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1-1 異世界転生

南雲ユウキという日本人の人生は唐突な事故により終わった。


(……我ながら地味な人生だったなあ。)


結局俺は自分がこの世界を生きたという証を何も遺せなかった。

みんな俺のことなんかすぐ忘れてしまうんだろう。

両親は既にこの世にいない。親戚付き合いを面倒くさがった俺には特別親しい身内もいない。

人生における伴侶とも巡り合うことはなかった。子供については言わずもがなである。

パソコンのHDD?恐らく親戚の誰が中身を見ようと身内の黒歴史として見なかったことにして処分するのが妥当だろう。俺だってそうする。

それなりに人生頑張って生きてきたつもりだが、その結果が全て無意味だった。空しい。ああ空しい。本当に空しい……。





□■■■□





気が付いたら俺は転生していた。

しかも魔法ありの異世界、その名もグロリアース。

生まれ変わった俺の新しい名前はアルノート・ヴィルフェルト。愛称はアル。なんとお貴族様である。

家族構成は父、母、姉。

転生、貴族、魔法。すげえ、数え役満レベルのチート人生じゃねえのかこれ。

地球での前世では生きた証を何一つ遺せなかった人生だったが、この恵まれた環境に生まれ変わったアルノートとしてならばこの世界に何かを遺せるような―――いや、歴史にすら名を遺すことすらできるかも知れない。

そう、今まさに南雲ユウキ改めアルノート・ヴィルフェルトという男の覇道の人生が始まったのだ!




――――そんな風に考えていた時期が僕にもありました。





□■■■□





異世界に転生した俺がまず考えたのは地球の知識を使ってチート人生を送ることだ。


ところが―――


水道の蛇口、ヒーター、冷蔵庫、その他etc……。

電気ではない何らかの力―――おそらく魔力を用いているという違いこそあるもののこの世界の文明レベルはかなり高い。

少なくとも地球の中世レベルよりは高い。


(一体どうなってんだこの世界……。)


後に調べてわかったことだがこれらを発明した連中―――「天才」「傑物」「神童」などと呼ばれ歴史に名を残した彼らは確実に異世界からの転生者だと俺は推測した。

発明の年代が地球と比較しておかしいとは思うがそもそも世界が違うんだ、時代がずれて転生してる人間がいてもおかしくはないのか?

とにかく転生によって異世界の知識をこの世界に持ち込んだ先人はあらゆる分野においてその発展に大きく影響を与えているようだ。


ああ、生まれる前から先を越されているとは……。


―――異世界からの転生者といっても俺には賢い子供程度のアドバンテージしかないらしい。






□■■■□





アルノートとして転生してから数年、幼少期のとある日。

俺はこの世界の文字を勉強するため書斎に入り浸ることが日課となっていた。

今日も勉強のため書斎に入ると、父であるクラウスがなにやら大きな羊皮紙を机の上に広げている。

どうやら父も俺の存在に気が付いたらしい。微笑みながらこちらに顔を向けてきた。


「アル、これを見ろ。我がリィンベルグ王国の地図だ」


覗き込んでみると都市や町の繋がりを線で示した簡易な地図が書かれている。鉄道の路線図そっくりと言えばわかりやすいか。

防衛上の理由で精密な地図を閲覧できるのはこの国でもごく少数の人物に限られているのだろう。


「ここが我が国の首都、アルムシュタットだ」


父の指先がある一点を指さす。国の首都だけあって周辺都市と結ぶ線が密集しておりまるで蜘蛛の巣の中心部のようだ。


「そして我がヴィルフェルト家の領地は―――」


指先が蜘蛛の巣の中心部からつつっと外周へと滑り―――


「―――ここだ」


最も外縁部、国境と思われる山脈と接する一点を示して止まった。

ド田舎じゃねえか。


「父上。我が家の領地は他の領地には無い魅力みたいなものはあるのでしょうか?」


「うむ、我が領地の特色といえば山脈にある鉱山だな」


おお、鉱山か。もしかして我が家って意外と金持ちだったりする?


「まあ採掘できる鉱石が色々と問題で経営は非常に苦しいがな」


貧乏だったわ。いや待て、国境なら隣国との貿易とか関税とか期待できないのか?


「山脈の向こうにはどんな国があるのですか?」


「山の向こうに国は無い。恐ろしい魔王が支配する魔族領と呼ばれている」


何それ怖い。ドン引きした俺の顔を見て父が再び微笑む。


「何、恐れることは無い。ここ数十年、小競り合いこそあれど魔王が直接攻めて来た事などないのだからな」


フラグ建てるんじゃねえ親父。田舎、貧乏、魔王……。


―――どうやら俺の貴族としての将来も前途多難であるようだ。






□■■■□





このままでは将来何の取り柄も無い大人になってしまう!


焦った俺は5歳の誕生日に両親に頼み込み泣きついた末、なんとか魔法の家庭教師を雇ってもらうことに成功した。

やってきた魔法の教師はルジーヌという老婆だった。

若くて美人のお姉さん的なものを期待していなかったかと言うと嘘になるが文句は言うまい。


さて、魔法の修行を受けるに当たって特筆すべきことがある。

実は授業を受ける生徒は俺一人ではく他に二人いる。


一人目は姉のヒルデガルト。愛称はヒルダ。俺から見て2つ上の7歳の我が姉上は別に魔法を習うことに対して積極的な訳ではない。

安くない金額を払って魔法の家庭教師を雇ったのだからお前も一緒に受けろと両親に勧められただけである。


そしてルジーヌの孫娘のノーラ。

もうすぐで俺と同じ5歳の誕生日を迎えるとのことで、本来は5歳になってから覚えさせる予定の魔法を俺の授業に合わせるために少し前倒ししたらしい。


で、肝心の魔法の授業。


この世界の魔法の原理うんぬんは置いておくとしてヒルダは水と土、ノーラは火と風の魔法に高い適正を持っていた。

対して俺が使えるのは属性の無いいわゆる基礎魔法のみ。ちなみに俺が使える魔法は他の二人も当然使える。

この結果について教師であるルジーヌいわく


「アルの坊やは魔術系より法術系に適正があるのかも知れんの」


とのことだった。この世界では火、水、風、土の4属性の魔法を扱う者を魔術師、聖と闇の2属性の魔法の場合は法術師と呼ぶそうだ。ルジーヌは魔術師である。

法術系の魔法を習いたい場合は基本的に神殿で教わるそうだが前世が日本人の俺としては宗教団体とは関わりを持ちたくない。


―――結論、俺には魔法使いとしての道も絶望的なようだ。


転生、貴族、魔法。結局どれも俺がこの世界で飛躍するための原動力とはならないらしい。


俺の将来が不安でしょうがない。





□■■■□





そんなこんなで12歳を過ぎたある日。


今日の俺は、屋敷の離れの作業場でアクセサリを制作するという内職みたいな作業をしていた。

何でそんな事をしているのかと言うと、一言で云えば我が家の家計のためである。

我がヴィルフェルト領の収入源は鉱山である。


(鉱山持ちといえば金持ちのイメージが強い、俺だって最初はそう思ったさ。残念ながら我が家の鉱山は違うけどな。)


まず立地が悪い。鉱山の場所が魔族領との境界である山脈にあるためモンスターに遭遇する危険性が高いのだ。

とはいえ採掘できる鉱石が希少で価値ある物ならば護衛を雇えば良いだけだ。それだけの価値があればの話であるが。

我が鉱山で採掘されるのは魔石と呼ばれる鉱物である。外見は色の付いた石で宝石としての価値は皆無。

だが魔石には身に着けることで着用者の能力を高めるという特性がある。

例えば赤の魔石は力を高める効果があり、紫ならば魔力、緑は敏捷、黄色は体力、青は技術が高まるのだ。

魔石は非常に高値で取引されるため、これが採掘されれば我が家は大金持ちなのだが我が家の鉱山で採掘される魔石の大半は『ハズレ石』なのである。


―――『ハズレ石』。それは白い色の魔石である。他の魔石と同様に僅かな魔力を含んでいるのだが身に着けても何の効果もない石である。

我が家の鉱山で「当たり」の魔石目当てに採掘される魔力を含んだ原石から得られる大半の魔石は『ハズレ石』だ。

多少は魔力を含んでいるためハズレ石を冷蔵庫などの魔道具の動力源として利用することもあるがそれは非常時に限った話である。

魔道具の動力源としては専用の多量の魔力を含む魔結晶という物がモンスターの死体から取れるためぶっちゃけ効率が悪いのだ。

そんなわけでほとんど利用価値のない『ハズレ石』は処分するあてもなく我が家の作業場に山積みされている。

一方、僅かながら採掘された『当たり』の魔石だが大きいものは一流の職人の手で加工されたほうがより価値が出るためそのまま輸出される。

小さい魔石はそのまま輸出するより加工してアクセサリにした方が価値が出るため領内で加工する。

この魔石アクセサリを作成するのが我がヴィルフェルト領の伝統工芸であり、貴族の父ですら雪で道が閉ざされ暇になる冬の季節は家計のために内職しているという有様だ。

魔法の才能もないと分かった今、将来のために何か手に職をつけておくのも悪くないだろうとアクセサリ加工の練習をしているのが俺の現在の状況である。

幸いここには大量の『ハズレ石』があるため練習材料としてはうってつけだ。


「これだって『ハズレ石』じゃなきゃひと財産になるんだけどなあ〜。」


愚痴りながらも完成させたペンダント。これに使われている『ハズレ石』は山積みの中から見付けた最も大きな石だ。

とりあえずペンダントを自分の首に掛け、魔法を唱える。


「≪ステータス・アナライズ≫」


俺が使用可能な数少ない魔法の1つであり、文字通り対象の能力を視る魔法が発動し、頭の中に文字が浮かび上がる。


―――――――――――――――

アルノート・ヴィルフェルト

クラス:下級貴族 見習い細工士

Lv:1

HP:14/14

MP:7/8

 力:6

魔力:7

敏捷:8

体力:5

技術:8

スキル:基礎魔法Lv3 彫金細工Lv2

―――――――――――――――


「ん〜。やっぱり何も変化しないか」


実際『ハズレ石』でも魔力を含んでいるわけだし、一番大きい石を使っただけに何かステータスに変化が出ないかと期待していたんだけどな。

ちなみにLvとかHPとかまるでRPGみたいな数値の存在に突っ込むのは野暮だ。そういう世界なんだからしょうがないよね。


「まあ、せっかく作った物だしこのまま身に着けておくか」


作業場を片付けようと腰を上げようとするが、よろめいて『ハズレ石』の山の手前で手をついてしまい四つん這いみたいな姿勢になる。

どうやら思っていた以上に長時間作業で疲労していたらしい。


「いかんいかん……は?」




顔を上げると目の前にある『ハズレ石』の山が光っていた。しかも光はどんどん強さを増していく。


やがて光は目を開けていられないほどの輝きになり視界がすべて真っ白に染まり―――





―――光が収まった気配を感じ瞼を開くと『ハズレ石』の山が綺麗さっぱり消滅している。




代わりに何故かウサギが一羽いた。



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