1-3 鉱山へお出かけ
今回は短いです
「はうぅ、アルさまぁ~。」
作業場を出たところで金髪碧眼、後ろ髪の端をリボンで縛った気弱そうな印象の少女がメイド服に身を包みこちらに駈けてくる。
魔法の家庭教師として7年前に雇ったルジーヌの孫娘、ノーラである。
既に俺は魔術師としての自分の才能を見切っているのでルジーヌから魔術の修行は受けていない。
だが魔法以外にも様々な知識を持つルジーヌは父の相談役として重用されており引き続き雇用されている。
一方ノーラは魔術の修行を続けつつも何故か我が家でメイドとして働いていた。
俺と違って魔法の才能があるノーラは俺にとってコンプレックスの対象だったのだが、ララの加護を受けることで自信を取り戻した今改めてよく見ると、うん可愛い。
「はうっ!!」
転んだ。
めくれ上がったスカートの中に地味な下着が覗く。
これも幸運操作のおかげか、ありがとうララ様。
「痛っ!てめっ!なんで噛んだバカウサギ!」
ララはフイっとそっぽを向き普通のウサギのフリをする。
「あのう、アル様そのウサギはどうしたんですか?」
スカートの土埃を払いながらノーラが問いかける。
「今日からウチで飼う。名前はララだ」
「はぁ、畏まりました。ところでそろそろお昼なのでお屋敷にお戻りください」
「わかった、すぐ戻る。っと、そうだ。」
「はうぅ、どうかしましたか?」
「ちょっとすまん。≪ステータス・アナライズ≫」
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ノーラ・ルゥオータ
クラス:見習い魔術師 見習いメイド
Lv:1
HP:11/11
MP:15/15
力:4
魔力:11
敏捷:7
体力:4
技術:7
幸運:22
スキル:基礎魔法Lv3 炎魔術Lv6 風魔術Lv5
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幸運低っ!平均の半分以下じゃねえか。
今も転んでたし、色々危なっかしいなノーラは。
「ああそうだ、これやる」
幸運の魔石のペンダントをノーラの首に掛ける。
幸運操作あるからもういらないし。
「ふぇ?……アル様、これは?」
「俺が作った。肌身離さず持ってろ」
「は、はいぃ!一生大事にします!」
ノーラが頬を赤く染め蒼い瞳を潤ませながら俺を見つめる。
む、よく考えるとこれってアレかそういう風に受けとられるよな。
まあいいや、前世じゃ幼馴染とかいなかったから新鮮だし。
□■■■□
昼食を手早く済ませた俺は書斎へ向かう。
鉱山に行くにしてもその場所を地図で調べないとな。
流石にララを書斎に入れたら怒られそうだからノーラに預ける。
書斎へ行くと幸運な事に 鉱山の位置が分かる地図が机に置いてあった。
ノーラと遊んでいたララを捕獲し鉱山へ向かう。
町は土塁に囲まれているがもちろん幸運な事に 子供が抜けられそうな隙間を見つけたのでそこから町を抜け出すことに成功する。
気味が悪いぐらい順調である。
幸運が1万もあると本当に人生変わるね。
調子に乗った俺はわざと道を外れて鉱山を目指す。
人に会うと面倒だしどうせ適当に歩けば幸運な事に 鉱山に着くだろうと考えていると―――
「はうぅ、待ってくださいアル様ぁ~」
少し遠い声に振り返るとだいぶ後方に息を切らせるノーラの姿があった。
「ノーラ!?俺の後をつけてきたのか!?」
「はうぅ、だってアル様お一人で何処へ行かれるのか心配でぇ……」
しまった、既にかなり町から離れている。
今からノーラに屋敷に帰れと言ってもそもそもわざと道を外れて歩いてきたのだ、迷ってしまう可能性が高い。
ノーラをどうすべきか―――悩む俺の思考が唐突に中断された。
べきり。
木の枝が折れる音に反応し視線を向けるとそこにはモンスター、錆の浮いた剣を握る二足歩行の豚のような怪物の姿があった。
しかも1匹ではない。
目を凝らせば突出している1匹の後方にこちらを囲うように散開し潜むモンスターの群れ。
十数匹はいる。
「モンスター……どうして……?」
幸運効果で出会わないはずだったのに。
幸運の低いノーラがいるせいなのか!?
全く想定していなかった事態に背筋が悪寒が走る。
「はうぅ、オークですぅ!」
「グオオォォ!!」
気付かれたことで突出していたオークが忍び足をやめ雄叫びをあげながら剣を振りかざし突進してくる。
(―――――――――っ!!!)
前世の日本生活では全く無縁だった、むき出しの殺意を向けられ思考が真っ白になる。
「はあぁ、≪フレイム・アロー≫!!」
炎の魔術が発動し、ノーラがかざした短杖の先から飛び出た炎の矢がオークに直撃する。
炎の矢に撃たれたオークは全身を炎に包まれながら地面に崩れる。
怯えて固まるだけだった俺とは違いノーラは日頃の修行を生かし目の前の危機に対処したのだ。
ちなみに俺は完全に幸運頼りだったので丸腰だ。
12歳の素人の子供が武器を持ったところで何ができるとも思えないし、攻撃魔法使えないし。
ララは心ここにあらずといった風情で虚空を見つめボーっとしている。
「オオオォォ!!」
仲間が殺され興奮したオークの群れが一斉に動き始める。
まずい、流石にノーラ一人ではどうにもならない。
(どうすればいい!?俺は1万もある幸運のおかげで助かるのだろうか?)
ララの態度からすれば恐らく助かるのだろう。
しかし、ペンダント込みで幸運が72程度のノーラはどうなってしまう?
先ほどの魔法のせいでオーク達にノーラだけ狙われ殺されてしまうのか。
俺の新しい人生の半分以上、5歳の頃から付き合いのある俺を慕ってくれる少女。
彼女を目の前で殺されるなんてことは絶対に嫌だ!
だが、俺にできることは何もない。
自分の無力さに絶望し視界が涙で歪み―――いや、本当に目の前の空間が歪んでいる?
半径1メートルほどの球体状の空間の歪みが何の前触れもなく俺達とオークの間に出現していた。
「はうぅ、何が起きてるんですぅ……?」
異変に気付いたオーク達の足は既に止まっている。
ララは最初からその空間を見つめていた。
空間の歪みは脈動しながら中空の1点に収縮していき―――
突如として衝撃波を吐き出した。
「うわぁっ!」
「はううぅ!」
周囲のもの全てを巻き込む衝撃波の嵐が過ぎ去った後、歪みの発生した場所にはクレーター痕が刻まれ、その中心には一人の女性の姿があった。
2話前と同じ引きで切るって自分でもどうかと思う。