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12/20

親子

 翌日の夕方、俺とラキアは共鳴やマナの量を増やす修行をしていた。


 武闘大会まであと4日。修行ができる期間は、実質3日と言ったところか。


 俺はラキアを信じるとは言ったが、正直今は不安の方が強かった。ラキアは本当に共鳴のコツがわからないようで、未だ共鳴結合の限界点は3つまでだった。


 クソ、やっぱり俺には何も出来ないか。マナの放散で体力をすり減らしている俺は、苦々しく顔を歪めた。


 どうすればいい? どうすればいい? 俺が頭を抱えると、直後、空気を震わす声が聞こえた。


「何をやっている、ラキア、カツヒト――?」


 この声は、魔王だ。俺とラキアは声のした方向に顔を向けると、魔王が木の影からじっとこちらを見つめていた。いや、なんで毎回ひっそりしてるんだよ。


「く、クソジジイ! なんだよ、私のことを邪魔しに来たのか?」

「そんなつもりは毛頭ないのだが……」

「じゃあなんだよ! 何もしてくれないんでしょ!? だったら帰れよ! 私は今忙しいの!」


 ラキアが怒りをあらわにしている。反抗期という奴なのだろうか、しかし、その声には何か強い想いが隠れていた。俺は、2人から離れ、その行く末を見守ることにした。


「――ラキア」

「なんだよ?」

「なんというか……少し、長くなるが話を聞いてくれ。

 我は、その――妻が死ぬ間際、我に言った言葉を覚えている。

 『良い父親であってほしい、ラキアをしっかりと育ててほしい』

 我は、それを、その……必ず約束を守ろうと誓ったのだ。我は、ラキア……お前が強くなることを願って、ずっと、ずっとお前を1人にさせていた」


 魔王が言う。ラキアはそれを聞いた途端、みるみるうちに顔を赤くして、目を怒らせて食いつくように叫んだ。


「なんだよ、それが一体どうしたんだよ!? それを言いにここに来たのか!?」


 ラキアは、止まらなかった。


「1人にさせていた? ふざけないでよ、そうやって私が頑張るのからずっと目をそらしてたんじゃないか! ムカつくんだよ、そんな感じのくせにいつもいつも父親面して! 私が、私がどういう気持ちでいたか――」


 ラキアがまくしたてる。傍から見たら、それは大層危険な親子喧嘩なのだろう。しかし、俺はその時、魔王がどういう行動に出るかが予想できてしまい、それが故、あいつらの行く末に絶対的な自信があった。


 と、突然。魔王は膝をつき、そして頭を深々と下げた。


「すまぬ」


 土下座だ。父親が、自分の娘に土下座をしている。魔王なら、きっとこうする――俺はその突飛な動きに驚かなかった。


 この世界にもこの文化はあるらしい。ラキアは困惑した様子で、「は?」と魔王に呟いていた。


「我が……間違っていた。

 昨日、カツヒトが我に言ったのだ。なぜ娘に手を貸さない、お前は魔王である前に父親だろうと。

 その通りだ。我が気にしていたのは、魔王としての立場であって、その実、お前の事を見ていなかった。それこそが至上の教育だと、言い訳をして――」

「は、なんだよ、ちょっと、やめろよ。顔、上げろよ。あんた、情けなくないのか? 仮にも娘にそんなことして――」

「……我はお前に謝らねばならぬ。ラキアよ、我はダメな父親だ。謝罪なぞしても、足りぬなんてことはわかっている。我を許せなどと、そんなおこがましいことは言わぬ。

 だが、ラキア――我は、お前に頼みたい」


 魔王はそう言って、やっと顔を上げ、ラキアの目を低い位置から見上げていた。


「これからは、我に物事を教えさせてほしい。お前が悩んだ時、わからないと叫んだ時、その重荷を我にも背負わせてほしい。なんと言えばいいかはわからぬが――それが、我が父親として出来る、至上の教育なのだと、今日やっと理解したのだ」


 魔王は言い終えると、しばらくの沈黙が流れた。


 ――ラキアの背中が震えている。俺は、期待通りに進んだ事態に微笑んだ。


「なん、だよ――」


 ラキアが声を上げる。


「なんだよ、それ。今更、私に構おうなんて、そんなの――」


 ラキアの声は震えていた。ラキアはゆっくりと、魔王に近寄って、あいつの前に行くと、しゃがみこんで、魔王に抱きついた。


「ずっと、ずっと待ってたんだ。お父さんが、私と向き合ってくれる日を……私と、一緒にいてくれるのを――」


 ラキアはそう言うと、大きな声で泣き出した。魔王はそんなラキアの頭を、ずっと撫でていた。


 ラキアが俺に撫でて欲しいと言っていたのは、こういうことだ。おそらく、俺のことをどこかで父親の代わりに見ていたのだろう。本当はあいつの頭を撫でるべきだったのは、他ならぬ魔王だったんだ。


 俺は笑うと、踵を返してラキアたちの元から去った。今は親子水入らず、俺が入り込む余地なんかない。ここは空気を読んで退散しておこう。


 そういえば――俺は何一つ恵まれていないと思っていたが、1つだけ、恵まれていたことがあった。


 何があっても俺を信じてくれた両親。脳のダメージが見つかった時も、受験に失敗した時も、俺に「大丈夫だ」と言って常に背中を叩いてくれた。


 やっぱり俺はクソだ。異世界にまで来なきゃ、こんな大事なことに気づかないのだから。


「帰ったら、なんかプレゼントでもしてやるか。いや、その前に就職だな」


 俺は空を見上げて笑う。魔界の空は禍々しかったが、それでも俺は気分が良かった。

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