地獄の始まり
ここはごくごく普通の、とある一軒家の一室。カーテンは閉められ、電気さえも付いていないこの部屋にある光は、唯一パソコンのそれのみ。
そんな一室に住んでいる、引き篭もりという以外はごくごく普通の男子高校生は、頬杖をつきながら、パソコンでとあるSNSを見ていた。
「くだらねえなぁ…」
そう呟く彼の視界に映るのは、 友達がいないと嘆く同族たちや、残業の愚痴を言い続ける新社会人たちのSNS上に広がった言葉たち。しかし彼がくだらないと言ったのはどうやらそれ自体に対してではないようで。
「こんなつまんねえ社会に、一体何の価値があるってんのかね。」
そう言うと彼は、ついイライラとしてしまった気でも紛らわせようとしたのか、パソコンの隣にあるテレビの電源をつける。
『ーーえー、明日の天気は、首都圏を中心に…』
ピッ。
『ーー速報です。たった今○○県△△市で、連続殺人事件の犯人が逮捕され…』
ピッ。
『ーーこれは○○国の内戦の様子です。この映像だけでも、内戦の激しさが…』
ピッ。
『ーー未だに各国への挑発を続けている△△国に関して、新情報が入り…』
ピッ。
『ーー今後約三十年以内に再び大震災が起こる確率はなんと七〇パーセントとも言われており…』
ピッ。
しかしテレビによっても彼の気は紛れなかったのか、何度かチャンネルを変えると、すぐに電源を切ってしまった。
「くだらねえなぁ…」
そんな彼の口から出てくるのは、やはり先ほどと同じ言葉。そしてそんな言葉を吐き出した彼の顔は、暗闇でよく見えないがそれでも怒りで染まっているであろうことは想像に容易い。
「戦争に、自然災害。それらを嫌がり文句を垂れるその一般人の多くは、決して自分で行動を起こさない。そうしてまたどこかで戦争が起き、自然災害が起きて、多くの人間が死ぬ。」
そこでため息を一度吐き天井を見上げる少年の表情は暗い。どうやら彼はそんな社会に失望し、こうして引き篭もりになったようだ。
しかし何も行動を起こさない一般人を嘆きながらも、やはり全く行動を起こそうとしない彼は、こんな社会に諦めをつけてしまっているのだろうか。それともただ、自分に対しての皮肉なのだろうか。
「はぁ。こんな世界、もしも神様が本当にいるんだったら、今頃面白おかしく笑ってるんだろうな。」
そう言ってから笑いをする彼は、それまで座っていた椅子から立ち上がり、部屋の扉へと向かう。時刻は12時ごろ、おそらく食事でも作ろうとしているのだろう。
しかし彼が開けた扉の前にあったのは、普段見慣れた廊下などではなく、代わりに見えたのは数十人の老若男女と、それを囲む無数の木々だった。
「……おいおい、引き篭もりを極めすぎてついに頭でも狂っちまったのか?」
そう苦笑を浮かべる彼であったが、その瞳に余裕はない。すぐさま自分が元いた場所へ戻ろうと後ろを振り返ってみるも、そこには先ほどまで自分がいた部屋も、自分が開けた扉もない。
そんなあまりの光景に彼が絶句しかけたその時、突然上空から、無情にも声が響き始めた。
「今日は僕のために集まってくれてありがとう!それでは早速、デスゲームを始めようか!!」