第5話その1
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オレスト~俺の戦略はこんなに素晴らしいのにどうして誰もわかってくれないんだ~
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内閣府認証NPOランチェスター協会認定インストラクターから題材提供&ストーリー監修
教育×ライトノベル×経営戦略?×地域活性化??
前代未聞!!アントレプレナーシップを育成するライトノベル登場!
HPでは、ストーリーやキャラ紹介をイラスト付きで掲載しています。
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本編で出てリュウが使う戦略の解説がのってます。マリエと楽しく学びましょう!
またイラスト二次創作を募集してます!
そちらも併せてオレストを宜しくお願いします!
第5話その1
マリエはこの上なく不機嫌だった。
「取材って、どういうことですの?」
もともと今日は特に何の用事もなく、何も気にせずタイガに会いにいける日だったのに、運悪く廊下でリュウに呼び止められてしまったのだ。
その理由が取材と聞けば、自然とマリエの恨みは先を歩くミチに向けられる。
(この忙しいときに、何の用ですの?)
「一年生のご令嬢ちゃんだよね~?」
喋り方も気に入りませんわ、とマリエは冷たい視線を送るが、ミチはカワイイ~と満足そうだ。
「取材って言っても、いつも通り活動してくれればOK!
あとは私が100倍かっこよ~く記事にしてあげるから」
ペンとメモを振って見せるミチに、それはそれでどうなのかとマリエは呆れた目を向ける。
「ちょうど取材したいな~って思ってたら、調理部の水澤ちゃんからSOSがあったわけよ。
だから、せっかくだし噂の金城土くんにお願いしちゃえってなって」
「オレもちょうど、なんかできないかなって考えてたとこだったんで、お安い御用っすよ!」
「さっすがカネギドン~話が早くて助かるよ~」
全ては戦略部の部費のため、と言うのは心の中だけに留め、リュウは上機嫌で専科棟の階段を昇っていくミチの後ろをついていく。
「調理部もさ、家庭科部がプニッターで有名になっちゃったから焦ってるんだと思うんだ」
大変だよね~と他人事のように言いながら階段を昇っていくミチに、マリエは聞き間違えかとミチの言葉を言い直す。
「調理部と、家庭科部・・・?」
「お?ナニナニ?不機嫌お嬢様も興味でてきましたか?」
ミチはペンをマイク代わりにしてマリエに差し出す。
あからさまに嫌そうな顔をするマリエに、ミチはなぜか楽し気に笑ってペンをポケットに戻してマリエの疑問に答えた。
「なんで家庭科部と調理部が別々にあるの?って思うよね~?」
「オレもそこ引っかかってさ!
同じ部は二つ要らない、って生徒会長も言ってたのに」
「それもそうなんだけどね~」
軽い口調で言いながらミチが足を止める。
二人もつられて『調理室』と書かれた扉の前で足を止める。
「やっぱ、別々になってる理由がちゃんとあっちゃうんだよね~?」
そのまま含みのある笑みで静かにするよう示し、ミチが手招きする。
戸惑いながらも二人がうなずくと、ミチは扉を薄く開いた。
息を潜めて中をうかがう。
ミチが示す先では、数人の女子生徒たちが二つのグループに分かれて互いに睨み合っていた。
「今日は調理部が使う番だったじゃん」
「家庭科部は暇じゃないから?調理台空いてるなら使いたいってだけ」
「お忙しいようでなによりです~。
でも今日はうちらの番だから。家庭科部は出ってって」
言い合っているのは二人だけだが、険悪な雰囲気が調理室全体に充満しており、リュウとマリエは思わず顔を見合わせる。
(言い合ってる二人の片っぽが調理部部長の水澤ちゃんで、もう一人が家庭科部部長の成宮ちゃん)
目つき悪い方が成宮ちゃんね、と付け足してミチは続ける。
(家庭科部と調理部ってどうも昔からこんな感じらしくて。
二人も昔は仲良かったんだけど、部のしきたりに染まっちゃったんだろうね)
どんなしきたりだよ、とリュウは心の中でツッコミを入れる。
道理で似た部活が二つもあるわけだ。
(新入生も雰囲気悪いからってすぐ辞めちゃってさ~)
つまりはこういうこと、と言いおくと、ミチは扉を勢いよく開けた。
「お邪魔しま~す。水澤ちゃん~噂の戦略部連れて来たよ?」
「ごめんなさい、遅れましたぁ」
二人分の間の抜けた声が同時に調理室に響く。
出鼻をくじかれたミチが「ありゃりゃ」と肩を落とす横で、マリエはどこか聞き覚えのある声に、調理室の奥にある『調理部部室』と書かれた扉に目を向けた。
(!あの方は・・・!)
「あぁ!鷹座さんだぁ」
充満したとげとげしい空気など気にも留めずに、女子生徒は調理室を横切ってマリエのもとまで駆け寄った。
マリエの手を取り、飛び跳ねる勢いで彼女の訪問を喜ぶ女子生徒に、リュウは知り合いか?と目で尋ねるが、マリエも首を振る。
彼女に対するマリエの認識は、やたらと声を掛けてくる『おめでたい』クラスメイトという程度のものだ。
「あ、鷹座さんのクラスメイトで、調理部一年の卯堂サキです」
リュウの視線に気づいたのか、女子生徒はそう言うとぺこりとお辞儀をして笑った。
「どうしたの?もしかして見学?」
取材だよ~と横から入ろうとしたミチを水澤が押しのける。
ちらりと時計に目をやってから、水澤は素早く指示を飛ばした。
「サキちゃん。みんなも。
もう始めるから、食材準備始めちゃって」
「あ、はい!お待たせしてごめんなさい!」
サキと調理部部員たちがわらわらと動き出すのを見て、水澤は家庭科部員たちを振り向いて冷たい声で言った。
「もう始めるからさ。帰ってくれる?」
成宮は目を細め、無言のまま引き下がる。
周りの部員たちもそれに着いて部室へと帰っていくのを見送り、水澤はミチを振り返った。
「ミチも、今日は部活あるから、悪いけどまた今度お願い」
ありがとね、と疲れた顔で言うと、水澤はため息をつきながらエプロンに腕を通した。
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次の日、作戦会議をするというリュウからの連絡を受け、マリエは放課後の階段を放送室へと向かっていた。
ふと、踊り場の窓から見える校庭に目が行く。
(きっと今頃タイガ様は練習を・・・)
足が止まりかけたところで、マリエは頭を振った。
(戦略部ができるまでのガマンよ、マリエ)
タイガの「なんでも」はあくまで戦略部に入ることと引き換えなのだ。
入る戦略部が設立しないうちに投げ出すわけにはいかない。
放送室の扉を開けると、かわいらしいデコレーションが施されたホワイトボードが真っ先に目に入った。
その前に立ってペンを握ったリュウが手を上げると、少し遅れてソファに坐った二人の女子生徒が振り返る。
「お邪魔してま~す」
メモを片手に笑うミチの隣に座っているのは、部長の水澤ではなくサキである。
「水澤先輩がねぇ、クラスメイトの方が話しやすいだろぅって」
確かにあの疲れた先輩よりは話しやすそうだ、と内心納得しながらマリエは丸椅子に腰かける。
改めてホワイトボードを見ると、デコレーション(サキが書いたのだろう)に囲まれるようにして料理、裁縫、さらにそこから伸びる数本の線と様々な書き込みが目についた。
「裁縫、料理、それに、なんですの?お惣菜?」
「そ。家庭科部と調理部って何が違うんだ?って話になって」
料理からは四本の線が引かれ、それぞれ惣菜、家庭料理、カフェ料理、スイーツへとつながっている。
裁縫から伸びた線には一般裁縫と刺繍が書かれている。
「ま~簡単に言うと種類わけってことだよね~?」
「お惣菜と家庭料理って、ほとんど一緒じゃありませんの?」
お裁縫はよくわかりせんが、とマリエが指摘すると、サキが困ったように笑いながら補足した。
「一応ね、家庭科部はお惣菜料理とお裁縫担当、調理部は家庭料理担当っていうのが切れ目なんだ。
だからそこは分けようって話になって」
「つまりは~お嬢さんの言う通りほとんど一緒ってこと~」
からかうようにミチが言うのをうなずきながら聞いて、マリエはホワイトボードを眺めた。
サキには悪いが、ほとんど同じ部活と言われても仕方がないだろう。
「じゃあ、いい感じに分けれたし、お嬢も着たし、次の作業に」
「え、ちょ、ちょっと待ってくださいまし?」
突然裏返ったマリエの声に、三人は首をかしげて彼女を振り返った。
マリエが目を見開いて見つめるホワイトボードの上には、『合併大作戦』と自己主張の激しいリュウの字で書かれている。
「あ、あなた、あの仲の悪さを見てまだ合併なんて言ってますの?!」
「なんだよ。それでも合併はさせたいだろ?仲悪いくらいで諦められるかっての」
当然だと言い切ってリュウはマリエを見据える。
その目から逃げるように目をそらして、マリエはそうだったと思いだした。
できるかどうかではない。
どうしたいのか。
それだけが金城土リュウの行動原理なのだ。
「って言っても~説得担当はこのミッティー先輩がしてあげちゃうんだけどね~?」
「いや、自分でやりたいって言ってたじゃないっすか。
友達の仲直りを手助けさせてくれ~だのなんだの」
「あ~~~?!も、そう言うのは黙っててよ~!
恥ずかしいでしょ~?」
サキはそんな二人のやり取りを見てくすくすと笑うと、マリエの横にやってきて言った。
「面白い先輩だねぇ」
マリエはそれに何も返さず、リュウを睨むように見ている。
そして溜息を吐くと、空いた丸椅子に腰かけた。
「あの部長を説得できるだけの合併案を考える、そう言うことですわよね?」
やってやろうじゃないかとマリエがリュウを見つめると、リュウは少し驚いた様子を見せてから、ニッと歯を見せて笑う。
「ふざけている場合ではありませんでしてよ」
「任せとけ。次はこれの出番だ」
そう言ってペンを取ると、リュウはホワイトボードの空いたスペースに見覚えのある十字を書き込んだ。
その2につづく