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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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57 碧色閃光・天壊竜撃


「王都の復興も順調だな」


 久々に訪れた街並みを眺める。

 ブリュス・キュリテール討伐を終えた今、この景色は以前よりも強く目に焼き付いた。


 魔獣の襲撃で焼け落ちた区画は、すでに再建を終えている。石畳は磨き直され、人々の足取りにも活気が戻っていた。


 復興は、まだ途中だ。

 それでも、この国は前へ進んでいる。そう思わせる力が、街全体に満ちている。


 王城へ招かれたのは、俺、レオン、シルヴィさん、アンナ、セリーヌの五人だけだ。


 兄はいない。

 今頃は、マルクさんの解毒方法を求めて動いているはずだ。


 ナルシス、エドモン、そして弟子たちも付いている。何の心配もない。


『王が直々に謝罪したいと申し出てくださっているそうだけれど、済んだ話さ。過去を振り返るより、今やるべきことがある。そっちの方がよほど大切だからね』


 そう言って、兄は笑っていた。


 王に対して言いたいたいことは、山ほどあるはずだ。差し向けられた刺客が、兄たちの人生を大きく変えたのは言うまでもない。


 それでも前だけを見ている。

 兄の背を見送りながら、何も言えなかった。


 王城アヴィレンヌは、遠目には白亜の威容を取り戻していた。

 だが、近づくにつれて、それが完全ではないと知る。


 外壁には削りきれなかった爪痕が残り、補修された石だけがわずかに色を違えていた。


 門をくぐると、鉄と油の匂いが鼻を突く。武具の手入れを終えたばかりなのだろう。

 平時なら、香の香りが満ちているはずだ。


 広い廊下。高い天井。

 だが、装飾は最小限に抑えられていた。


 壁掛けは減り、代わりに戦死者の名を記した木札が、控えめに並べられている。

 この城は、まだ喪に服している。


 すれ違う兵士たちは、俺たちを見ると静かに足を止め、拳を胸に当てて頭を下げた。


 敬意と感謝。そして期待。

 そのすべてが、重く視線に乗ってくる。

 足音だけが、石床に乾いた音を響かせる。


 レオンはこんな時でも平然としている。

 シルヴィさんは表情を崩さず進み、アンナは少し緊張した様子で背筋を伸ばしていた。


 この三人も、今回の戦功によってランクLへと昇格した。

 名実ともに、最前線に立つ存在だ。


 セリーヌは前だけを見据えている。


 ここがただの城ではないことを、全員が理解していた。


 やがて、大きな扉の前で足を止める。

 装飾は控えめだが、木目の奥に歴史の重みが染み込んでいるのがわかった。


 ここが、王国の中枢。


 扉が開かれ、謁見の間へと通された。

 広い玉座の間には、必要最低限の者しかいない。


 左右に近衛兵が二名ずつ。槍を立て、直立している。


 そして玉座の傍。王の半歩後ろに、ひとりの男。

 近衛兵長ベルナールさんだ。


 青の軽量鎧に身を包み、兜は付けていない。静かな視線で全体を見渡している。

 この場の警護を一手に引き受けていると、一目でわかった。


 視線が合い、軽く会釈を交わす。

 フェリクスのことを案じていた人だ。真実を知れば、どれほどの衝撃を受けるか知れない。


 玉座の後方には文官たち。

 痩せた老宰相と、軍務を司る壮年の大臣。さらに一歩下がった位置で、記録官が羊皮紙を抱え、羽ペンを構えていた。


 王との謁見は、簡素だった。


 豪奢な式典ではなく、報告と確認を目的とした場。それが、今の王国に許された現実的な形なのだろう。


 玉座に座るヴィクトル王は、年齢以上に疲れを滲ませていた。

 それでも、その目は揺らいでいない。


「魔獣ブリュス・キュリテールの討伐、大義であった。王国を代表して礼を言う」


 短い。だが、重い言葉だった。


 宰相が静かに頷き、記録官の羽ペンが走る。


 近衛兵長は、微動だにしない。


 功績の報告が進み、俺の名が呼ばれ、次にセリーヌの名が挙がる。


「セリーヌ殿。そなたの戦果は、王国軍の正式な記録として残される。前回は、二つ名の授与を保留にされたが……此度こそは受け入れてくれるだろうか」


 セリーヌが一歩前に出た。

 背筋を伸ばし、唇を引き結ぶ。


「恐れながら……お願いがございます」


 澄んだ声だった。


「私に授けていただく二つ名は……『天壊(てんかい)竜撃(りゅうげき)』を」


 一瞬、空気が張り詰める。


 脳裏に浮かぶのはイリスの姿だ。


 彼女の活躍を目の当たりにすることができなかった。それは大きな心残りだ。

 彼女は、セリーヌを庇って命を落としたと聞いている。俺にとっても恩人のひとりだ。


 俺が、もう少し早く到着していれば。

 あの夜から何度も胸をよぎった後悔だ。


 天壊の竜撃。それは、イリスからセリーヌに託された想いの象徴だ。


 記録官がペンを止めた。近衛兵長の視線が、ほんのわずかにセリーヌに向く。


 王は静かに頷いた。


「承知した。ここに、セリーヌ殿を『天壊の竜撃』と認める」


 羽ペンが再び走る。

 王はそれを見届け、こちらへ視線を向けた。


「碧色の閃光と天壊の竜撃。規格外れの強さを持つおまえたちなら、この先いかなる困難があろうと乗り越えられるだろう」


 胸の奥に、熱が灯った。


 そして、王は深く頭を下げた。

 玉座にある者が、臣下ではない相手に。


 それでも、誰も止めない。


「最後に……謝罪をさせてほしい。先代が闇ギルドを通じ、神竜剣を狙わせた件。ジェラルドに対する不当な仕打ちであった。先代に代わり、非礼を詫びる」


 それは王個人ではない。

 この場にいるすべて、王国そのものの意思だった。


「バティスト一家には、可能な限りの補償を約束する」


 宰相が進み出て、一礼する。

 それが、王国としての確約だった。


 それで十分だった。

 過去は消えない。だが、向き合おうとする姿勢が、確かにそこにあった。


 俺は一歩進み、要望を伝える。


 ラモナ島。


 決戦の地。


 兵と、ありったけの船を。


 軍務大臣が口を開こうとしたが、王が手で制した。


 ヴィクトル王は即答しなかった。


 わずかな沈黙。


「二十億ブラン。約束の報酬は、すべて支払う」


 王の声が、静かに広がる。


「そして……王国軍は最後まで共に戦う」


 その言葉は、責任と覚悟を伴って、謁見の間に深く響いた。

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