第1話その1
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オレスト~俺の戦略はこんなに素晴らしいのにどうして誰もわかってくれないんだ~
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第一話
季節外れの熱波に日本中が蒸し上がった新学期。
都内某市某私鉄駅前の駄菓子屋では毎月恒例の「ピロリチョコひと掴み百円フェア」が開催されていた。
山積みにされたチョコも溶けようかという暑さの中、店の前では一人の男子高校生がチョコの山と睨み合っている。
「う~ん」
男子生徒の後ろには月に一度の安い食糧を調達しようと、同じ制服に身を包んだ生徒たちが列をなして待っている。
四月とは思えない太陽の下、「早く次にまわしてくれ」と皆が男子生徒に熱い視線を送っているのだが、彼は全く気付く様子もなくどうしたらより多いチョコを取れるものかと頭を悩ませている。
「う~~ん」
店員が商品整理の手を止めて男子生徒を見やる。
列の進みがわるくなったことに気づいたようだ。小さく溜息を吐く。
そのままずかずかとチョコの山に近づくと、店員はその大きな手をチョコの山に突っ込んだ。
「あ」
男子生徒の空いた口から間抜けな声が零れる。
そんなことは気にも留めず、店員は男子生徒の手に握られていたポリ袋の中に、大きな手で掴めるだけ掴んでいたチョコをドサドサと落とした。
手の中の重量でやっと何が起きたかを理解し、男子生徒は顔をゆがめる。
「ちょっと!オレの百円!」
「時間切れだ」
低い声で短く告げて、店員は店内へ退く。日陰で一息つくと、
「ばあちゃん。茶でも飲むか?」
と店主らしき老婆に声を掛けて店の奥に去っていった。
その背中を恨めしそうに眺める男子生徒の横では、次の生徒が料金箱に百円を入れ、嬉々としてチョコの山に手を突っ込む。
それを横目で見やってから、男子生徒は仕方ないといった風に溜息を漏らした。
駄菓子屋に背を向け、とぼとぼと歩き出す。
だが、長い列の最後尾のさらに向こう、駄菓子屋の向かいの美容院の前で涼し気な顔で待っている友人の前に立った男子生徒は、先ほどの溜息など忘れたかのように勝ち誇った顔で笑った。
「別に自分で掴まなくっても有効だよな?」
そう言って、友人よりも多くのチョコが入った袋を見せつけるように振る。
友人はそれに苦笑を返し、手に持ったチョコ入りの袋を男子生徒に手渡した。
「毎度あり~」
「手の大きさで言ったら、絶対僕が勝つんだけどな」
「へへ!どうよ!オレの素晴らしい戦略は!」
楽しげに喋りながら、二人はどちらともなく駅に向かって歩き出す。その後ろ姿を美容院の中から観察する人影があった。
「ふうん・・」
面白いものを見つけたとでも言うように微笑むと、その人は膝の上に広げた雑誌に目を落とした。
*************************
昨日の熱波はどこへやら、一気に春らしくなった風が教室のカーテンを揺らす。
『新入生の皆さん、入部先はもう決めましたか?
昨日に引き続き、各部活から寄せられた勧誘メッセージを紹介します』
紙をめくる音を交えながら、低く落ち着いた声で昼の放送が読み上げられていく。
「鷹座さんは部活決めたの?」
弁当を食べ終え片づけを始めていた鷹座マリエはその言葉に手を止めた。少し困ったように笑って彼女は答える。
「まだ、というか入るつもりがないんですの」
「えぇ!だめだよぉ?どこでもいいから絶対入んなきゃ」
そんなことはマリエも重々承知だ。
去年の秋に生徒会の代替わりがあってすぐそんな制度がつくられたと、数週間前の入学ガイダンスで生徒会役員が言っていた。
なんとも迷惑な話である。
『続いては調理部。優しい先輩と一緒にクッキングを楽しみませんか?』
あ、と女子生徒は嬉しそうにスピーカーを見上げる。
「調理部!すっごく気になってるんだぁ。家庭科部も面白そうだけど・・。鷹座さん、一緒に見に行かない?」
そうですわね、と迷って見せながら、さてどう断ったものかとマリエは苦笑する。
彼女にはそんなことに使っている時間はないのだ。
「誘ってくださるのは嬉しいのですけど、私、放課後は忙しいんですの」
そう言いながら弁当箱を片付け終わるとマリエはスッと席を立つ。
「お昼休みも予定がありますので、失礼させていただきますわね?」
笑顔とは裏腹に返事も聞かずに教室を出ていくマリエを「またあとでねぇ」と間の抜けた声が追いかける。
おめでたい人、とマリエは思わず苦笑する。
(あの方、何てお名前でしたっけ?)
そんなことを考えながらマリエは階段を降りていく。
彼女が歩くたびに高く束ねたツインテールが跳ねるように揺れる。
二階の踊り場を通り過ぎようとした時、突然目の前に割って入った人影にマリエは躓くように足を止めた。
「鷹座マリエちゃんだよね?」
猫なで声にマリエの頬が引きつる。
ありったけの不機嫌さを露わにしてマリエが見上げると、彼女よりも頭一つほど背の高い男子生徒が二人、何やら含みのある笑みでマリエを見下ろしていた。
「お昼休みまで忙しそうだよね」
「ええ。用があるなら簡潔に済ませて下さる?」
冷たい声でマリエは吐き捨てるが、二人はからかうように怖がってみせるだけだ。
「マリエちゃん、部活は決めた?」
「そもそも入る気がありませんの」
勧誘か、と見限ったマリエは簡潔に答えてその場を去ろうとする。だが二人はそのマリエの言葉に食いつくようにして言った。
「そう!そうだよね!入る気にならないじゃん?」
「でも規則としてどこかしらには所属しなきゃいけない」
「そこで!うちの縄跳び部なんかどうかな?」
『さて、次は縄跳び部から。
縄跳びが好きな人、大歓迎。放課後は校庭、しいの木前まで』
絶妙のタイミングで読み上げられた放送に、二人は嬉々として「誰が行くかよ」と嫌味を吐く。
下品な笑いに、マリエの我慢が限界に近づく。
「あ、縄跳び部って、名前はダサいけど、活動は本当に楽だから」
「そうそう、ダサいのは名前と部長だけ」
プツン、とマリエの中で何かが切れた。
「時哉」
『はい、お嬢様』
低く告げる声に耳元の通信機が応える。
「『ダサい』という言葉を間違って使っているそこの哀れな方たちの名前を調べて、学校の名簿から消しておいて頂戴。
費用は私がだすわ」
『かしこまりました』
思いもよらない展開に、縄跳び部の二人は口を開けたままマリエを凝視している。
もう用はないとでも言うようにその場を立ち去ろうとするマリエに二人ははっと我に返り、ちょっと待てよ!と縋るように喚きだした。
「だ、だって、しょうがないだろ!」
「俺たち、サッカーとかバスケとか、そういう女子にモテるカッコいいスポーツやったことなんかないんだからさ!」
「だからしかたな~くなわとび部にはいってやったってのに、やっぱ地味でよぉ!」
昼食を終えた生徒たちが、声を聞きつけて何事かと集まり始める。
正直もう口もききたくない相手だが、騒ぎになるのはごめんだとマリエは渋々口を開く。
「なら、かっこいいと思われることをすればよろしいんではなくって?
ご自身がダサいのを所属している部活のせいにするなんて、お門違いでしてよ」
次の学校ではお行儀よくしてくださいまし、とマリエは二人に背を向ける。
彼らのせいで貴重な時間を浪費してしまった。足早に階段を駆け降りる。
『お嬢様』
「何かしら?」
『お探しの彼ですが、本日は屋上にいらっしゃいます』
一瞬考えるように歩みを止めて、マリエはくるりと踵を返す。
「そういうことは先に言って下さる?」
『申し訳ありません』
「いいわよ。責めてるわけじゃないから」
再び現れたマリエの姿に震撼する二人を横目に、彼女は屋上へと階段を昇る。
彼女の頭上でチャイムが鳴り響き昼休みの始まりを告げた。
*************************
その数分前。
二年B組学級委員長・竹虎アスナは廊下を足早に歩いていた。
「なあ、委員長、どこ行くの?」
そう言って後ろからついてきているのは、アスナのクラスメイト・金城土リュウである。
今年度から同じクラスになった二人はまだ互いの名前を知っている程度の仲なのだが、なぜか連れ立ってどこかへ急いでいる様子だ。
「なあ~委員長ってば~」
「屋上よ」
先を行くアスナは振り返らずに答えた。
「てか委員長髪切ったよね」と話しかけるリュウを無視してアスナは屋上へと続く階段を昇っていく。
何をそんなに急ぐのかと不思議に思いながらリュウも後に続く。
事の始まりは朝礼の後だった。
「金城土くん」
担任が教室を出た途端、アスナはリュウの席にやってきて言った。
「昨日の駄菓子屋でのチョコの掴み取り、店員に掴ませたのはわざとってことでいいのよね?」
何で知ってるんだ、とリュウは不思議そうな顔でアスナを見上げつつも答える。
「まあ、店員の方がオレより手がデカいだろ?」
それを聞いたアスナは何やら真剣そうな面持ちで数秒リュウを見つめ、昼食をなるべく早く済ませて自分についてくるよう告げると自分の席へと戻っていった。
「あ、」
そしてその行き先が屋上だと言う。
「もしや委員長~昨日のでオレに惚れたな~?」
「・・馬鹿言ってないで黙ってついてきて」
またまた~、と続けるリュウに、アスナはため息を吐いて屋上の入り口に手を掛ける。
昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴り響く中、アスナはドアを開けて屋上で待っていた人影に声を掛けた。
「タイガ、お待たせ」
二人に背を向けていた人影は呼びかけに気づいて振り返る。
「あ!」
リュウが振り返った人影の顔を見て声を上げる。
それに対してタイガと呼ばれた男子生徒も声には出さず驚いた表情を浮かべた。
「昨日の駄菓子屋!」
「昨日のチビ」
「チビじゃねぇし!四捨五入したら160あるし!」
噛みつこうかと言う勢いで反論したリュウを見下ろしているのは、昨日彼が立ち寄ってチョコの掴み取りに挑戦したあの駄菓子屋の店員である。
「・・それはチビってことなんじゃないのか?」
「んにゃろ・・世界中の160センチ男子に謝れ!」
「?そうなるとお前には謝らなくてよくなるが・・・160ないんだろ?」
「ああああ!もう!委員長、こいつなんなの?」
顔を真っ赤にして振り返るリュウに、アスナは肩をすくめる。
大体予想はついていたが、思った以上に相性のいい二人だ。
「私の友達。飛澤タイガ。
あなたには彼の相談に乗ってほしいの」
駄菓子屋の店員、もとい、タイガは表情を変えずに軽く会釈をする。
会釈を返しながら、リュウはなにやら不満げに唇を尖らせて言った。
「ま、委員長が言うならいいけど、なんでオレ?」
「それは俺も気になる。このチビがそんな有能には見えんのだが」
「やかましいわ!」
再度噛みつくリュウに呆れたように溜息を吐いて、アスナは答えた。
「小さいからこそよ」
「どういうことだ?」
「あの掴み取りって、要するに手が大きい方が有利でしょ?
でも、金城土くんはタイガが言うように背も手も小さい」
これから大きくなるからいいもんね~と拗ねるリュウには触れずにアスナは続ける。
「だから彼は、自分よりも手の大きいあなたにチョコをとるように仕向けたの」
タイガは一瞬眉を寄せ、ゆっくりと目を見開く。
確かにタイガの方が手は大きいが、そんな型破りな発想をする客には出会ったことがない。
「正攻法はやりつくしたし、これくらい面白い事できる人の方がいいかと思って」
「・・本当か?」
信じられないという顔でタイガはリュウを見下ろす。
なおも拗ねていたリュウは、一拍遅れて、その言葉が自分に向けられたものだと気づいた。
「え、まあ、うん」
曖昧な答えに不安をにじませながらも、タイガはリュウから目を離さない。
「これで相談する気になった?」
自信ありげにタイガを見上げるアスナにちらりと目をやって、タイガは諦めたように息を吐きだした。