言う動物の揚げ物を食べながら店を出た。先に食い終わったラキアが、物欲しそうに俺の手にあるポルクの揚げ物を見つめてくる。


「おい、人間。この高貴にして偉大なラキア様に、揚げ物をひと口でいいから献上しようと思ってもいいのだぞ?」

「高貴にして偉大なラキア様は人に物をたからないのですよっと。いっただっきまーす」


 俺はそう言ってポルクの揚げ物にかぶりついた。ラキアが「ああー! 揚げ物がー!」とショックを受ける。ふはははは、今まで偉そうにしていた奴を屈服させるこの快感はなかなかだなぁ!


「あら、あらあらあら〜? ラキアさんじゃないですの〜?」


 と、2人仲悪く小競り合いをしていた俺たちの前に、青髪ツインテールの女の子が現れた。耳が尖ってるが、腕や足に鱗のようなものが生えているのを見ると、エルフではなく魚類系の魔族だとわかる。


「な、エリーナ! 私に何か用なの!?」

「いえいえいえー。お父様と共にお買い物へ来てみたところ、ラキアさんが随分と面白そうなことをしているとお思いましてね。まさか魔王の娘ともあろうものが、下等な人間などと共に歩いているとは。やはり低俗な者には低俗なお供が似合うのですわね!」

「んなっ! この人間はともかく、私が低俗だと!? 訂正しろ! ていせい!」

「あらあら、わたくし言葉を間違えたかしら? でもおかしいわね、推敲してもおかしな所なんて見当たりませんわ!」


 なんでこう、魔族ってムカつくやつが多いんだよ。このエリーナとかいうガキ、よくもまあ自然と悪口が浮かぶものだな。ラキアもなかなかのものだが。


 クソ、バカにされたって思うと腹が立つな。説教してやる。


「おいおいお嬢ちゃん。初対面の人に向かって低俗だなんてそりゃないんじゃないのか? 俺じゃなかったら完全にブチ切れてたぞ」

「黙りなさいですわ、下等で意地汚いゴミムシ以下の人間」

「てんめ、それが良くねぇってんだよ! なんで会ったばかりの奴に舐めた態度取れるんだよ社会でたら死ぬぞてめぇこら!」

「あらあら、初対面の相手をガキだと思って強く勇んで敬語さえ忘れるあなたよりかは幾分マシですわ。自覚していない分なおさらにタチが悪い」


 ……やべぇ、グウの音もでねぇ。俺は歯ぎしりをしながらエリーナを睨んだ。精一杯の抵抗だ、喰らえ俺の視線!


「あらあら、言い返せなくなった途端に目で反抗とは、これは生物としての底が見えましたわ。脳のないスライムの方がまだ良い思考をしてくれそうですってよ?」

「ぐっ……やることなすこと全てが逆効果じゃねーか。クソ! 俺はもうふてくされる!」

「最高におバカさんですわね」


 なんとでも言え、俺はもう知らん。


 と、遠くから「エリーナ」と静かな声が聞こえた。エリーナはそれを聞いた途端に、「はいですわ、お父様!」と、声のした方向へ走り出した。


 こんなクソガキを育てるたァどんか父親だ。俺はそのツラを一目見てみることにした。


 エリーナの父親は、少し癖のある白髪をした、体の一部に鱗の見られる魔族だった。細く若干釣り上がった目、その一方でどこか儚そうなその視線。青いローブは、彼が魔導師かなにかだということを指し示す証拠の気がして、その雰囲気からかなり高い地位なのだろうと判断できた。


 魔導師は俺の方をじっと見つめた。


 あの目は、何度も見たことがある。人を見下し、心の中で相手をバカにしている、悪意と呆れのこもった視線。


 ――親子揃ってムカつく奴だ。俺は小さく舌打ちをした。


「ったく。ラキア、行くぞ。あんなんに構わず、この辺の案内を続けてくれ」


 俺が呼びかけても、ラキアは反応を示さなかった。代わりに、なにやら独り言を呟いて。


「私は――下等なんかじゃない」


 俺はその悔しそうな表情に、動きを止めてしまった。

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