第3話その3
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オレスト~俺の戦略はこんなに素晴らしいのにどうして誰もわかってくれないんだ~
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内閣府認証NPOランチェスター協会認定インストラクターから題材提供&ストーリー監修
教育×ライトノベル×経営戦略?×地域活性化??
前代未聞!!アントレプレナーシップを育成するライトノベル登場!
HPでは、ストーリーやキャラ紹介をイラスト付きで掲載しています。
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本編で出てリュウが使う戦略の解説がのってます。マリエと楽しく学びましょう!
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そちらも併せてオレストを宜しくお願いします!
第3話その3
週が明け、部活勧誘の期限となった水曜日の放課後、クレハは書類に目を通して満足げに笑った。
「文化部の最底辺がキレイに片付いたな」
そう言って彼女が見下ろす先には、五人分の入部届と、科学部と折り紙部の合併申請書が並べられていた。
合併申請書を裏返すと、活動内容を記載する欄には几帳面な字でこう記されている。
『折り紙部と科学部が合併した図形科学部は、折り紙を用いた脳トレと集中力向上による学習支援に加え、
科学部が用いてきた大規模な装置と本格的な素材を活用した剛体折り紙や等身大折り紙の作成にも挑戦。
科学、図形への関心を高めることで理系科目への意欲向上を図る―』
よく考えたもんだと感心するクレハとは反対に、コウタは唇を噛んだ。
「・・どっちもつぶれればよかったのに」
「いやぁん、コウタくんかっこいい~~アンナ惚れ直しちゃう!」
コウタの左隣から突如黄色い声が上がり、そのまま彼の腕には女子生徒が抱き着く。
避け損ねたコウタは肩をこわばらせ、助けてくれとクレハに目線を送った。
(部外者は立ち入り禁止って、会長からもお願いします)
声を抑えながらも必死に訴えるコウタを、クレハは不思議そうに見やる。
(なんだ?春までは会計を務めてくれていた同志ではないか)
「内緒話ですかぁ?クレハ先輩でも許しませんよぉ?」
ぷんぷん、と手ぶりも交えて声に出して怒るのは、先の年度替わりまで生徒会の会計を務めていた高校二年生・蛇神アンナである。
(同志って・・春までは、です。今は乾くんが)
そう言ってコウタが示す先では、アンナの後任として春から会計を務める一年生・乾アツシが無言でキーボードを弾いている。
任期中に、しかも入学したての一年生に役員が入れ替わるというのは決して望ましい事ではないものの、毎日この調子で絡んでくるアンナの代わりに無口で仕事が早い後輩が入ってくれて、コウタも内心ほっとしていたのだが・・。
(女のもめごとなら乾の兄にでも相談しろ)
会話の内容を察したアツシが、コウタに向かってこくりと頷く。
「コウタくん?」
クレハとコウタの間に割り込み、アンナが上目遣いでコウタに迫る。
「今回の合併もぉ例の戦略部が関わってるんですって」
だから何だと言わんばかりにコウタの顔が引きつる。
見かねたクレハが代わりに微笑み、口を開いた。
「また『独自の情報網』か?」
「そうなんですぅ!アンナちゃんえらいでしょ?」
小首をかしげるアンナに偉いぞと返すクレハを、コウタは恨めし気に見やる。
(あなたは女子に甘すぎです・・)
「コウタ」
突然の呼びかけに、まさか思っていたことが口に出たかとコウタは手を口にやる。
「戦略部を名乗る生徒、お前と同学年だろう?」
合併の書類に認可のサインを入れ、コウタに差し出す。
クレハの顔から笑みが消える。
「奴から目を離すな。わかったな?」
書類を受け取り、コウタは無言で頷いた。
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「『両部まさかの合併!パクリ問題はどこへ?』だって」
号外を広げてタツノリが呼びかけると、ソファーに寝ころんだリュウが得意げに鼻を鳴らした。
「合併なんて、よく思いつきましたわね」
「まあ、部員の取り合いと廃部勧告の事も考えれば、合併が一番効果的なんだよな」
ホワイトボードに消されずに残された状況整理の表の右下をトントンと指で叩く。
「廃部寸前!」の文字の上をリュウの指が行き来する。
「部員の取り合いも、この欄に入るんだけどさ。
合併すれば取り合う必要もなくてまるっと解決だろ?
お互い目指してるところは一緒なわけだし、本人たちの話し合いもすんなり進んだよ」
でもやっぱりあれはパクリだよな、と不満げなリュウの隣でマリエはホワイトボードを眺める。
(それでも合併なんて、普通思いつきませんわ)
リュウの口から合併の話を聞いた時、そんな解決方法が許されるのかと思ってしまった。
縄跳び部の新歓のためにジャック放送を行った時も、戦略部の予算のために折り紙部をつぶそうと言った時もそうだ。
この金城土リュウという高校生は、目的のために必要なことであれば、普通じゃない手でも何でも使ってやり遂げてしまう人物なのかもしれない。
(ただの馬鹿かと思っていましたけど)
そんな失礼極まりない感想を抱かれているなどとは露知らず、何を思いついたのか、そうそう、とソファーから体を起こした。
「なんつーか、ちょっとした提案なんだけどさ」
珍しく自信なさげに言葉を濁したリュウに、二人はどうしたと目で先を促す。
「この感じで部活合併していったら、俺らに予算出せるくらいにはお金が浮くんじゃないかな~とか」
なんちゃって~とリュウは冗談めかして二人を伺う。
「リュウ・・」
「それは・・」
マリエは目を見開いて叫んだ。
「天才的ですわ!!」
また外道と言われるのではと身構えていたリュウは、一拍遅れてそうだろ!と胸を張る。
「相変わらずその辺りの悪知恵が働くよね」
「悪知恵じゃねぇし!」
冗談だよと笑うタツノリを軽く睨み付けてから、リュウはよし、とソファーからたちあがった。
「そう言うわけだから、オレはいい感じに廃部に怯えてる部活探してくるわ」
幽霊部員はいねが~と放送部幽霊部員が放送室を後にする。
矛盾していますわ、とマリエが小さく呟くのを見下ろし、タツノリは口を開く。
「随分と積極的なんだね」
含みのある言い方に、マリエはタツノリを見ずに返す。
「当然ですわ」
リュウとマリエの取引は「戦略部への入部」と引き換えに「タイガになんでも聞いてもらう権利」を譲る、というものだ。
戦略部ができなければそもそも成立しない、と言うのがマリエの考えだ。
「・・鷹座さんって律儀だよね」
「なにかおかしくって?」
「いや?でも、そんなに飛澤君に聞いてほしいお願いでもあるのかなって」
「っ!」
真っ赤になったマリエをタツノリは横目で見下ろす。
(やっぱりそう言うことか)
こんなにわかりやすいのになぜあの堅物縄跳び男は気づかないのか、と不思議に思っていると、マリエは咳ばらいを一つしてタツノリに話を向けた。
「あ、あなたこそ、随分協力的ですのね」
ツンと鼻をそっぽに向けて、マリエは目だけでタツノリを見上げる。
「戦略部には名前を貸しているだけなのでしょう?」
その言葉にああ、と笑うと、タツノリは目を細めた。
「だって、君たちが早く部活になって部室支給してもらわないと、いつまでたっても僕の城が君たちのたまり場になっちゃうでしょ?」
細められた目の奥の瞳が、笑わずにマリエを見下ろす。
「平穏な放送室が恋しいってだけ」
「・・・・私も統合できる部活を探して参りますわ」
逃げるように放送室を出ていくマリエをタツノリは笑顔で見送る。
「積極的でなにより」
やっとゆっくり読書ができる、と晴れ晴れした表情でタツノリはソファーに腰掛けた。
つづく