第4話その1
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オレスト~俺の戦略はこんなに素晴らしいのにどうして誰もわかってくれないんだ~
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内閣府認証NPOランチェスター協会認定インストラクターから題材提供&ストーリー監修
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第4話その1
一日の授業が終わり、リュウは程よく温かい気温に眠気を感じながら終礼を受けていた。
「今日も一日お疲れ様でした」
バインダーに目を落として連絡事項を読み上げ始めた担任から目をそらすと、リュウはこみ上げるあくびに口を大きく開く。
(昨日も遅かったもんなぁ・・)
涙で潤んだ目をこすり、リュウは何ともなしに教室を見回した。
教壇を真面目に見つめる者、机に突っ伏して爆睡する者、部活前に栄養を補給する者。
真面目な奴少なすぎるだろ、と自分の事は棚に上げて呆れていると、ふと、クラス替え以降ずっと空席になっている最前列の席がリュウの目に着いた。
(こいつが一番不真面目だよな)
出席日数大丈夫かよ、ともう一度あくびをしていると、彼の視界の端で何かがせわしなく動いた。
目を向けると、普段は真面目に担任の話を聞いているはずのアスナが、手元の端末の画面をしきりに確認している。
(・・珍しいの)
「起立」
いつの間にか連絡事項は終わっていたようで、日直の合図とともに椅子を引く音が教室に響く。
遅れて立ち上がったリュウが首だけで礼をしていると、その間にアスナは教室の扉を開け、目を丸くしたリュウを置いて、目にもとまらぬ速さで廊下を走り去っていった。
リュウだけではなく担任や他の数人の生徒も、何事だとアスナを見送る。
「金城土」
彼女が通ったまま開け放たれた扉から姿を現したタイガは、数人から神妙な顔を向けられて一瞬足を止める。
が、すぐにリュウを見つけると彼の机までやってきた。
「少し聞きたいことがあるんだが・・」
「オレもちょっと聞きたいんだけどさ」
タイガの言葉を遮り、リュウはタイガと扉を見比べながら目を丸くしている。
アスナが走り去るところを見ていたらしいタイガは苦笑した。
「毎年この時期になるとこんな感じだ。気にするな」
まあ気にはなるだろうが、とタイガは端末を操作して学園掲示板を表示する。
リュウはそれをのぞきこみ、更に神妙な顔でタイガを見上げた。
予想通りの反応に肩をすくめると、タイガは茶化した調子で言う。
「安くて美味いそうだ」
なんだなんだと他の生徒も覗きこむ画面には、今朝投稿された掲示が映し出されている。
『今年もおいしい夏野菜が収穫できました。先着順で安価に販売します―農業部』
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専科棟の裏を走り抜け、アスナは農業実習室の扉を勢いよく開いた。
「三つ葉とソラマメとピーマンと、あとサヤエンドウ、残ってますか?」
ゼイゼイと荒い息を抑えて一気に言い切ると、椅子に座って客を待っていたらしい男子生徒が吹き出した。
「まだまだいっぱい残ってるよ」
日に焼けた顔で笑い、農業部部長の持田が立ち上がった。
「竹虎さんは絶対来ると思って、欲しそうなのまとめといたんだよ」
お得意様だからね、と持田は実習室の奥へと向かう。
今夜の食材が無事手に入りそうなことに安堵する反面、顔だけではなく目当ての野菜まで把握されていることに、アスナはふと、華の女子高生としてそれはいかがなものかと思ってしまった
(・・まあ、色気より食い気よね)
当面の食糧の方が優先、とアスナが一人うなずいていると、持田がレジ袋を二つ手に提げて奥から戻ってきた。
その袋の大きさに、アスナの目が丸くなる。
「おまたせ」
「・・こんなに、いいんですか?」
「もちろん。これでたったの五百円。お買い得でしょ?」
「お買い得、って」
いくらなんでも、とアスナが持田を見上げると、彼は心配しないでと笑った。
「実は今年は豊作過ぎてさ。
正直、タダでもいいから引き取ってほしいくらいなんだよ」
そう言って持田が目配せをして奥へと向かうので、アスナも袋と鞄を実習室の机に置き、後に続く。
畑へと続く扉をくぐると、山のように積み上げられた収穫済みの野菜がアスナの前に現れた。
「・・これ全部作ったんですか?」
「そうなんだよ。
いっぱいできるのは嬉しいんだけど、流石に売りきれなくって」
そこで、と持田は何やら得意げに畑を示した。
なんだろうと不思議に思いながら持田が示した先を見て、アスナの頬が熱くなる。
「『購買の貴公子』の手でも借りようと思って」
アスナの見つめる先では、常新学園高等部女子の間で大人気の購買部店員・根古が畑の野菜を見て周っていた。
つい数週間前に彼に恋をしてしまったアスナは、赤くなった頬を両手で隠す。
(野菜の袋置いてきてよかったぁ・・)
持田に気付いた根古が手を振りながら二人の方へと歩いてくる。
アスナに気付き軽く会釈をした後、根古は困ったように笑って言った。
「畑の方にもまだまだ残ってるね」
「やっぱり厳しいですか?」
「まあ、厳しいか厳しくないかで言ったら確実に厳しいよね。
購買ももともと野菜を売る場所じゃないから、みんながどれだけ食いついてくれるかわからないし」
一応あてはあるけど、と渋い顔をする根古に、持田も諦めるかと溜息を吐く。
「食べきれない分は捨てるしかないか・・」
「あの!」
思わず口を突いて声が出る。
緊張で動きの鈍った頭を置いて、口が勝手にしゃべりだす。
「せっかくのお野菜、捨てるなんてもったいないです!
何とかしましょう!」
啖呵を切ってから、アスナはハッと気づく。
期待のこもった眼差しを浴びて、アスナはあはは、と乾いた笑いとともに付け足した。
「・・私のクラスメイトが」
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「と言うことなのよ・・」
きまり悪そうにアスナが言うと、ツンツン頭がひょこりと動く。
放送室の本棚の下、戸棚の扉の間から顔を出して、リュウはアスナを見上げた。
「で、オレの素晴らしい戦略でどうにかしてほしいと」
「そう言うことです。お願いします」
負けん気の強いアスナが素直に認めるあたり、どうやら本気らしいと察したリュウは、どうしたものかと鼻の頭をかく。
「ぶっちゃけ言うと今忙しいんだよなぁ。
知り合いの頼みでちょっとそこら辺の山?いくことになって」
「そこら辺の・・山?」
「ん。昨日もその準備で寝るの遅くってさ。ちょー眠い」
あくびを噛み殺しながら、リュウは戸棚からチョコや飴などを掴んで鞄に入れていく。
アスナが棚の中に目を向けると、ひっそり隠しているのだろう、スナック菓子が乱雑に積み重ねられていた。
「そのお菓子は・・保存食にでもするの?」
「んーまあ、そんなとこ。ついでにストック整理でもしようかなって」
「でも『そこら辺の』山なんでしょ?」
「うーん・・まあ、念には念をってやつ?」
そう・・と少し残念そうなアスナを横目で見上げ、リュウは戸棚の扉を一度閉めた。
「売るもんは決まってるんだよな?」
「!ええ!農業部の美味しい野菜よ」
「ふーん・・忙しいからアドバイスくらいしかできないけど」
購買部に野菜か、と突っこみたくなる気持ちを抑えてリュウは続ける。
「後は、値段と場所と、宣伝方法が決め手になるんじゃね?」
「値段と、場所と、宣伝方法」
「っていっても場所もほとんど決まってるのか。
じゃあ、あとは値段と宣伝方法次第だろうな」
復唱し、メモをとりながらうなずいているアスナに、リュウは少し迷ってから付け足す。
「それとさ、野菜売るってのもどうかと思うぜ?」
「そうかな・・?
美味しくて安くて、しかも無農薬の有機栽培よ?私なら絶対飛びつくけど」
「そりゃ、委員長はそうかもしんないけど・・。
学校で野菜買ったって、そのままじゃ食えないし、持って帰んの面倒だし、どんな料理に使えるとかわかんないから何買えばいいかわかんないし」
「なるほど・・」
オレは絶対買わないね、と再び戸棚を開けたリュウの後頭部を見下ろし、アスナは少し考える。
「つまり、すぐ食べれるなら買うってこと?」
「まあ、美味いなら?」
「なるほどね・・ありがとう!
とても参考になったわ。いい案も思いついたし」
そう言って、メモとペンを鞄に入れるアスナを見ずに、リュウはせっせと菓子を選り分けながら声を掛ける。
「オレあんまなんもできないけど、頑張れよ~」
「ありがとう。ちょっと協力が必要だから、うまくいくかわからないけど」
「協力?」
「ええ・・でも家庭科部か、調理部か、どっちにお願いするかはちょっと迷いどころね」
どちらにしようかと考えながらアスナは鞄を肩にかけてリュウに背を向ける。
ふーん、と返事を返してから、アスナの言葉が引っかかってリュウの手が止まった。
「え、ちょっと待ってトラコ・・・」
「あ、そうだ。山、楽しんできてね」
リュウが戸棚の扉から顔を出した時には、放送室の扉はすでに閉じられ、アスナの姿はなかった。
早速『家庭科部か調理部』に話をつけに行ったのだろう。
聞き間違いか・・?と眉を寄せながらリュウは閉じてしまった扉を見る。
「・・・・家庭科部と調理部?両方あるのか?」
そんなことがあるのか、と首をかしげながらも、リュウは何やら考え事を始める。
そして何やらいいことを思いついたのか、にやりと笑うと、鼻歌交じりに菓子の整理を再開するのだった。
その2に続く