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第1.5話

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

オレスト~俺の戦略はこんなに素晴らしいのにどうして誰もわかってくれないんだ~

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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第1.5話「放送室はたまり場になる」


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


戦略部を作るとのリュウの宣言から数日後。

部活新設のために必要な書類を書くと言うリュウに連れられてマリエがたどり着いたのは、校舎の四階。

家庭科準備室などの倉庫同然の部屋と並んで配置された、人気のない放送室だった。


「・・私、放送部になるつもりはありませんでしてよ?」

「そういう意味じゃねえよ。

戦略部の部室がもらえるまでの仮部室ってことで」


誰もいないのをいいことにソファーに寝ころんだリュウを見下ろし、マリエは不安げである。


「ソファーもあるし、超快適だろ?」

「快適って・・そんな勝手に使っていいものですの?」

「まあ、オレも一応放送部員だし。

普段ここ使ってるのなんて、オレともう一人くらいだから大丈夫だろ」

(放送部なのに放送は下手なんですわね・・)


憐れむ目で見下ろすマリエには気づかず、さて、と体を起こしてリュウは書類作成を始める。

ソファーの向かいに手ごろな丸椅子を見つけ、マリエは腰掛けてリュウの手元を覗き込んだ。

ボールペンを握ったリュウの手が書類のおもて面、構成部員の欄を手早く埋めていく。

部長はリュウ、副部長はマリエ。そして、部活として認められるために最低限必要な三人目の部員として、見慣れない名前が書きこまれる。


「サカエ・・ケイエイ?」


リュウの手が退いた後に残された『栄経営』の文字にマリエは思わず声に出して名前を読み上げた。


「何と言いますか・・・おめでたいお名前ですわね」


失礼とはわかりつつも思わずそう零したマリエの視界の端で、リュウの肩が小刻みに揺れる。

笑われるようなことを言っただろうかと眉をよせてから、まさか、と嫌な予感にマリエはリュウに詰め寄った。


「あなた、まさか部員が足りないから適当な名前を考えたんではありませんわよね?!」

「・・くくく」

「笑いごとではありませんわよ?!

だいたい、それならもっとそれっぽい名前を」

「は~?じゃあお前もなんか考えてみろよ~?」


にやけた顔のままのリュウに煽られ、マリエの眉が更に吊り上がる。


「ば、馬鹿にしてますわね・・・!

西園寺・ボヘミアン・みつ子!これでいかがですの?!」

「・・・・・・・・・・・・へ?」

「ですから、西園寺・ボヘミ」

「いやいやいやいや!

栄ケイエイのがましだわ」

「な・・そんなわけありませんわ!」

「・・二人ともさ」


リュウのものとは違う、どこかで聞いたことのある落ち着いた声が呆れたと零す。

マリエは放送室の入り口を振り返った。


「人の名前で遊ばないでくれる?」

「よう、ケイエイくん。ご機嫌うるわしゅう」

「怒るよ?」


穏やかな笑顔のまますごむ長身の男子生徒を見上げ、マリエはああ、と聞き覚えの正体に思い至った。

毎日耳にしている、昼の放送を読み上げる、あの落ち着いた低い声の主である。


「栄タツノリ。オレの幼なじみで、部員第三号」

「ちょっと、僕は名前貸すだけだよ?」


入り口の横に積み上げられた丸椅子を一つ引き寄せ、タツノリは腰を降ろしながらリュウの発言を訂正する。

そのまま長い足を組み、タツノリはマリエに向かって微笑みかけた。


「よろしく、鷹座さん」


***************************


書類の裏面、活動内容詳細の欄にシャープペンシルで下書きを書きながら、リュウはマリエにタツノリとの思い出を話し始めた。


「今もそうだけど、家が走って十秒くらいのとこでさ。

幼稚園も一緒だったんだよ」

「幼稚園とか、懐かしいなあ・・ってリュウそこ漢字違う」

「え、あ、ほんとだ」

「うちは親が共働きだから、よくリュウの家でお世話になったんだよね」

「そうそう。

幼稚園の後も、こいつは常新の初等部入って、オレは普通の公立小学校行ったんだけど。

そんなんだから小学校の間はわりとお互い家に行ったりなんだりかんだり?」

「中学入ってからは流石になくなったよね」


思い出話に花を咲かせる二人を尻目に、マリエは放送室からは見えない校庭に思いを馳せる。

彼女としては無駄話はやめてさっさと書類を仕上げて、部活中のタイガの元へ行きたいのだ。

二人が別々の小学校だろうが何だろうが関係ない。


(・・ん?常進の初等部に入って・・?)

「ま、オレにとっちゃ手のかかる弟が一人できたってとこかな」

「え?ちょっと待って、リュウがお兄ちゃんなの?」

「そりゃ、オレのほうがだいぶ誕生日早いし」

「そう言う問題?」

「ち、ちょっと待ってくださいまし」


勝手に先へと進む話を止め、マリエは椅子から立ち上がってタツノリの真正面に回り込む。


「あなた、初等部からずっとこの学園に通っていまして?」

「そ、そうだけど?」


思わぬ食いつきに戸惑ったタツノリはリュウに視線を送るが、リュウも首を振ってわからないと返す。

そんな二人のやり取りなど目に入らない様子で、マリエは高鳴る動悸を抑えるために胸に手を当てた。


タイガは中等部から常新学園に通っている。

つまりこの栄タツノリはタイガと共に中学生生活を送っているのだ。

タイガのあんな話やこんな話を知っている(かもしれない)人物と、マリエはこれから同じ部活に所属する、ということは、うまく取り入れば、タイガの好みや知られざる一面を聞き出せる、いや、それだけではなく、夢にまで見た「お付き合い」の仲人になってくれるかもしれない可能性だってゼロではないのだ。

仮にそこまでは言い過ぎだとしても、彼の家にはあの伝家の宝刀、卒業アルバムが潜んでいるはずである。

こうなれば、何としてでも彼の家に潜入する必要がある。

リュウを連れていけば、何も言わずとも「タツノリの卒アル写真みたい」などと言って勝手に見つけてくれるかもしれない。そうすれば・・


(タイガ様の隣で、タイガ様の卒業アルバムを見ながら、タイガ様の思い出を聞く、マリエ・・)


めくるめく妄想にうふふと怪しげな笑みを浮かべるマリエに、リュウとタツノリは顔を見合わせる。


「・・な、なあ?お嬢?どうした?」

「な、なんでもありませんでしてよ!

さ、早く書類を書いて提出してしまいましょう!」


はっと何かを隠すように強がって見せるマリエにリュウは渋い顔で返す。


「え、でも書類は担任に出さなきゃだから、どちらにしろ出すのは明日だぞ?」

「な・・ならなぜお昼休みのうちに書いてしまわなかったんですの?!」

「昼はお前が用事あるって言ったんだろ?

飛澤に用があるだとかなんだとか」

「う・・そ、そうでしたわ」


マリエのばかぁ、と自分で自分を責めるマリエの横で、リュウは清書の終わった書類を満足げに見下ろす。


「よし!委員長と飛澤に報告いくぞ!」

「ま、待ってくださいまし、髪を整えて、制服も乱れてますわ、それと香水を・・」


慌ただしく去っていった二人を見送り、しずかな放送室でタツノリはソファーに腰掛け鞄から取り出した本を開く。

窓から吹き込む風に心地よさそうに目を細め、タツノリは穏やかな顔で手元に目を落とした。


これが最後の平穏となることなど、思いもせずに。


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