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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.15 ラモナ島編

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01 王の決断、動き出す戦火


 謁見の間は、異様な静けさに包まれていた。

 高窓から差し込む午後の光は、昨日と変わらず柔らかい。だが、空気は明らかに違う。重く、張りつめ、逃げ場がない。


 玉座の前に立つのは、俺、セリーヌ、レオン、シルヴィさん、アンナの五名。

 ブリュス・キュリテール討伐の正式な報告を終えた翌日。本来なら、王都を発つ準備に入っていてもおかしくないはずだった。


 それでも、俺たちは再びこの場に立っている。


 形式上の儀はすべて終わっている。

 にもかかわらず王が改めて時間を設けた理由は、ひとつしかない。


 昨日は話さなかったことがある。

 いや、話せなかったことがある。


「改めて、時間を取らせたことを詫びよう」


 ヴィクトル王が静かに口を開いた。

 その声に、儀礼の温度はない。


「そなたたちが、ただの凱旋報告のために戻ってきたのではないことは察している。話せ。今度は、余さずだ」


 視線が、まっすぐ俺を射抜く。


 一歩、前へ出る。

 膝は折らない。背筋を伸ばし、王と正面から向き合った。


「陛下。これよりお話しする内容は、王国のみならず、世界全体に関わるものです」


 周囲に控える近衛兵たちが、わずかに身構える気配が伝わってくる。


「敵の首謀者は……フェリクスです」


 言葉を置いた瞬間、謁見の間の空気が変わった。

 近衛兵長であるベルナールさんの目が、驚きに見開かれている。


「断罪の剣聖、フェリクス・ラグランジュのことで違いないか? 火災で亡くなったと報告を受けているが……」


「はい。生存を確認しております。それだけではありません。彼は現在、“終末の担い手”を名乗る一団を束ねる存在です。凶王(きょうおう)として、六凶星(りくきょうせい)と呼ばれる幹部を従えています」


「六凶星……」


 王の眉がわずかに寄る。そこへ、シルヴィさんが一歩進み出た。


「個々が国家転覆級の戦力です。すでに数度交戦し、こちらも被害を出しています。単なる反乱勢力として扱える規模ではありません」


 王は黙したまま顎に手を当てる。


「思想か」


「はい」


 続いて、セリーヌが口を開いた。


「彼の者たちの目的は、世界の均衡を壊すこと。その中核にあるのが、理力の宝珠です」


 老臣のひとりが息を呑む。


「理力の宝珠?」


「はい。本来は聖地で保管されるべき、世界の(くさび)です。現在、それをフェリクスが所持しております」


 王の目が細くなる。


「放置すれば、どうなる」


「魔獣の凶暴化が加速いたします。最悪の場合、世界規模での崩壊に至ります」


 脅しではない。セリーヌは事実だけを並べた。


「時間は」


 ヴィクトル王の視線が、まっすぐ突き刺さる。


「ほとんど残っていません。相手の脅し通りであれば、猶予は六日です。期日内にラモナ島へ来ることを要求されています」


「そこは、いかような場所だ」


 俺はアンナへ視線を送る。

 あの島を直接見たのは、彼女だけだ。


「息をするだけで喉が痛む場所でした。地面は裂けて断崖だらけ、谷の底も見えません。人の痕跡はなく、魔獣が徘徊しています。大きさに関係なく、すべてが獰猛でした。はっきり言って……あそこは人が踏み込む場所じゃありません。魔境です」


 王が低く唸る。


「人が住めるとしたら、地下だと思います」


「なるほど」


 王はすべてを悟ったように頷いた。


「そのための、王国軍と船というわけか」


「はい」


 迷いはない。


「冒険者だけで対処できる段階は、すでに越えています」


「加えて」


 レオンが口を開く。


「フェリクスは、かつての英雄だ。事実を伏せたまま決戦に臨めば混乱が生じる。それは王国にとっても致命的だ」


 王は静かに立ち上がった。


「よかろう」


 謁見の間に、張りつめた気配が走る。


「王国軍だけではない。冒険者ギルドにも協力要請を出す」


 そして、俺たち五人を順に見据えた。


「ラモナ島攻略は、王国の名のもとに行う。そなたたちは、その先鋒だ」


 一拍の間があった。


「責任は、すべて余が負う」


 俺は深く頭を下げた。


「感謝します、陛下」


「感謝など不要だ」


 王は首を振る。


「これは王の責務だ。人の世界を守るための戦いでもある」


 こうして、歯車は静かに動き出した。


※ ※ ※


 王城を後にし、跳ね橋を渡りきる。

 張りつめていた空気が、ようやく緩んだ。


 眼下に広がる王都の街並みには、夕刻前の風が吹いている。

 それでも、しばらく誰も口を開かなかった。


 最初に息を吐いたのは、アンナだ。


「やっと言えたね。すっきりしたよ」


 肩の力を抜き、苦笑する。


「正直、王に話すのが一番怖かった」


「当然だ」


 俺のつぶやきに、レオンが短く返してきた。


「隠したまま行く方が、よほど無責任だ」


 その声音には、いつもの刺はない。

 覚悟を決めたあとの、乾いた落ち着きがあった。


 シルヴィさんは黙ったまま、王城を振り返る。

 視線は高く、遠い。


「王国軍が再び動くのね」


 ぽつりと漏れる。


「もう、後戻りはできませんね」


 セリーヌは俺の隣を静かに歩いている。

 穏やかな表情の奥に、わずかな硬さが残っていた。


「怖いか?」


 声を掛けると、小さく首を振る。


「いいえ」


 間を置き、続けた。


「ですが……重いですね。守るべきものが、増えた気がいたします」


 胸の奥が、わずかに締まる。


 英雄としてではない。

 称号を持つ者としてでもない。

 ひとりの人間として背負う重さ。


 それを、彼女はすでに理解している。


「行こう」


 街を見下ろし、言葉に力を込めた。


「決戦はラモナ島だ。俺たちが止める」


 誰も反対しなかった。


 夕暮れの王都は、いつもと変わらぬ喧騒に包まれている。

 だがその足元で、確実に戦争の歯車が噛み合い始めていた。


 歩を進めながら、後ろのシルヴィさんに声をかける。


「明日から、俺とセリーヌはマルティサン島です。留守をお願いします」


「せわしないのね」


「ここからは時間との戦いですから」


 笑みを向ける。


 もう、逃げ場はない。

 それでも俺たちは、前へ進むしかない。

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