第1話その3
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
オレスト~俺の戦略はこんなに素晴らしいのにどうして誰もわかってくれないんだ~
公式HPはこちら
https://orest-strategygame.jimdo.com/
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ストーリーやキャラ紹介をイラスト付きで掲載しています。
また公式HPみられないストーリーや、次回作のお知らせも公開中!
その日の放課後、タイガは普段より多いギャラリーに内心戸惑いながらも、いつも通り、しいの木前で縄跳びの練習をしていた。
準備体操代わりに二重跳びをすると、ギャラリーにどよめきが走る。
(この程度なら、誰でもすぐできるようになるのにな・・)
曇りかける表情を引き締めて二重跳びを続けていると、ギャラリーの向こうに焦った様子のマリエが見えた。
今朝の事を思い出して、思わず手が止まる。
どう声を掛けよう、とタイガの視線が下がるが、そんなタイガの様子など気にも留めず、マリエはタイガに詰め寄った。
「今日のお昼休みの放送はお聞きになりまして?!」
「?昼休みに放送なんかないだろ?」
校庭で練習をするタイガには今日の昼の騒ぎが聞こえなかったようだ。
説明をしようとマリエが口を開きかけた時、騒ぎの発端が校庭に現れた。
「いやーごめん!遅れちゃった」
担任に怒られてよぉ、とギャラリーの向こうでリュウが手を振った。
その後ろではアスナが彼に冷たい視線を送っている。
状況を飲み込めていないタイガに「まあ見とけって」と声を掛けて、リュウは芝居がかった動作で両手を広げた。
「諸君、今日はよく集まってくれた」
リュウの声から彼が昼の放送の主だと気づいた見物人たちは、不安げながらも黙ってリュウを見つめる。
「今日の昼の放送で、言ったよな?目立ちたい奴、モテたい奴、ワイチューブでもてはやされたい奴はここに来るべし」
ギャラリーを前に自信満々に話すリュウの後ろで、困惑した様子のタイガがマリエに小声で話しかける。
(いつの間にそんな話になってるんだ?!)
(わ、私も知りませんわ!)
(俺は何もサーカスをしたいわけじゃないんだが・・)
マリエが今までになく近いタイガの顔に湯気を上げている横で、タイガは本当に大丈夫か?とリュウの様子を伺う。
「方法は簡単だ。縄跳び部に入ればいい」
ギャラリーからは戸惑いの声が上がる。
だがリュウはひるむ様子も見せずに、逆に勝ち誇ったように言い放った。
「おいおいおい。縄跳びは地味だなんて、何世紀前の感性だよ」
そう言って、大仰な仕草でギャラリーを見渡すと、ギャラリーは不安げながらも口をつぐんでリュウの話に耳を貸す。
「縄跳びは今じゃ全国大会や世界大会だってある、クールでイカしたスポーツなんだぜ?
それにワイチューブに行けばカッコいい縄跳び技の動画がいっぱいあるし、出来のいいやつはそれなりに視聴回数も伸びてる。
最近じゃスポーツメーカーが出してるカッコいいモデルの縄跳びだってたくさんある。
そんで縄跳び部に入れば、お前らだってカッコいい縄跳び技が決めれるようになる」
断言した彼の言葉には迷いが一切感じられない。
リュウが一つ一つと言葉を重ねるごとに、ギャラリーの視線から戸惑いが消え、代わりに希望が混じり始める。
「二重跳びどころじゃない、もっと色んな技を決めれば、どうなる?」
自分を見つめる一人一人の目を見て、どうだ?とリュウは眉を上げる。
彼を見返す期待の籠った目に、ここからが仕上げだと、リュウはタイガの背中を押した。
不意打ちで押されたタイガは、つまずくようにギャラリーの前に出る。
「それに、お前らもうとっくに気づいてるだろ?」
一体何のことかと、戸惑ったギャラリーの視線がタイガに集まる。
タイガはリュウを振り返る。
タイガと目をあわせて悪戯っぽく笑い、リュウは言い放つ。
「こいつが毎日縄跳び跳んでるの見て、お前らどう思ったんだよ?」
はっ、とその言葉に全員が気づいた。
毎日縄跳びを跳ぶタイガを見て、彼らが何を感じていたか。
縄跳びはダサいと言いながら、タイガの技が決まるたびに歓声をあげていたのは、一体なぜなのか。
「な?カッコいいんだよ、縄跳びってやつは」
恐る恐る向き直ったタイガに、ギャラリーは羨望の眼差しを向ける。
それがむず痒くてリュウを見下ろすと、リュウは満面の笑みで彼を見上げていた。
*************************
その後、ギャラリーの多くが縄跳び部への入部を希望した。
(なんてことですの・・?)
思いもしなかった結果にマリエは愕然とすることしかできない。
そして、そんな彼女の視界の端では、見覚えのある顔が気まずそうにこちらを見ていた。
「お前たちは・・」
マリエよりも先に気づいたタイガが、驚いた顔で声を掛ける。
その声にマリエが振り向くと、そこには先週、階段でマリエにちょっかいをかけてきたあの縄跳び部の二人が立っていた。
「オレが呼んだんだよ。クラスも一緒だし」
そう言ってリュウが促すと、二人はもごもごと口を開く。
「いや、やっぱ、縄跳びってカッコいいかもなって思ってさ。
そこのお嬢様にバカにされたのが気に食わないってのも、まあ、あるけど」
「だから、今更だけど、二重跳びとか教えてくんね?
それでさ、サッカー部やバスケ部に負けないくらいのかっこいい部活にしようぜ」
その言葉に、タイガの表情が明るくなる。
だが、ふと申し訳なさそうにして言った。
「今は大事な用があるんだ。少しだけ待っててくれるか?」
もちろん、との二人の返事に礼を言ってから、タイガはリュウに向き直る。
そして深く頭を下げた。
「ありがとう、金城土。恩に着る」
「そんなほどでもないって」
タイガの背中を見下ろしながら、リュウはひらひらと手を振って応える。
もう一度だけ、ありがとうと言ってから、タイガは頭を上げて少し言い難そうに切り出した。
「それでその、謝礼なんだが・・」
解決するならなんでもする、と言ったあの事だろう。
男に二言はない、と腹をくくった様子のタイガに、リュウは軽い調子で答える。
「ああ、それならあそこのお嬢の言うこと聞いてあげてよ」
彼が示した先には、マリエが、文字通り、崩れ落ちていた。
「ふ、ふざけないで頂戴!
負けた相手のほどこしなど受けませんわよ!」
涙目になりながらも強気な姿勢を崩さないマリエに、リュウは苦笑する。
「ほどこしじゃねぇって。それに・・」
リュウはクラスメイトの縄跳び部員に目を向ける。
(「かっこいいと思われることをしろ」なんて、よく言ったもんだ・・・)
少し待つよう言われた二人の元幽霊部員は、早速ワイチューブをみながら二重跳びに挑戦しようとしている。
彼らがこうしてやる気を出すためには、間違いなくマリエの一言が不可欠だった。
案外お前も答えを出してたんだぜ、とは口には出さずに、リュウはマリエに向き直る。
「これは取引だ」
マリエは首をかしげてリュウを見上げる。
「取引って・・何と何を?」
「こいつになんでもしてもらえる権利はお前にやる」
驚きを隠せないマリエに、にやりと笑ってリュウは続ける。
「その代わり、お前、戦略部の部員になれ」
「戦略部・・・?そんな部活聞いたことありませんわ」
「当たり前だろ?今作ったんだから」
「はあ?!」
唖然とするマリエを置いて、リュウは校舎に向かって歩き出す。
「どうせお前将来は社長か社長夫人にでもなるんだろ?
そういう奴が金でしか事を解決できないとろくなことになんないからさ」
そこでくるりと振り返り、ニカっと笑って彼は言った。
「このオレが直々に戦略ってやつを教えてやるよ!」
かくして縄跳び部は存続の危機を脱し、一躍人気部活となった。
そして、部員一人の非公認部活・戦略部がスタートしたのだった。
*************************
リュウが演説を締めくくっていたちょうどその頃、タツノリがいつものように放送室を訪れると、そこには珍しい先客がくつろいでいた。
「おう、たっちゃん」
長い手足を縮めるようにしてソファーに寝そべったまま、膝に乗せたノートパソコンから顔を上げる。
「久しぶりやの」
「その呼び方やめてって言ってるじゃん」
「えー。たっちゃんはたっちゃんやろ?」
まったくもって理由になっていない主張に、タツノリは反論する気をそがれてただただ苦笑する。
(まあ、言っても無駄か)
「珍しいね。学校にいるなんて」
「担任には勝てても単位には勝てん。
これでもワイ、華の高校生やから」
肩をすくめながらも彼はキーボードを弾く手を止めない。
パチパチと心地よい音が響くのを聞きながら、タツノリはその画面を後ろから覗き込んだ。
「今度は何作ってるの?」
「学校に来んでも単位が取れる、アプリ『きょう、さぼろーくん』」
「え、そんなことできるの?」
「できるかいな」
うっそぴょーんと言って笑う彼を、タツノリは呆れた顔で見下ろすことしかできない。
それを横目で見上げてけらけらとひとしきり笑い終えると、彼はパソコンを畳んでリュックに手を伸ばした。
「そろそろ行かな。担任に呼ばれとってな」
リュックを担いでソファーを立つ。
タツノリは見送る気がないらしく、手近な丸椅子に腰かけると、いつものからかうような笑みを浮べて本を手に取った。
「お説教頑張ってね、天才コーンくん」
「おーっと」
タツノリの言葉を遮るように大きく声を出し、去りかけていた背中が振り返った。
しー、っと人差し指を唇に当て、愛想笑いのような苦笑をタツノリに向ける。
「それはご法度ってやつやで?お客さん」
タツノリは手元の本に目を落としたまま、軽く肩をすくめただけだった。
どうせわざと言っているのだから、注意するだけ無駄だったようだ。
(・・しゃあないか)
ほなまた、と片手を上げて放送室を後にすると、そのまま下へと続く階段を降りていく。
(教員室どこやったっけ?)
数えるほどしか来たことのない高校の校舎を思い出しながら階段を降りていると、ちょうど踊り場の曲がり角で小さなツンツン頭とぶつかりかけた。
「おっ」
身をかわしてツンツン頭を避ける。
ツンツン頭ことリュウは、「ごめん!」と声を掛けようとして口をつぐんだ。
「すまんすまん」と手を振り階段を降りていく背中を見つめて首をひねる。
(あんなでっかい奴、うちの学校にいたっけ?)
背だけでなく、自由奔放に跳ねた独特の髪型も、校則違反のパーカーの派手な色彩も、どこかで見ていれば記憶に残っていそうなのに、どうにも見覚えはない。
(・・・・転校生?)
それなら何故四階から、とリュウは見覚えのない背中が居なくなった階段を見下ろす。
この先には放送室くらいしかないのだが・・
「あ」
放送室、という単語に大事な用事を思い出し、リュウは見下ろしていた階段に背を向け、残りの数段を駆けあがる。
「タツノリ!」
放送室の扉を開けるや否や呼びかけたリュウに、タツノリはびくりと飛び跳ねる。
「リュウ?なに?どうしたの?」
「戦略部入ろうぜ」
「え?戦略部?」
「戦略を考える部活だよ。さっき作ったんだ。面白いだろ?」
説明になってないんだけど、と口をついて出そうになるが、リュウの爛々とした目にタツノリは諦めたように息を吐く。
(まあ、言っても無駄か)
「リュウがそう言うなら、面白いんだろうね」
当たり前だろ、とリュウは胸を張って笑った。
第1話終了
第2話へつづく。