第5話その3
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オレスト~俺の戦略はこんなに素晴らしいのにどうして誰もわかってくれないんだ~
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内閣府認証NPOランチェスター協会認定インストラクターから題材提供&ストーリー監修
教育×ライトノベル×経営戦略?×地域活性化??
前代未聞!!アントレプレナーシップを育成するライトノベル登場!
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本編で出てリュウが使う戦略の解説がのってます。マリエと楽しく学びましょう!
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そちらも併せてオレストを宜しくお願いします!
第5話その3
サキが作ったというキッシュを注文し、アスナはカウンターに座る。
「こんなに美味しいのにね」
プラスチックのフォークでキッシュを口に運び、アスナは店内を見回す。
下校時刻間近を狙って来たとはいえ、まさか一人も客がいないとは彼女も思っていなかった。
「値段も場所も申し分ないし。
宣伝だって根古さんが手伝ってくれてるでしょ?」
農業部の一件を経て、購買部は一躍、フォロワー千人の人気アカウントになっていた。
学園内外を問わず今でもフォロワー数を増やしており、最近では野菜販売以外にも運動部の対外試合や文化部の発表会の告知まで行っているのだ。
カフェ部の新設やカフェスペース開店の際にも宣伝で協力をしてもらい、大きな反響を呼んだのだが。
「宣伝ももちろん、他にもいろいろ工夫していますのですけど・・」
「金城土くんは何か言ってないの?」
「それがぁ・・金城土先輩、こういう話題あんまり強くないみたいで」
「情報が足りないと分析もうまくいきませんの」
それもそうか、とアスナは最後の一口をかみしめ、西日に照らされた店内をもう一度見渡した。
購買の隣の空き教室を活用した手作り感満載の店内には、予算をかけられない代わりに手間をかけた装飾や工夫が見られる。
「わかりませんわ・・毎日が学園祭、いいと思ったのですけど・・」
「そうね。美味しくて安くて場所もいいし宣伝もしてるし。
高校生がカフェってだけですごいと思うけど・・」
カラン、とカフェの扉が開く音が響く。
サキはパッと立ち上がり笑顔を作るが、ドアに立った人影を見て深く息を吐きだし椅子に座った。
「ちょっとちょっと~」
サキの反応に不満を示しながらミチが扉を閉める。
「耳より情報もってきたんだからそんなに落ち込まないでよ~」
ミチもカウンターに座る。
何も頼まないまま、いつものメモ帳を取り出すと、早速本題を切り出した。
「結局さ、手作りアットホームは今の流行りじゃないってこと。
友達に聞いたら、みんなここに来ないで隣駅のストバに溜まってるらしいんだよね」
「それは・・お客をとられていた、ということですの・・?」
なるほどぉ・・とサキも納得する。
工夫を凝らしても客が集まらない、となると他の所に流れていると考えるのが確かに妥当である。
(となると、どうやって取り戻すか、だけど・・)
隣駅となると立地で少しは太刀打ちできるか?とマリエが考えを巡らせていると、ふとアスナがメモをとりだしているのに気づく。
「どうしましたの?」
「うん、ちょっと思いつきなんだけど」
アスナは筆箱からペンを取りだし、メモに十字を引く。
「状況が変わって、新しく情報も入ったでしょ?それなら一回あの表を書くべきだと思って」
手伝ってくれる?と表を見つめて考えだすアスナに、マリエは思わず唇を噛んだ。
(確かにそうですわ・・)
アスナが気づけて自分では気づけなかったことが口惜しい。
だが、マリエにできてアスナにできないこともまだ残っている。
「ちょっと待って?いいと悪いで分けるのよね?なんで四つ?」
あれ?と戸惑うアスナに、マリエは一つ一つの枠を指で示しながら言う。
「長所、短所、チャンス、ピンチと言えばお分かりになります?」
「え。すごくわかりやすい。
マリエちゃん、いつの間にそんなの覚えちゃったの?」
「こ、これくらい当たり前でしてよ!
こんなのも知らずによく書こうなんて思いましたわね」
「そうそう~新聞部でも特集で紹介したんだから~」
ミチが鞄から出した記事も参考に、四人でアスナのメモに書き込みをしていく。
「でもこうやって見ると、アットホーム路線を変えるべきよね」
「手作りは控えたほうがよろしいようですわね」
サキも、料理だけでいいのではというリュウの言葉を思い出す。
「お料理もお裁縫も、って欲張りすぎたかもなぁ・・」
「そうですわね。洗練カフェでの集中突破を目指しましょう」
「それならそれなら~食器も紙とかプラスチックじゃない方がいいよね」
あと内装も、メニューも、と次々と案が出てくるが、ふとサキが口に手を当て、言葉を切る。
「・・それってお金、かかりますよね・・?」
アスナが端末に手を伸ばしかけるが、電卓を使うまでもない。
今よりは確実に費用が掛かるうえ、プロの商売と張り合って勝てるかの勝算は目に見えている。
カフェ部の強みは今のところ立地だけなのだ。
下校時刻十分前を知らせる鐘が鳴る。
何の解決策も見えないまま西日が濃くなる。
「時哉」
マリエの声が静まり返った店内に響いた。
『はい、お嬢様』
サキが、どうしたの?とマリエを心配そうに見つめる。
その目に少しだけ言葉を選び直して、マリエは口を開いた。
「学生にも似合う高級感のあるエプロンを用意して。
それと一流カフェのバリスタを一人、講師として雇っていただきたいの。
お願い、できるかしら?」
ミチが驚きながらもひゅ~と茶化す横で、アスナは目を丸くし、慌ててマリエの腕を引く。
「ま、マリエちゃん?雇うって、ただじゃないのよ?」
わかってる?と諭すアスナを、マリエは呆れたように見る。
「当たり前ですわ。馬鹿にしないでくださいまし」
「お金は誰が出すの?」
「私に決まって」
「鷹座さん」
大きくはないけれど強い声がマリエの言葉を遮る。
思わず振り返ったマリエを、カウンターの向こうのサキが真っすぐに見つめていた。
「そんなの絶対ダメ」
普段の穏やかさからは想像できない強い目に圧倒され、マリエの声が震える。
「で、でも、私の財力にかかれば、ほんの」
「それでも私はイヤ」
マリエから目をそらさずに首を振り、だって、と笑う。
「鷹座さんから一円でももらっちゃったら、鷹座さんの友達だ!って胸張って言えなくなるもん」
最後だけ照れくさそうに首を傾げ、えへへ、とサキは頬を赤くする。
なぜか自分の行動が恥ずかしいものに思えて、マリエはサキから顔を背けた。
(そんなはず、ありませんわ)
今までマリエはそうやって人と付き合ってきたのだ。
そして感謝され、尊敬され・・・
『金欲しさに入部する後輩とは、俺は一緒に活動できない』
ふとタイガの言葉が思い出される。
なぜか涙が出そうになる。
『お嬢様』
聞きなれた声が耳元で響いた。
『お願い、と言うことでしたら、私から提案をさせていただいてもよろしいでしょうか?』
「・・・・」
無言を了承ととったのか、時哉は続ける。
『うちのメイドが使っているエプロンで、もう捨てる予定のものを数着、用意いたしましょう。
講師は私が勤めます。
その他の備品も、使い古しでよろしければですが、手配が可能です』
いかがでしょうか、と伺う声にマリエは何も答えない。
なかなか出てこない言葉に唇が渇く。
「・・使い古しのエプロンと、講師にうちの執事を一人」
そっぽを向いたまま、怒ったような声が口を突いて出る。
「これなら受け取っていただけまして?」
横目で伺うのがやっとだった。
サキは、少し目を見開いて、それから何が可笑しいのか肩を少し震わせて笑う。
「うん。ありがとう」
潤んだ目とゆるんだ頬に気付かれないよう、マリエはふん、と顔を背けた。
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「新しくできたカフェ部、最近またすごいらしいわね」
放課後、掃除を終えて生徒会室にやってきたアミは、席に着くと同時にそう切り出した。
向かいに座ったクレハが書類から目を上げ、ほう、と声を零す。
「立ち寄れたらいいんだがな」
そう言って彼女が示す先には書類が山をなしている。
「少しくらい私にも任せて?
クレハが好きそうな落ち着いたカフェよ。
制服も本格的だし、料理も本物の執事さんに教わったとか」
「ああ、例のご令嬢が監修しているとか、アンナが言っていたな」
そこでふとペンを止めると、クレハは鞄に手を伸ばした。
「テイクアウトはないのか?」
「あるわよ。買ってくる?」
「頼む」
財布から千円を取りだし、アミに渡す。
「お前の分もこれから出せ」
「・・クレハは、ほんと、なんで男に生まれてこなかったかなあ」
「無茶言え」
生徒会室を去るアミの背中を苦笑交じりに見送る。
足音が遠ざかるのを聞きながらクレハは机から一枚の書類を取り出した。
さらさらとペン先の滑る音がする。
戦略部の創設申請書に、承認を示す猿飛クレハの署名がされた。
第6話へつづく